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XXXVI 普段と違う朝-I
しおりを挟む顔を歪める程の激しい頭痛に、張り付くような喉の渇き。ひんやりとした冬の匂いが充満する部屋で、自身の身体への違和感を抱きながら目を覚ました。
自身を襲うのは、痛みに似た妙な倦怠感。無理矢理喉を潤そうと唾液を飲み込むが、当然そんな事で渇きが癒える筈が無い。
まるで鈍器で殴られている様な頭痛に小さく唸り越えを漏らし、あまり刺激を与えない様に手で額を押さえながらゆっくりと身体を起こす。
出来る事なら、このまま再び眠りにつきたい。だが、痛みを伴う程の喉の渇きを放置して眠る事は出来そうに無かった。仕方なくベッドから足を下し、ふらふらと壁や家具に手を付きながらキッチンへと向かう。
これ程に酷い体調不良を起こしたのは久しぶりだ。
屋敷に居た頃は頻繁に体調を崩していたが、この家に来てからは一度も無かった様に思える。
私が体調を崩す原因の殆どは過度なストレスだが、ここ最近でストレスを感じた記憶は無い。それに、体調を崩すような心当たりも無かった。
視界が眩む程の不調に疑問を抱きながらも、漸く辿り着いたキッチンで溜息を吐く。
グラスは、自身の目線より少し高い位置にある食器棚の中。頭痛も倦怠感も酷く、背伸びをして取るには少し億劫だ。
しかし水を注げる物は全て片付けてしまっている為、多少無理をしてでも食器棚から取るしか喉を潤す方法は無い。意を決し、背伸びをして食器棚へ手を伸ばした。
眩暈を起こしながらもなんとかグラスを取り出し、溜息を漏らし蛇口を捻る。その瞬間、蛇口から錆びた金属が擦れる音が鳴り、あまりの煩さに頭がずきりと痛んだ。
体調を崩すと、普段は気にならない生活音や物音がやけに耳に付く様になる。
蛇口を捻った音も、グラス越しに伝わる水の冷たささえもそうだ。全てが刺激になり、不調を悪化させる。
再び蛇口を捻り水を止め、早く乾いた喉を癒そうとグラスを口に近づけた。
寒い季節になったからか、水が普段より冷たく感じる。胃に不快感がある今、これ程冷たい水を一気に流し込めば吐き気を催してしまうだろうか。そんな事を思いながらも、水を口に含んだ。
「――!」
口内を満たす、水道の水。それは普段と何も変わらない物の筈なのに、広がったのは言葉にし難い不快な味。それは異様な吐き気へと変わり、喉奥へ流し込む前にシンクへと吐き出した。
ズキズキと脈打つ頭に、収まらない吐き気。心成しか、水のニオイも普段と違う様に感じる。
グラスに注がれた水を捨て、三度蛇口を捻った。そしてもう一度水を汲み直し、口に含む。
一度その不快感を味わったからか、今度は吐き出す事無く喉奥へ流し込む事が出来た。先程よりも不快な味は薄まった様に感じるが、それでもまだ味もニオイもおかしいままだ。
それに、何故だか妙に喉も潤わない。まるで口内に膜でも張っているのかと思う程に水は浸透せず、どれだけ繰り返し水を飲んでみても変わらない。
水道関係に、何か問題でも起こったのだろうか。もしそうだとしたら、これ以上飲むのは控えた方が良いかもしれない。仮に水道管等の錆が原因だとしたら、少なからず身体に害がある筈だ。
だが、心の何処かでこの不快感全てが水の所為だけでは無い気がしていた。
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