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学園編
手は洗いましょうね
しおりを挟むAクラスでは今、風邪が流行っているのかもしれない。
「あの、すみませ……」
「ア、アッアルカティーナ様ぁ!?!?本物!?本物ですか!?きゃあああ!!」
「わたくし、ロゼリーナ様に用が……」
「嘘だろアルカティーナ様がこのクラスに!?一生分の運を使い果たした!」
「用事があってですね……」
「ちょっと何を騒いで……って、きゃぁぁぁぁぁぁあ!!アルカティーナ様ぁぁ!?」
Aクラスに着くや否や、Aクラスの生徒達はアルカティーナ達の周りに……いや、アルカティーナの周りに人だかりを作った。そして一目アルカティーナを見ようと、おしくらまんじゅうを始めたのだ。
アルカティーナは確信していた。
このクラスでは現在、風邪が流行っているに違いない、と。
だって、そうでないとこの状況の説明がつかない。自分はそんな、人だかりを作れるような人気者でも嫌われ者でもなかったはずだ。
アルカティーナは、自分の有名度や人気度に、一切気がついていないため、結論として『風邪』に行き着いたわけだ。皆んな風邪で頭が少し可笑しくなっているのだと、本気で思っていた。
だが、そうは言ってもこの状況はあまりよろしくない。Aクラスに着いたはいいものの、一向にロゼリーナにとりついでくれる者がいないからだ。
だが、それが分かっているとはいえ、どうすることもできずにアルカティーナはアワアワと目を回していた。
「うぅ……リサーシャ、アメルダ。どうしましょう、というか、どうしてこんな事に!」
助けを求めて後方に目をやるも、「どうしても何も……」と目を逸らされてしまう。アメルダ達は、人だかりを面倒に思って目を逸らしたのではない。「どうしても何も……ティーナ自身のせいでしょうに」という本心を飲み込むのに精一杯だったというだけだ。
「あぁ……どうしましょう。このままだとなし崩しに……」
「アルカティーナ様!」
思わず頭に手をやったアルカティーナの前に、1人の生徒が人だかりを掻き分け、現れた。ずんずんと歩み寄ってきたその生徒の顔に、見覚えがない。恐らくは初対面だろう。
だが、その瞳にはゆらゆらと強い意志が宿っているのがありありと伝わってくる。
もしかして、この状況からアルカティーナを助け出そうとしてくれているのか。
期待に目を潤ませるアルカティーナに、その女生徒は強い眼差しを向け…………
「アルカティーナ様!握手してください!」
と、一言叫んだ。
だが、ポカンと惚けるアルカティーナに我に返ったのか、すぐに顔をプイと背ける。
「すみません……その前に、大切なことを言い忘れていました」
そんな謝罪の言葉と共に、彼女は再びアルカティーナを真っ直ぐに見つめ……
「サインしてくださいアルカティーナ様!」
その瞳の、何と輝かしいことか。
アルカティーナは途方にくれた。
まさか、風邪ウイルスの力がここまでのものだったとは思いもしなかった。
いや、でもここまでくると風邪ウイルスの線は薄い。そう感じたアルカティーナは、新たな可能性を感じていた。
まさか、まさかとは思うが……
ーー新手のイジメですかね……??
だとしたら、どうしよう。
前世でもそんな経験はないし……。
もう辛すぎて生きていけない。
ハイライトを失った瞳で、アルカティーナは目の前の女生徒を見つめた。
「いいですけど……サイン、貰ってどうするんですか?」
虚ろな笑みのままそう尋ねると、思いの外威勢のいい返事が返ってきた。
「家宝にします!」
こんな一庶民のサインを家宝にする意味がわからなかったが、アルカティーナはゆっくりと頷いた。
「……そうですか。あとから『何このゴミ、いらない』とか言って捨てないでくださいね。傷つきますので……」
「家宝にします!」
「……そうですか。じゃあ、握手しても『うわ~ティーナ菌がついた~~』とか言いませんか?」
「言いません!」
「握手してすぐに、アルコール除菌とかもしないでくださいね」
「しません!一生、手は洗いません!」
そこまで言われては断れない。
これは恐らくイジメではなく、やはり風邪ウイルスの所為なのだろうと結論付けたアルカティーナはハイライトを取り戻し……
「手は洗いましょうね」
と言いつつ片手を差し出した。
◇ ◆ ◇
「え、ダンスホールですか?」
「はい。ロゼリーナはいつも暇さえあればダンスホールにいますよ。今は放課後だから、確実にそこにいますね」
ロゼリーナの居場所を聞き出せたのは、それから約一時間後のことだった。
「自分も」「自分も」と握手をせがまれたり、「サインしてください」とノートや制服のブレザーを差し出されたりと、忙しかったのだ。それだけならまだしも、一時間も時間を要したのは………
「はい、並んだ並んだ~!皆んなの心のアイドル、アルカティーナ様の握手会じゃー!一回につき3000円ね!あ、お金はそこに入れて!そう。そこよ。私の制カバン!」
と、アイドルのマネージャーに憧れの念を抱いていたというリサーシャが騒ぎを大きくしたためである。
アメルダが必死で止めたことによって、お金は取らずに済んだが。
それにしても。
嫌な予感がするのだ。
ダンスホールとは、礼儀作法の実践授業で時々利用される教室だ。その名の通り、ダンスの練習に使われることが多いのだが…
「ダンスホールって、あれですよね。全面鏡張りの…………」
「はい、そこです」
やはり嫌な予感がする、とアルカティーナは眉をしかめた。
頭をよぎるは、つい先日の光景。
『ふふ、ふふふふっ。斜め45度……っ!!あぁ、やっぱりこの角度が最高ね。上目遣いで小顔アピールもいいけど』
アルカティーナの自室で、鏡に壁ドンをしながら恍惚とした表情を浮かべるロゼリーナの姿。
そして、全面鏡張りのダンスホール…。
暇さえあれば、いつもそこにいると言うロゼリーナ………………。
もしかしなくても彼女はまた……………
ーーいやいや、まさか…そんなわけない…ですよね??
内心冷や汗を垂らしながら、アルカティーナはお礼の言葉を残して、リサーシャ達と共にダンスホールへと足を向けた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
すみません、すみません。
話が進まなくてすみません。
次回は直談判です。
きっと多分、直談判です。
今回みたいに握手会とかにはなりません。
直談判します:(;゙゚'ω゚'):
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