聖なる歌姫は嘘がつけない。

水瀬 こゆき

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学園編

彼はもう、助からない

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 翌朝、アルカティーナ一向は廊下で偶然チルキデンにあった。昨日アルカティーナの代役として紹介した、もう1人の聖女候補とどうなったのか…皆んな聞きたいのは山々であった。
が、

 「あー…皆んな、やっほー……。昨日の放課後はありがとね……昨日…放課後………はぁ」

 青ざめた顔で足元を見ながら危うい足取りで廊下を歩くチルキデンを見る限り、聞くまでもなかった、と言ったところだろうか。

 「ええと、チルりん?ロゼリーナ様とは…」

 「ろぜ…ろ、ロゼリーナ嬢!?はっはいぃっ!!ロゼリーナ嬢はこの世で一番見目麗しく、可愛らしいでありますっ!はい!」

 ………何やら、洗脳されていた。

 「えと、落ち着いて下さい?昨日一体何があったのですか??」

 心配そうに眉を寄せたアルカティーナを見て少し気が落ち着いたのか、チルキデンはポツリポツリと話し始めた。

 「昨日…ダンスホールに行ったら、鍵が、閉まってて。用務員さんが近くにいたから開けてもらったんだ。そうしたら……」

 ゴクリ、と全員が喉を鳴らし。
チルキデンは意を決したように続けた。

 「ロゼリーナ嬢が1人でオペラをやってた」

 「「「は??」」」

 「だから、オペラ」

 1人でオペラ。
成る程、わからん。

 そういえば前にダンスホールを訪れた際、ユーリアも同じようなことを涙ながらに言っていた気がする。ロゼリーナがいきなり『ミュージック・スタート★』と叫んだとか何とか。まぁ、やはり意味は分からなかったのだけれど。因みにユーリアは『1人  De  オペラ』に既視感があったのか、1人「ひっ……」と悲鳴をあげていた。

 「オペラだよオペラ!1人で歌いながら重たそうなギラッギラしたドレス着て踊り始めたんだよ!!」

 「ええ~~…」

 にわかには信じられないが、信憑性は悲しいことに高い。というか、ロゼリーナは何をしているのだ、何を。

 「それで…身を潜めていたつもりが、ビックリしすぎて物音立てちゃって」

 「まぁ、ビックリしますよねぇ」

 「うん。そしたらロゼリーナ嬢が狼みたいな目をしながら僕を振り返って、僕を見るなりニヤって、ニヤって、笑ったんだ」

 それからどうなったのか。
ものすごく気になるが……当然嫌な予感しかしない訳で。

 「その後は……もう。散々だったよ」

 アルカティーナ達はその先を聞けずにいた。
だが、怖いもの見たさが祟ったのだろうか。
リサーシャが思わずと言わんばかりに恐る恐る聞いてしまった。

 「それで…その後っていうのは…?」

 「その後のこと?それはもうひどかったよ。僕まで何故か重たいドレスを着させられてさ。男なのに。あぁそうだよ踊ったよ!歌ったよ!ドレス着ながら!男なのに!しかも何だか変な事ばかりを吹き込まれたね。何だっけ…………あぁそうだ。ロゼリーナ嬢についてだ。世界で一番君が美しいし可愛いし麗しいようん勿論だよ、はは、はは…」

 傀儡のように光を失った瞳で力なく笑うチルキデンを見て、アルカティーナは手で口を覆った。その瞳は、うるうると潤んでいる。

 「うぅ……っ、そんな。わたくしがチルり殿下にロゼリーナ様を紹介したせいで……殿下が、殿下がぁ……っ!!」

 震える彼女の肩に、神妙な顔をしたリサーシャが手を置く。

 「やめなよティーナ。そんなこと言っても仕方ない。だってチルりんは…彼はもう、助からない」

 「……ぐす、そう、です……ね」

 堪えきれず溢れた涙を拭いながら首肯したアルカティーナに、放心していたはずのチルキデンが突然我に返って叫んだ。

 「ですね、じゃないよ!助けてよ!困ってるんだ僕!そんなこんなでもう婚約者の話どころじゃなかったし!?まぁいくら条件が揃ってるからって嫌だけどね、あんな婚約者!」

 『あんな』呼ばわりされた聖女候補様のヤバさは、アルカティーナの仲良しグループでは常識である。全員がそうだろうなぁとばかりにコクコクと頷いた。

 ただし。
たった1人を除いて、だが。

 「…えっと、ロゼリーナ様ってそんなにあれなのか?俺、知らなかったんだけど」

 背後から聞こえてきたその場違いな言葉に、アルカティーナは勢いよく振り返り……ああそういえば、と思い返した。

 「そっか、ゼンは知りませんよね。だってダンスホールに行ったこと、ないですもんね」

 思えばロゼリーナのナルシスト・タイムをゼンは一度も目撃していない。驚いても、話についていけなくても、それは当然のことと言えるだろう。

 ーー廊下で話す事でもないですし……あとでこっそり教えてあげるとしましょうか

 ロゼリーナがゼンを狙っているという事実もある限り、出来るだけ彼女のことを教えておいた方がいい気がする。
アルカティーナがそう決心したその時。
チルキデンが素っ頓狂な声をあげた。

 「あれっ?昨日も思ったけど……何で貴方が彼女達と一緒にいるんですか?」

 まるで知人に話しかけるようにそう言ったチルキデンの瞳は、先程ロゼリーナについての疑問を述べたアルカティーナの護衛役に向けられていた。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 「さらばだ!」と言おうとしたら10回に9回は「サラダバー!」と言ってしまう水瀬です、どうも。
えっだって似てますよね。
皆さんも間違えますよね。
皆んなサラダバーに洗脳されてますよね。
それが人類の定めですよね?

 え?違う?間違えない?

 ……すみませんでした。
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