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学園編
ゼンの??
しおりを挟む麗らかな春の日差しの中、ゼンは正装を身に纏っていた。そのためか、見目麗しい彼の容姿にはより一層磨きがかかっている。しかし、その表情はどこか冴えない。
「今日は来てくださってありがとうございます、ゼン」
ゼンに向かって晴れ晴れとした笑顔を見せ、そう言ったのはアルカティーナだ。表情の明暗は真逆の彼女らだったが、その服装が正装であると言う点については同じだった。
ゼンはふと自分の服をまじまじと見つめると、頭にハテナマークを浮かべた。
ーーあれ?この服装……………。俺、お嬢に出生バラしたっけ
明らかに騎士のものではないその服装に、ゼンは疑問を抱きつつアルカティーナに笑みを返した。
「いや、当たり前だろ。何しろ今日は…」
一旦言葉を区切り、アルカティーナを包む真っ白なドレスを眩しそうに目を細めながら見つめる。そして続きの言葉は、
「お嬢の結婚式だからな!おめでとう。心から祝福する」
本心から、心からの笑顔で告げた。
「はいっ!ありがとうございます!」
記憶する限り、その時のアルカティーナの笑顔は今までで一番眩しかったように思う。
いつだって彼女は、ゼンには眩しすぎた。
いつだってゼンを引っ張ってくれた。
だからこそ、彼女への感謝は尽きない。
だから。この結婚で彼女がもっと幸せになれるというなら、ゼンはそれ以上に嬉しいことはないとまで思っていた。でも、何だろうこの煮え切らない感じは。『お嬢が結婚』というワードにモヤモヤする。
ーーあれだな。多分、妹離れ出来てないんだ
結局モヤモヤの原因は考えても分からなかったため、ゼンは自分の中でそう結論づけた。
「そう言えばお嬢。受付ってどっちだ?」
「あっちですよ~~」
「そうか。ありがとな」
片手を軽くあげ、アルカティーナの別れる。彼女が先ほど指差した方向へと歩みを進めると、ゼンの目にありえない光景が飛び込んできた。
「私ハ、マドモアゼル。私、受付嬢。ケケッ、ウケケケケッ!!!」
何故お前が此処にいる!?
百歩譲って、あの気持ち悪いロボットが結婚式会場にいるということは良しとしよう。
でも、何で奴は『受付』にいるんだ!?
何が受付嬢だ。あれは只の化け物だろうが。
流石にこれはない。
そう思ったゼンは、これは誰かの悪戯に違いないと誰か頼れる者を探して周囲をウロウロと徘徊し始めた。すると運良く『警備室』というプレートのかかった一室を見つけた。
警備員さんなら、何とかしてくれるだろう。
縋る思いで扉をノックすると、
「ドウゾ~」
と扉越しにくぐもった機械的な声が聞こえた。少々嫌な予感はしたが、それは気の所為だろうという事にして中に入ると…
「キョエーケッケケケ!私マドモアゼル」
「不審者ハ排除、排除スル。マドモアゼル、警備員」
「ケッケケケケケ!ケッケケケケケ!」
嫌な予感は当たりだったようだ。
部屋いっぱいにぎゅうぎゅうに詰められた気持ち悪いロボット達に、ゼンは満面の笑みを浮かべる。
「失礼しましたー!」
バタンと勢いよく扉を閉めると、すぐにUターンをしてダッシュした。
ーーなんだあれ!?聞いてないぞ!!
軽くトラウマになりそうだ。
ゼンは全力疾走しつつ、まだ諦めずに誰か頼れる者を探し続けた。そして、次に見つけた頼れそうな人物は、間違いなくこの式場において最も頼れる人物であった。
「あっ!探してたんですよ?今日は僕達の結婚式にようこ………」
「おい!大変だ!この式場はもうダメだ!」
占領されてる!と叫ぶゼンに、その人物は何を言っているんだとばかりに目を見張った。
「どうしたんですか、一体。そんなに慌てるなんて貴方らしくもない」
アルカティーナと対になるような見事な白い衣装の青年の名は、ユグドーラ・テンペス。
若き優秀なテンペス公爵だ。
「さっき受付に行ったら、マドモアゼルが受付嬢を名乗っていた!それを異常だと思って警備室に行ったら、マドモアゼルが警備員を名乗っていた!!もう此処はダメだ!奴らに占領されている!」
一気にまくし立てたゼンに慄きつつもユグドーラは至って冷静だった。フッと軽く笑うとまるで天気の話をするように何気なく、
「占領なんてされていませんよ?あれは僕とアルカティーナが考えた今世紀最大の効率の良い結婚式会場の運営です。素敵でしょう?」
そう言ってのけた。
殴ってやろうかと思った。
その後も、予想だにしない展開は続いた。
「新郎ユグドーラ・テンペス。貴方ハ…」
「おい待て。何で神父がマドモアゼル!?」
「貴方ハ神父ヲ病メル時モ健ヤカナル時モ」
「待て待て。間違ってるぞ」
神父ではなく新婦である。
マドモアゼルに誓いの言葉を手向けてどうするつもりだ。それは誰得だ?
「誓います」
「お前も誓うなよ!」
「わたくしも誓います~」
「お嬢ぉおおおお!」
滅茶苦茶な結婚式だった。
ブーケトスになると、何処からともなくマドモアゼルの大群が押し寄せてきて会場を埋め尽くしたし。ウエディングケーキはマドモアゼルの姿形そっくりだったし。
隣の席の奴がマドモアゼルのうちの一体だったという事に気がついた時は、ゴミを投げてやろうかと本気で悩んだ。
リンゴンと鐘がなる。
アルカティーナはユグドーラに腕を絡ませて皆んなに手を振っている。その顔からは、幸せがいっぱい滲み出ていた。隣に立つユグドーラも同様だった。
壇上から手を振り、皆からの歓声を一身に浴びる彼女が、不意に此方を見た。
そして、微笑む。
「ーー……」
声が出なかった。
滅茶苦茶だ。何もかも、滅茶苦茶だ。
何故モヤモヤするのかもわからない。
何故マドモアゼルに重役を任せたのかもさっぱりだし、幸せそうなユグドーラを見てモヤモヤが増した原因も、俺にはわからない。
ただ、唯一言えることは。
「お嬢、笑っててくれ。それだけで俺は」
全てがどうでも良くなるから。
モヤモヤの原因とかマドモアゼルの大群とか、マイナスな思考が全部、吹っ飛ぶから。
眩しすぎて、全てが白に染まるから。
◇ ◆ ◇
朝のキラキラとした日差しが眩しくて、ゼンは薄らと目を開けた。
「……」
目覚めは、夢と現実の狭間の不思議な感覚が行き来する。ようやく覚醒してきた頃、ゼンは眩しい光で照らしてくる太陽を見ながら呟いた。
「……夢かよ」
ーーなんか、色々変だと思ったら!
ゼンは朝から疲労感を漂わせ、支度をする。
その途中で彼は、不意に微笑んだ。
「よくわからんが、お嬢らしい夢だったな」
心底可笑しそうに。
自分の仕える主人を思い浮かべながら。
照らす光を眩しそうに受け止めながら。
微笑んだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
今回のお話は、とある友人との会話で思いついた素晴らしい(笑)ストーリーです。
読んでくれたか、友よ。
『何、この話マジで書いたの!?』とか言わないでね。『書く!』って言ったじゃん。
水瀬、嘘つかない、絶対。
…さて。
今回はゼンの夢がメインのお話でした。
次回からは現実世界にカムバックですw
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