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学園編
貴方の力は借りません
しおりを挟む「ふふ、ふふふふっ。斜め45度……っ!!あぁ、やっぱりこの角度が最高ね。上目遣いで小顔アピールもいいけど」
「…………………………………………」
鏡に壁ドンをしながら、恍惚と呟くロゼリーナに、アルカティーナは声を掛けられずにいた。流石のアルカティーナも、ドン引き状態である。
「私って本当、罪深いなぁ。こんなに可愛いなんて!!うふ、うっふふふ…」
その無邪気な笑顔が逆に怖くて、アルカティーナは目を逸らした。が、すぐにロゼリーナに話しかけられてしまう。
「あ、忘れてたわ!アルカティーナ様。私、今気になってる人がいるんです。さっき言ってた推しキャラとはまた別なんですけど…入学式の日からずっと気になってて」
その話を聞いて、思わずキョトンと首を傾げてしまう。
「…?でも、そのさっき言ってた『推しキャラ』さんは……?その人を攻略したいんじゃなかったんですか?」
ロゼリーナの話し方だと、『推し』も『気になってる人』も両方攻略したいという風に聞こえてしまう。いくらヒロインだからと言って、そんな欲張りなことはしないだろう。
「そうなんですけど正直その人、推しキャラと同じくらい好きになんです。同じ…?いえ、それ以上ですね。自分でも不思議なくらいです。だから、推しキャラが誰かわからない以上、取り敢えずその人を攻略したいなって思ってるんです」
なんて、適当な。
アルカティーナは呆然とした。
「取り敢えずって……推しキャラが誰かわかった時、どうするんです?」
「んーー……それはもうその時になって見ないとわからないですね」
「……そうですか」
何とも言えない、気持ちの悪いモヤモヤした気分。アルカティーナは思わず眉を顰めた。
常にのほほんとしているアルカティーナにしては、かなり珍しい表情である。
だが、その些細な変化にロゼリーナが気がつく訳もなく。彼女は留まるどころか話を進め始めてしまう。
「それでですね。私、アルカティーナ様に協力してほしいなって思うんです。アルカティーナ様は悪役、それに対して私はヒロイン。ヒロインの強制力でアルカティーナ様をバッドエンドに導かないと約束します。だから、アルカティーナ様は代わりに、私の恋に協力して下さい!お願いします!」
眉間に刻まれた皺が少し深くなった。
アルカティーナは、自分に頭を下げて必死にお願いするロゼリーナを、唇を噛み締めながら見つめていた。
「……協力。恋、ですか。それは、その『気になる人』との恋、ですか?」
「はい、そうです!お願いします!彼が攻略対象でない限り、私だけの力では自信がないんです!まあ、私可愛いから大丈夫だとは思うんですけど」
元気なヒロインの笑顔。
ヒロインらしい、可愛らしい笑顔。
無邪気な笑顔。
見ていて、微笑ましいその笑顔。
だが、アルカティーナは同時に嫌な予感がしていた。どうにも、嫌な予感がする。
ヒロイン様がどうとかではない。
そうではなくて………
堪えきれず、アルカティーナは尋ねる。自然と声が震えた。
「あの、その『気になる人』って、どなたなんですか?」
決定的な証拠があるわけではない。
これは勘に過ぎない。
でも、決して拭いきれない、一つの可能性。
最悪の、可能性。
男の人はいっぱいいますから、大丈夫。
まだそうと決まった訳ではないですし。
大丈夫。
そんな、まさか。
そう思うのに、どうしてもその可能性が頭の片隅にちらついて消えてくれない。
そしてそんなアルカティーナの心にとどめを刺すように、ロゼリーナは無邪気に言い放った。
「アルカティーナ様も良くご存知の方ですよ!ほら、あのゼン様です!」
「え……」
素敵な人ですよね~というロゼリーナの声は、アルカティーナには届かなかった。
ぎゅっと握った拳に力をいれる。
「……めて、ください」
絞り出すようにして出されたその声は、ひどく震えていて、凍てつきそうな程に低い。
「え?すみません、よく聞こえませ……」
「やめて、ください」
強い意志を孕んだ薄桃の瞳に射抜かれたロゼリーナは、ビクリとその身を震わせた。
アルカティーナは、温厚で優しく、まるで女神のような女性だと誰もが言っていた。
だからロゼリーナは、アルカティーナは怒らないものだと思い込んでいた。だが、その考えが甘かったのだと思い知らされた。
アルカティーナは、女神じゃない。
人の子だ。
怒らないわけがないのだ。
普段温厚な人から向けられる怒りほど怖いものはない。萎縮しきったロゼリーナに、アルカティーナは声を張り上げた。
「やめてください。さっきから『攻略』『攻略』って。ここはゲームの世界かもしれませんが、ゲームじゃないんです!皆んな生きているんです!『取敢えず』とか『攻略』とか。そんな軽い気持ちで人を振り回せるほど貴方は偉いんですか?違うでしょう!」
ロゼリーナは、アルカティーナの言葉に圧倒されて声も出ない。
一方アルカティーナは勢いに乗って、ガタリと立ち上がると、また口を開いて…閉じた。
俯きながら、ギリ、と歯を食いしばっていた。それから暫くたってから、再び告げる。
「すみません、ロゼリーナ様。言い過ぎました。ですが、今のは本心です。だから、協力はしません。貴方の力は借りません」
ぽかんとしたまま動かないロゼリーナに、アルカティーナは続ける。
「お願いですから……軽い気持ちでゼンに近付かないで。彼は、人形じゃないんですから」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
あれ?なんか珍しく真面目なお話になってしまった。どうしよう。
まぁ、これが普通なんですけどね(*´-`)
いつもすみません。
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