聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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学園編

アルカティーナ様の敵ですわ

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 数日後。
校舎裏に現れたアルカティーナを見るなり、ユーリアは悲痛な声をあげた。

 「あぁもう何なんですの貴女は!」

来るなり怒られたアルカティーナは、訳がわからないとばかりに首を傾げた。

 「え…っと、どうかしました?」

 いつも通り、呼ばれたからこうしてやって来たというのに、来るなり怒られるなんて心外だ。一体なにが不満なのか。
アルカティーナは、気がつかないうちに何かしてしまったのかと不安に思いつつ、恐る恐るユーリアに話の先を促した。
 だがユーリアは、そんなアルカティーナを見て一層声を荒げる。
 
 「無自覚!?まさか無自覚なんですの!?」

 「えーと。だから、何がですか?」

 一向に話が見えて来ない。
焦れたアルカティーナは、少し眉を下げた。
だが、反比例するようにユーリアの眉が大きく吊り上がる。

 「私、この間お弁当は置いて来るようにと申し上げましたわ!」

 「はい、だから置いて来ましたよ!」

 ちゃんと言うこと聞きましたよ、わたくし!と胸を張ってドヤ顔をするアルカティーナだったが、ユーリアはますます眉を吊り上げた。ビシッと人差し指を突き出し、叫ぶ。

 「なら、その右手にある包みは何だと!?」

 「さっき宅配でとったピザです!だからお弁当は持ってませんよ、えっへん!!」

 「宅配ぃ!?教員は何をしてらっしゃいますの!?校則違反ですわよねぇ!?」

 「ふぇ?いえ……先生方は大変親切にしてくださいましたよ?宅配ピザのチラシを見せてくださって、どのピザがいいか選ばせてくださいましたし」

 「宅配とったの、まさかの教員ですの!?そんな教員は即クビですわ!クビ!」

 声を最大限まで荒げたユーリアに、アルカティーナは青くなった。

 「えっそんな!理事長と学長と副学長は何も悪くないのですよ!!」

 「仕事しろ三代幹部!!!!」

 そもそも、お弁当も宅配ピザも大して変わらないではないか。
 理事長まで何をしているのだと頭を抱えるユーリアを尻目に、アルカティーナは宅配ピザの包みをパカと開け、手を合わせた。

 「頂きます!はい、ユーリア様もどうぞ。どうせまた、お昼抜きなんでしょう?毎日毎日凝りませんねぇ~」

 「私だって…お昼を食べたいですわ」

 ギリリと歯を食いしばり、俯き、ユーリアは低い声を這わせる。
アルカティーナは思わず、気遣うようにもう一枚ピザを差し出した。可哀想に、成長期とはいえ…いや、だからこそだろうか。ダイエットとは辛いものだ。

 ーーこんなに毎日お昼抜きなんて、ユーリア様はダイエットに必死なんですねぇ。

そう信じて疑わないアルカティーナに、ユーリアは勢いよく顔を上げた。
 
 「食べたいのに!食べたいのに!!貴女が一向に、それも毎日毎日、私に言いたいことを言わせてくださらないから!私は!お昼が!毎日毎日、ないんですのよっ!!!」

 アルカティーナの持っていたピザが一切れ、包みの上にボトリと落ちた。

 「そもそも!お弁当を持って来るなと言ったのは私なのでこう言うのも何ですが!!どうしてよりによって『早弁』なさいますの!?お陰でこの間は話し合いにもなりませんでしたわ!学園中に『アルカティーナ様がお腹を空かせているらしい』との噂が広まって、校舎裏まで貴女を餌付けしようと、馬鹿達が集まる始末!!最悪ですわ!」

 「そんな……御免なさい、わたくしのせいで。ユーリア様が、ユーリア様が、わたくしのせいで…!成長期なのに!あぁ、成長期に不摂生なんて…!可哀想に…!ユーリア様はきっと、将来骨粗鬆症に……!!あぁ、骨が…骨がカスカスに…!」

 体を震わせ、涙で瞳を潤ませながらユーリアに許しを請う。そんなことで骨粗鬆症にはならないのだが、と言うかそもそもこの世界に骨粗鬆症という概念は存在しないのだが、アルカティーナはそんな事には気がつかない。
ひたすら、それもユーリアが「もう良いですわよ!」と根を上げるまで、「ごめんなざいいいぃ!うわぁぁん!!骨さぁぁあん!」と情けない声をあげ続けた。

 だが、そうは言ってもお腹は空くもので。
アルカティーナは結局宅配ピザを食べ、ユーリアも空腹には抗えなかったのか差し出されたピザを大人しく受け取ると、それを口に運んだ。

 
 ◇ ◆ ◇


 お昼休みの半分が過ぎた頃。
ユーリアはピザで汚れた手を払い、アルカティーナに向き合った。

 「…さて、お腹もいっぱいになったことですし、そろそろ本題に入りますわよ」

 「ええ!?そんなぁ!まだあと一枚『納豆の粘り気が決め手!ネバネバネバーランドなピザ』が残ってるのに…!!」

 「そんなゲテモノは捨て置きなさい」

 未だ宅配ピザの箱を手放そうとしないアルカティーナからピザを強奪すると、ユーリアは口調を強めた。

 「初めから、言いたいことは一つですわ!」

 冷たい印象の水色の瞳に射抜かれ、アルカティーナは息を詰める。

 わすれていた。
ピザとか、お弁当とか、空腹とか。
色んなことで、すっかり忘れていた。
ユーリアを警戒していたはずが、すっかり油断していた。
すっかり、気を許してしまっていた。
だが、本当に彼女は警戒すべき人だろうか。
この数日間、毎日お昼を共に過ごしたが、別段感じの悪い人だとは思わなかった。それどころか、良い人のようにさえ感じる。

 もし、その予想が当たっているなら。

 もし、彼女がアルカティーナの敵ではないのだとしたら。

 彼女は一体、何を言いたかったのか。

 
 身構えるアルカティーナに、ユーリアは鋭く言い放った。

 「ロゼリーナ・アゼル。彼女には気を付けてくださいまし。彼女は恐らく、アルカティーナ様の敵ですわ」

 それだけ言い切ると、ユーリアは素早く背を向けた。

 「私、次移動教室ですの。失礼しますわ」

 最後に一言、念を押すように「良いですわね?気を付けてくださいましね?」と言われてしまえば、アルカティーナは何も言い返すことができなかった。

 ただ、一言を除いて。

 「あの…わたくしのネバネバネバーランドなピザ、返してくださいぃぃ~~」

 
 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


アルカティーナの破茶滅茶な暴走。
からの、ちょっぴりシリアスな展開です。
次回はあれですね。
アルカティーナちゃんがいよいよ本格的に動き出します。


 
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