聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

文字の大きさ
138 / 165
学園編

一昨日来やがれ、ですわ!!

しおりを挟む

 「♪おーべんと、おーべんと、おーいしーいなぁ~~」

 ご機嫌な様子で次のおかずに箸をのばすアルカティーナの横で、ユーリアは半ば強引に分けられたお弁当のおかずをつついていた。
その目は『もう何も言うまい。言っても通じない』という悟りの境地へと達しており、まるで死んだ魚のような目である。

 「あっお昼それで足ります?成長期の女の子には少し少ないですかね…。よし、サービスでこれも分けてあげましょう!」

 ユーリアのお昼のおかずが、そんな言葉と共にまた増える。ユーリアは、死んだ魚のような目で、ギギギギとアルカティーナの方を見た。

 「あの…アルカティーナ様?私、お弁当をたかるためにアルカティーナ様をお呼びしたのでは無いのですけど」

 「?はい!分かってますよ?」

 お箸片手に満面の笑みで頷くアルカティーナに、ユーリアは力無く首を振った。
分かっていない。
その顔は、絶対に分かっていない。
ユーリアがそう思ったのも仕方ないだろう。
 
 でも、取り敢えずは目の前のおかずを食べてしまわないと話が進まない。ユーリアは必死に口をもぐもぐと動かした。そして、あのもう少し!!と言うところで

 「あっ完食ですか?流石ですユーリア様!ご褒美にわたくしからのサービスで、この卵焼きと唐揚げとローストビーフとエビチリとお握りも差し上げますね!」

 という悪魔の声が横から入ってくる。
ユーリアはもう、死んだ魚のような目ではない。涙目である。
だが、矢張り食べないことには話が進まない。今度こそ完食…!と意気込んだその時。

 予鈴がなった。

 「あらあら。もうそんな時間でしたか~。残念、お話はまた明日、ですね!」

 ごめんなさい、わたくしのお弁当のせいで……と謝罪の言葉を口にするアルカティーナに、ユーリアは慌てて涙を拭う。

 「本当ですわ!せ、折角お昼休みを削ったというのに全くですわね。…お弁当は美味しかったですけれど」

 小声で告げた最後の言葉を、アルカティーナは聞き逃さなかった。
弁当を作ったのはアルカティーナではなく、料理長なのだが、何だか自分まで嬉しくなってしまう。アルカティーナは照れたように微笑んだ。

 「はい、料理長も喜びますね!」

 「…ま、そんなことはどうでもいいですわ。私のお話ししたいことは一切お伝えできませんでしたから、また明日、同時刻にお待ちしておりますわ。絶っっ対に、いらしてくださいね!お弁当は持たずに!!」

 念を押すようなユーリアの言葉に、アルカティーナは目を丸くする。

 「お弁当、こんなに美味しいのにですか?」

 「美味しいのに、ですわ!」

 「お腹空きますよ?」

 「そんなの私、知りませんわ」

 「……そうですか、わかりました」

 あぁ、こんなに美味しいのに、お弁当は持たずに来なければいけないなんて。
アルカティーナはションボリと肩を落としながら、ユーリアの念押しを飲んだ。

 ーー…って、あれ?
わたくしはそもそも、どうしてお弁当を持ってきたんでしたっけ…。あ、そうそう。
腹が減っては戦はできぬってことで…。
でも、戦すらしてないような…や。
ま、いっか!!

 アルカティーナはにっこり笑顔で、ユーリアにお辞儀をした。

 「では、楽しい時間をありがとうございましたユーリア様。また明日、お会いしましょう」

 では失礼しますね、と大きなお弁当箱を両手で持って立ち去ったアルカティーナの背中に、ユーリアは手を伸ばす。
その手は、空を切った。
どこにも届かなかった、誰にも気づかれなかった手を、ぎゅうと握りしめる。

「…私も楽しかったですわ。明日を、楽しみにしております………」

 アルカティーナに届けたかった言葉を一人呟いて、矢張り誰にも届かなかったそれに少し虚しさを感じつつ。

 ユーリアは先程より少し遠くなったアルカティーナの背中目掛けて、力一杯声を張り上げた。

 「一昨日来やがれ、ですわ!!」

 思わず足を止めて振り返ったアルカティーナの目に飛び込んで来たのは、悪戯に成功した子供のような、無邪気なユーリアの笑顔だった。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 クーデレデレデレ、ユーリアたん。
アルカティーナの前で初デレですね。可愛い。
ふふ、そうそう。
ユーリアに会ったら、是非伝えてあげましょう。

 リサーシャ変態に気を付けなさい、と。


 それはそうと、表紙リニューアルしたんですよ。
あんまり変わってない?その通り☆

 
しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

【完結】前提が間違っています

蛇姫
恋愛
【転生悪役令嬢】は乙女ゲームをしたことがなかった 【転生ヒロイン】は乙女ゲームと同じ世界だと思っていた 【転生辺境伯爵令嬢】は乙女ゲームを熟知していた 彼女たちそれぞれの視点で紡ぐ物語 ※不定期更新です。長編になりそうな予感しかしないので念の為に変更いたしました。【完結】と明記されない限り気が付けば増えています。尚、話の内容が気に入らないと何度でも書き直す悪癖がございます。 ご注意ください 読んでくださって誠に有難うございます。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

ヒロインだと言われましたが、人違いです!

みおな
恋愛
 目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。  って、ベタすぎなので勘弁してください。  しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。  私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

所(世界)変われば品(常識)変わる

章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。 それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。 予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう? ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。 完結まで予約投稿済み。 全21話。

処理中です...