聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

文字の大きさ
6 / 165
番外編

クリスマスSS②

しおりを挟む

 浮島 椿の親友、御上 空は毎年その時期になると不思議に思うことがあった。
それは、椿についてのことだ。

 『ねえ空ちゃん。“良い子”って、どうやったらなれるのかなぁ』

 冬の寒空を見つめながらそう尋ねてきた親友の横顔は夢に出てくるほど、印象的だった。
見たことがないくらい、悲しそうで、寂しそうな表情だったからだと思う。



 高校生になっても、大学生になっても、親友は『サンタクロース』を信じていた。
彼女は人一倍純粋で、真面目だから、親御さんに上手いこと騙されているのだろう。

言い方は悪いけど、正直最初はそう思っていた。

 でも。

 『え?空ちゃん、サンタさんにプレゼント貰えるの?しかも毎年!?凄い!!そっか~そうだよね、さすが空ちゃん!私の親友は“良い子”だもん!』

 椿は心底嬉しそうにそう言ってくれた。
確か、高校2年の冬のことだったと思う。
高校2年生にもなってサンタクロースを信じているという希少な少女が親友であったという事実に驚きつつも、彼女の夢を壊すまいとサンタクロースが実在するという前提で話した。
そんな時、ポツリと彼女は呟いた。

 『ねえ空ちゃん。“良い子”って、どうやったらなれるのかなぁ』

 おかしいと思った。

よくよく聞いてみると、彼女は『サンタクロース』にプレゼントを貰ったことがないのだと打ち明けてくれた。それを聞いてまた、おかしいと思った。

本人には買い被りすぎだと否定されたけど、私は椿以上に“良い子”はいないと思っていた。
それに、『サンタクロース』なんて実在しない。
『サンタクロース』は子供を持つ親がなりきるものだ。つまり、椿の両親は娘にプレゼントをあげていないということになる。

 いや、まさか。
だって彼女は家族と大の仲良しのはず。
きっと親御さんはサンタクロースとしてではなく、家族として、彼女にプレゼントをあげているのだろう。

 高校2年生だった私は、それで納得した。

 でも、毎年毎年、不思議に思った。
理由は二つ。
どうしたら“良い子”になれるのかと問うてきた時の彼女の表情が引っかかったのが、一つ目。

 もう一つは…。

 『えぇ!これ、私に?』

 『うん!椿にはいっつも助けて貰ってるし、そのお礼のクリスマスプレゼント!』

 『クリスマス…プレゼント?』

 『うん、そうだよ!って、な、何で泣くの?ちょっと椿!?何?何か嫌だった?ごめん!』

 『ごめ…ちがうの、嬉しくて……。ありがとね』

 高校三年生の冬のクリスマスに、何故か椿が嬉し泣きをしたから。

 ねえ椿。
 クリスマスプレゼントくらいで、どうして泣くの?



 ◇ ◆ ◇

 

 「もうすぐクリスマスですね!」

 ティーナがそう言ってきたのは12月も半ばに差し掛かった頃のことだ。私は頷く。

 「うん、そうだねぇ。と言うか、ゲームの世界なのにクリスマスという概念があるとかホントびっくり」

 「それはまぁ…ゲームですからね」

 穏やかに微笑むアルカティーナに、リサーシャも自然と頰を緩める。
 
 「わたくし、前世ではサンタクロースを信じていたのですよ…って言ったら、びっくりします?」

 突然の言葉に、私は瞠目した。

 「いや…正直、そうだろうなぁって思った」

 だってティーナってば、のほほんってしてるしぽわーんとしてるし天然さんだし。

 「そうですか?まぁでも、信じていたって言うよりかは、信じようとしていたってところですけどね」

 「えっ!そうなの?ってことは何?薄々サンタクロースがいないってわかってはいたってこと?」

 アルカティーナは静かに頷いた。

 「サンタクロースって、日本には関係ないと思いませんか?」

 「うん、キリスト教徒少ないしね」

 「でしょう?でも日本の子供は毎年サンタクロースにプレゼントが貰えるのです。何故だかわかりますか?その子供の親が、我が子の喜ぶ顔を見たいからです」

 その通りだろう。
キリスト教徒でも何でもない多くの日本人が毎年子供に夢を与えるのは、親達のそういった思いがあってこそのことだろう。

 「わたくし、前世ではサンタさんからプレゼントを貰ったことがないのです。それはつまり……そういうことでしょう?」

 悲しそうに笑うアルカティーナを見て、私まで悲しくなってきた。

 「両親がわたくしを疎ましく思っているのは理解していたのですが、でもやっぱり、親ですからね。プレゼントが貰えないのは自分が良い子にしてないからだって考えた方が気が楽だったんです」

 「だから、信じようとしていたってこと?」
 
 「そういうことです」

 「そっか……そうだったんだぁ……」

 語尾が、震えた。

 「ぅえ!?ちょっとリサーシャ!?何で?何で泣くのですか!?」

 必死な表情でハンカチを片手にアワアワと駆け回るアルカティーナに、聞いてみる。

 「ねえティーナ。今ティーナは、サンタクロースを信じようとしていたりするの?」

 アルカティーナは、満面の笑みで答えた。

 「するわけ無いじゃないですか!」

 きっぱりと自信満々にそう告げたアルカティーナを見て、リサーシャの瞳からまた涙の粒がポタポタと零れ落ちた。

 ーー椿が幸せそうで、よかった。

 頭の中で、聞き覚えのある誰かの声が微かに聞こえた気がした。
 

 ◇ ◆ ◇


 そう言えば、浮島 椿としての人生でクリスマスプレゼントを一度だけ貰ったことがありましたっけ。
アルカティーナはハンカチをリサーシャの目尻に添えながら、過去の記憶を思いおこした。

 人生で最初で最後だった、人からもらったクリスマスプレゼント。
 凄く凄く、嬉し過ぎて泣いてしまって。
空ちゃんを困らせちゃったんでしたよね。

 「ねえティーナ。今ティーナは、サンタクロースを信じようとしていたりするの?」

 涙目で、リサーシャが聞いてきました。

 そんなの、即答です。

 「するわけ無いじゃないですか!」

 空ちゃん、お元気ですか。
わたくしは今、幸せです。

 途端、リサーシャの瞳から滝のように涙が溢れ出した。
 
 
しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

処理中です...