聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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学園編

ユーリアの悪癖

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分かっていたわ。
分かっているわ。
私が間違ってるってことくらい。
だって私には、悪癖がある。

 
 『アルカティーナ様は素晴らしいわ!』

 『ええ、全くよ!』

 『今回のパーティーにはいらっしゃらないのかしら?』

皆んな皆んな、口を揃えて言った。
アルカティーナ様は素晴らしい。
アルカティーナ様はお美しい。
アルカティーナ様はお優しい。
流石は聖女候補様。
我らが聖なる歌姫様、と。

 悔しかった。辛かった。

どうして。
どうして、あの子ばかり。
私だって聖女候補になりたかった。
最初はそう思った。
でも。
それを理由に彼女を妬むことはしなかった。
だって、それは仕方のないことだから。
聖女候補はなりたいと思ってなれるものじゃない。
だから、仕方ない。
でも、それにしても。
どうして、あの子ばかり。
あの子はなんでも持ってる。
名誉を。美貌を。権力を。人望を。
美しい、心を。

 羨ましかった。
 悔しかった。
 『アルカティーナ様』を見るたびに、真っ黒なさざ波が広がる自分の心が。
 どうしようもなく、大嫌いだった。
自分に自分で、失望した。
 
 だから、彼女を見て。
『素晴らしい』と、『聖女候補様』と慕われる彼女自身を見て。
この醜い心に区切りをつけようと思った。


 それなのに。

 あぁ、それなのに。

 馬鹿な私はまた間違えた。

あの悪癖が、また出てしまった。

 
 『アルカティーナ様』は噂以上の秀才だったらしく、新入生代表に選ばれていた。
彼女は挨拶も完璧だった。
完全無欠。
そんな言葉がぴったり当てはまるような人だなと、尊敬の念を覚えた。
この瞬間を忘れないように。
もう二度と、自分に失望しなくていいように。
じぃっと彼女を見つめた。
でも。
見ていると、自分の醜さがありありと感じられて。
その醜さが憎くて。
思わず眉を顰めた。

 そんな時だった。

 彼女と、目が合った。

 初めて真正面から見た彼女は、これ以上ないくらいに冷たい笑みを浮かべていた。

 その瞬間、いやでも悟ってしまった。
私はまた、間違えたのだと。

 会場が騒ついた。

 『何…?あの新入生』

 『今アルカティーナ様を睨んだわよね』

 『というか《女神の冷笑》初めて見たわ』

 『私も。…あのご令嬢、終わったわね』

 『自業自得でしょ』
 
ああ、どうしよう。
私は、また間違えた。
違うの、違うの。
アルカティーナ様、ごめんなさい。
私はそんなつもりじゃないんです。

貴女は何も悪くない。
悪いのは私なんです。
私が嫌いなのは貴女じゃないんです。
私なんです。
全部全部、私なんです。
悪癖が出てしまっただけなんです。

誤解を解かないと。

絶対に誤解された。

せめて、本人にだけでもわかってもらわないと…!!

何とかして彼女と話せないかしらと思っていた矢先に、同じクラスに『ロゼリーナ・アゼル』がいるのを思い出した。
ロゼリーナ様は庶民の出ではあるものの、アルカティーナ様と同じ聖女候補様。
彼女なら、アルカティーナ様に取り次いでくれるかもと思った。
そう思って、寮長に彼女の部屋番号を教えてもらって、会いに行った。扉をノックしようとした時、中から誰かの声が聞こえてきた。
何だろうと思って耳を澄ませていると、それは罵声だった。聞けば、『何よあいつ』だの『ゲーム通りに動きなさいよモブ』だの『私がヒロインなのに』だのと暴言ばかり。
思わず耳を疑ったが、それは間違いなく『ロゼリーナ・アゼル』の声だった。
 

 『……取り敢えず、アルカティーナ。あいつが使えないことはわかったから、あいつから潰すか』


 思わず、走り出した。
できるだけ彼女の部屋から遠くに逃げた。
走って走って、もう走れなくなった頃に浮かんだのは、アルカティーナ様の顔。
誤解を解こうとばかり考えていたのがウソのようだ。そんなことは、頭から吹っ飛んでいた。
そんなことよりも。
早く、早く、早くアルカティーナ様に伝えないと。
ロゼリーナ・アゼルはダメだ、と。
聖女候補であるはずの彼女が、あんな暴言ばかり吐くなんておかしい。
絶対に、おかしい。

そして、その次の日の朝。
 
学園へと歩いているアルカティーナ様の姿を目に止めた私は、堪えきれずに、気が付けば彼女に近づいて行っていた。

早く伝えないと!
アルカティーナ様が危ないわ!!

自分が『女神の冷笑』を向けられたことなんてスポンと忘れて。

そうして私は、また間違えた。
また、悪癖が出てしまったのだ。

 『今日のお昼、少し時間を頂けまして?お話ししたいことがございますの』

ああ、ほら。また誤解される。

 『お昼…ですか。はい、特に予定はないので大丈夫ですよ』

ほらやっぱり。
アルカティーナ様に警戒されてるわ。

 『ありがとうございます。ではお昼に、校舎裏でお待ちしておりますわ。絶対に、いらしてくださいましね?』

私、ユーリア・ルゼスタには悪癖がある。

ひとつ。
考え事をしていると、目つきが悪くなる。

ふたつ。
どんな事を考えていても、表情筋が殆ど動かない。動いても、悪役のような怖い笑顔。

みっつ。
高圧的な言葉しか、口から出てこない。


素晴らしい三段構えである。

明らかにこちらを警戒しているアルカティーナに、ユーリアはもう涙目である。
私のバカ!と内心では暴れまくっている。

でもそんな心情さえも、表には全く出ず、それどころか高圧的な言葉と笑顔しか向けることができないのだった。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


はい、以上ユーリアたんのターンでした。
毎度のことですが、これはダジャレではないですよ。ユーリアたん、なんです。
分かっていただけましたでしょうか。
ユーリアは、ただの誤解されさすい系の超良い子です。彼女自身が真面目な性格なので、『自分は醜い心の持ち主だ』と思い込んでいますが、それはただの考え過ぎというやつで、マジで良い子です。
勿論、今後はアルカティーナの心強い味方となってくれます。多分。
あれですね。
アメルダが『ツンデレ』だとすると、ユーリアは『クーデレ』ですかね。

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