泣き虫殿下はクールを装いすぎている

みるくコーヒー

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第三話

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 三か月に一度開催される王家主催のパーティーに出席するため、エマはレイモンドから送られたドレスを身に着けて王城へ出向いていた。

 エマはレイモンドの婚約者という立場から、毎回王家側としてパーティーに参加してきた。
 しきたりやマナー、所作言葉使い、気にしなければならないことは様々で毎回胃をきりきりと痛めていた。

 だが、それも今回で終わりだとエマは強く決意している。
 だからこそ、エマは今ニコニコと笑顔を取り繕うことが出来ている。

 笑顔を張り付けながらレイモンドの隣に並んで、貴族たちと挨拶を交わしダンスを踊り、腹を探り合うように会話をする。
 そうしてパーティーが終わる時間までやり過ごした。

「今日は参加してくれたこと感謝する」

 笑みを張り付けたままの隣で、レイモンドがいつもと同じ様子で何の感情もないような能面で謝辞を述べる。
 口ぶりと表情が一致しておらず、本来は戸惑うような状況だが、みな慣れているためかレイモンドの言葉に静かに耳を傾けていた。

「みなが集まってくれている機会だから伝えたいことがある、大事なことだ」

 大事なこと、と前置きしたことで一体何のことだろうかと会場の全員が少し前のめりになる。
 エマも全て知っているような顔をしてニコニコと立っているが、全く何のことか検討もつかずにいた。

「エマの二十歳の誕生日に、僕たちは式を挙げることに決めた」

 全部わかっています、という顔で頷いていたエマだが、二回ほと頷いたところでレイモンドの言葉を理解して「え!?」と驚きの表情を彼に向けた。

「多くの者を招待する予定だ、みなも参加してくれると嬉しい」

 言葉を続けるレイモンドに、今は公衆の面前だとぎこちなく再び貴族たちへ目を向けて笑みを浮かべた。
 
「ついにご結婚なさるのですね、おめでとうございます!」

 ひとりの賛辞を皮切りに、次々と「おめでとう」という賛辞がふたりに届く。
 エマは無理に笑顔を作って、少しだけ顔が引き攣りながらも「ありがとうございます」と感謝を返した。



「結婚式だなんて、聞いてない!」

 パーティーが終わり、ふたりがレイモンドの執務室に戻った瞬間にエマは彼に怒鳴りつけた。

「ああ、言ってないからな」

 白々しく、淡々と返された言葉にエマはより一層怒りを募らせる。

「事前に相談もなく勝手に決めるなんてどういうつもり!?」
「君が婚約破棄なんていうからだ!!!」

 珍しくレイモンドが声を荒げた。
 怒鳴りつけることなんて滅多にないため、エマは身体を強張らせる。

 普段、何が起きても何でもないような顔をして、表情に出るときは泣きべそで、思い返せば怒ったことなんて無かったように思える。

 そんな彼が怒鳴り声をあげた。

 エマは目をぱちくりとさせて、声を発することが出来ずにいた。

「……僕は婚約破棄なんて許さない。エマは僕と結婚するんだ、嫌だなんて言わせない」

 レイモンドは冷静さを取り戻したようで、落ち着き払って淡々と言い放つ。
 だが、その目は少し潤んでいて、エマの良く知る泣き虫なレイモンドが垣間見えていた。

「それは、私の意志は一体どこにあるの? 私は人形じゃないのよ、せめて事前に話してくれたら……」
「話していたら了承したとでも?」

 レイモンドの言葉に、エマは口を噤む。
 事前に話していたとしても、エマは了承しなかっただろう。

 いつもだったら、ここで諦めて言葉を飲みこんで、それで話を終いにしていた。
 だが、ここで自分の言いたいことを飲み込んでしまえるほど怒りはおさまっていなかった。

「これからも同じようにするつもり? 勝手をして私の気持ちを無視するの? それなら、私は尚更あなたと結婚なんてできない」

 エマがここまで強く言い返すことは珍しく、レイモンドはぐっと下唇を噛んで目に涙を溜め始めた。
 彼が下唇を噛むのは、いつも被っているクールの仮面が外れる合図であることをエマは良く知っている。予想通り、ダムが決壊したようにボロボロと涙が零れだす。

「エマは、僕のことが嫌いになったんだ。だから、そうやって僕を突き放すんだろう」

 ぐずぐずと泣きだすレイモンドに、いつもはハンカチを差し伸べてやるエマだが、今日は優しさを少しも彼に見せることはしなかった。
 泣いている様子を見て、より一層苛立ちを増幅させる。

「……そうよ、嫌いよ」
「え?」

 エマの呟きに、まさかという顔を向けるレイモンド。
 彼女が自分を嫌いになるはずがない、と信じ切っているからこそ見せる表情だった。

「もう、うんざり!!!」

 山が噴火するように、エマの我慢も爆発した。
 
「泣けば私が絆されると思っているところも、結局あなたのことを拒絶は出来ないと思っているところも! 普段は泣かないように頑張っているのに、どうして私との話になると泣いてうやむやにしようとするの。どうして、私の話は聞いてくれないの……」

 いつの間にかエマの目にも涙が浮かび、一筋涙が零れ落ちた。
 エマの涙を見たレイモンドは、ぐずぐずと泣いていたはずなのに涙を引っ込めて目を泳がせてあからさまに動揺していた。

「エマ、違うよ、僕は……」
「レイモンドなんて、大嫌い」

 エマは、泣きながらもレイモンドのことをキッと睨みつけて足早に去っていく。

「待って、エマ!」

 そう呼びかけるも、レイモンドは彼女を追いかけようとはしなかった。
 泣きながら怒って出て行く彼女の姿に、自分自身の身勝手さを痛感したからだ。

 エマの言うことは全てその通りだった。
 彼女は優しいから、結局のところ泣いてしまえば自分からは離れられないと高を括っていた。

 結局、エマの優しさに付け込んでいただけだったのに。
 いつの間にか彼女の気持ちを無視して、自分の感情を押し付けていたことに腹が立ち恥ずかしくも感じた。

 彼女の背中を追いかける資格は自分にはない。
 レイモンドは、一人静かに涙を流し続けた。
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