聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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学園編

え……そんな、お構いなく…

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 ゼンと何気無い会話をしていたら、ゆっくりと馬車が停まりました。

 「着いたみたいだな」

 チラリと外を見てみると、立派な校門らしきものが目に映った。アルカティーナは流石ゲームの世界だと思いつつ、馬車を降りる。
校門前には同じように到着したばかりの生徒の馬車が並んでおり、校内には既に新入生と思しき人影も大勢見える。今更ながら緊張して固まっていたアルカティーナに、ゼンが後ろから声をかけた。

 「参りましょう、お嬢様」

 ゼンの社交用の口調に、アルカティーナは気を引き締めた。
 これからはもう、ゲームが始まるのです。初っ端から気後れしているようでは先が思いやられます。
 
 「はい。そうですね」

 いつも通りの笑みを浮かべてそう返答すると、ゼンは安心したように微笑んだ。

 
 ◇ ◆ ◇


 おかしい…おかしいです。
どうしてこんなに見られているのでしょうか?

 入学式会場である講堂へと到着したアルカティーナは、歩みを進めながらも内心ビクビクしていた。
校門をくぐってからというものの、何故か周囲からやたらと向けられる熱い視線の数々…自分の方をチラチラと見てはヒソヒソと噂話をする生徒達……アルカティーナにはその原因がわからなかった。
暫く考えたのち、アルカティーナは一つの考えを導き出した。

 ああ、わかりました。
皆んなが見ているのはわたくしではなくて、ゼンなのでしょう。ゼンは格好良いですからね!

 確かにそれも原因の一つではあるのだが、自分自身の存在が原因のほとんどであるという事をアルカティーナはまったくもって理解していなかった。


 それはさておき、アルカティーナ達は講堂内にある受付へと向かっていた。
新入生は講堂内に座席が用意されているのだが、それらは全て指定席なのだ。受付で名前を言うと、自分の席の位置まで案内してもらえるらしい。
流石はセレブばかりの通う学園だ。
しかし、講堂の一番端に位置する受付まで辿り着くと、そこには案内を待つ生徒達が列をつくっていた。どうやら混み合っているらしい。アルカティーナは大人しく列の最後尾に並んだ。が………

 「ああああアルカティーナ様!?!?ど、どうぞ!順番お譲りします!勿論お連れ様もご一緒に…!」

 「え……そんな、お構いなく…」

 アルカティーナの前に並んでいた生徒が顔を真っ赤にしながら順番を譲ってきた。当然、申し訳なく思ったアルカティーナは断ったのだが、次々と順番を譲ろうとする生徒が現れ、断るに断れない。

 「どうぞ、抜かしてくださって結構です!」

 「さあさあ前へ!」

 「ぇえ…?そんな、皆様せっかく並んでいらしたのにわたくしに譲って下さらなくても…」

 「アルカティーナ様、何とお優しい…!ですが大丈夫です!遠慮せず前へどうぞ!!」

 「たった今私は空気になりました!空気を抜かしても何の問題もございませんよアルカティーナ様!」

 「僕は蝶になりました!」

 「わたくしは風ですわ!」

 終いに、生徒達は意味不明な事を叫びながら最後尾の方へと走り去って行くようになった。
 結局、並んでいた生徒全員に前へと押し出されてしまったアルカティーナは、最後尾に並んでいたはずがいつの間にやら一番前になっていた。

 「あの…皆様、ありがとうございます」

 何故そこまでして譲ってくれたのはわからなかったが、寄せられる好意が純粋に嬉しかったアルカティーナは笑顔でお礼の言葉を告げた。

 その瞬間こそが、『アルカティーナ・フォン・クレディリア様 ファンクラブ』がまことしやかに結成された瞬間であった。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 崇拝者の多いアルカティーナ。
学園では高嶺の花になりそうですね(๑>◡<๑)
ですが、そんなアルカティーナをよく思わない人物が現れるのが、小説の醍醐味というものです!
とは言ってみたものの、別に次回そういうキャラが登場するとかではないです笑笑
 
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