聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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学園編

顔が赤いですが、熱でも?

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 「すみません、アルカティーナ・フォン・クレディリア様はいらっしゃいますか?」

 か細くて不安げなその声は、まさしくヒロインらしい、可愛らしいものだった。
アルカティーナは目の前の美少女ことヒロイン、ロゼリーナ・アゼルをみつめながら先刻の出来事を思い出す。

 あれは、放課後のことだった。
帰る身支度をしているところに、彼女はやってきた。そして冒頭の、あのセリフである。
「いらっしゃいますか?」と問われて「いますぅえーん」と言えるわけもなくーー正直、死亡フラグを立てそうで怖いので近づきたくないのですがーー素直に「はい、私に何かご用ですか?」と返事をしてしまったのである。
 その後、「折り入ってお話が」と言われたのだが、相手がヒロイン様である以上教室で話すのが怖かったため、アルカティーナの部屋で話をすることになった。そして、何故かはわからないがヒロイン様もそれに喜んで賛成していた。どうやら人には聞かれたくない話らしい。
そこでアルカティーナは彼女を部屋に入れたのだが……。

 ロゼリーナは、招かれたアルカティーナの部屋にて、口をヒクヒクと引きつらせていた。
原因は何を隠そう、目の前にいるアルカティーナ以外のもう1人の存在だ。

 「あの、アルカティーナ様……」

 「はい?どうかなさいましたかロゼリーナ様。あっゼン、それはわたくしのお茶菓子です!取らないでくださいっ」

 「ん?あぁ悪い。でもクッキーの1枚や2枚、良くないか?」

 「よ、く、な、い、です!」

 ぷうううう~と頰を膨らませて怒るアルカティーナに、ゼンは噴き出す。アルカティーナは本気で怒っているつもりなのだろうが、その表情は全くもって怖くない。

 「あの、アルカティーナさ……」

 「まぁそう怒るな。よしよし、代わりに俺のクッキーを1枚やろう」

 「わぁ!ゼンありがとうございます!ってあれ?ゼンはわたくしからクッキーを1枚とったから、今わたくしが1枚もらってもプラマイ0なわけで、ありがとうも何も無いような気がするのですが…美味しいから良いです!むふふふ……」

 貰ったクッキーをサクサクと齧るアルカティーナ。それを微笑ましく見るゼン。
そして、完全に存在を忘れられているような気がしてならないロゼリーナ。

 ーーちょ、この人前に見た…!やっぱり格好良い…じゃなくて!!!!

 ロゼリーナは、声を張り上げた。

 「アルカティーナ様っ!!」

 勢いおく立ち上がったため、テーブルの上におかれたティーカップが僅かに音を立てる。

 「わ、す、すみませんロゼリーナ様。何でしょうか?」

 キョトンとしたアルカティーナに、ロゼリーナはますます声を張り上げる。

 「何故、女子寮に男性がいるのですか!まさかとは思いますが、貴方は変た…」

 「「違います」」

 食い気味に否定の言葉を口にしたアルカティーナとゼンだったが、それでもロゼリーナは納得できない。

 「それは良かった…。でも、だとすると貴方は一体…」

 訝しげに首を傾げたロゼリーナに、ゼンが型にはまったお辞儀をした。

 「初めまして、ロゼリーナ・アゼル様。自分はアルカティーナ様の護衛役で、ゼンと申します。以後お見知り置きを」

 「よっ…ょろしくお願い、します。私は、ロ、ロゼリーナ・アゼルと申しまして…あの、その…」

 俯きがちに返事をし、かつしどろもどろな挨拶をするロゼリーナに、ゼンは顔を近づける。
 
 「大丈夫ですか?顔が赤いですが、熱でも?」

 「ぃっぃぃぃいいいええええ!大丈夫ですっ!はいっ!」

 ズザザザザッと音がしそうなくらい素早く後ずさったロゼリーナは、内心バクバクだ。

 ーー無理無理無理近い近い近い近いぃぃぃっ!!

 その一方アルカティーナは、挙動不審なロゼリーナを見兼ねて、ゼンを退室させそうとし始めた。
ロゼリーナは女子寮にいるゼンに警戒しているに違いない、と勘違いしたのだ。

 「あの、ゼン?わたくしロゼリーナ様とお話があるので、今日はもう帰って…」

 「だからそれはさっきも言っただろ?今は学年始めなんだから少しは警戒しろって…」

 ーーふむ、矢張りダメですか。ゼンは真面目ですねぇ。そりゃあわたくしだってゼンがいないと不安ですけども。

 アルカティーナは考えた。
どうしたらゼンを退室させることができるのか。どうしたら彼を上手く丸め込めるのか。
考えて考えて、考えた結果。

 「あぁっ!なんてこと!見知らぬ猫ちゃんが見えた…ような…気が…するなぁ…」

 「何っ!?どこだ!」

 「学園の裏口あたりの植木……かも……」

 「よしわかった行ってくる」

 結局、いつものパターンである。

 「ふっ、ゼンも学習しませんねぇ」

 学習しない云々に関してはお前が言うなという話だが、一先ず、アルカティーナは部屋の隅で硬直しているロゼリーナを振り返った。

 「…ぇ。何、いまの」

 目を見開いたまま呟いたロゼリーナに、アルカティーナは微笑みを返す。

 「ふふ、気にしないでください。ゼンは愛猫家なのですよ」

 「へぇ…そうなんですね」

 「はい、意外でしょう?それより此方へどうぞ?一緒にお茶でもしながらお話ししましょうか」

 おいでおいでとロゼリーナを招くアルカティーナは、ファンクラブができるのも納得の可愛らしさである。
本人にその自覚は一切ないが。

 「あ、はい。ありがとうございます」

 一瞬見惚れたのち、我に返ったロゼリーナは言葉に甘えて椅子に腰掛けた。
紅茶を一口含んだところで、アルカティーナは早速本題を切り出す。

 「それで、早速ですがロゼリーナ様。今日は一体何のご用です?」

 アルカティーナは続いて、先程ゼンに貰ったクッキーを口に運ぶ。サクサクと木の実を囓るリスのように、クッキーを頬張った。

 「それなんですけど…アルカティーナ様。貴方は転生者、ですよね?」

 アルカティーナは、リスのまま、固まった。

 「……ふぇ?」


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 
 さて、どうするティーナ!
というわけで次回はヒロイン様視点です。


 
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