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意味のある戦い
魂の帰還
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幕舎に辿り着いた航太の目に、戦塵にまみれたアルパスターとユングヴィ王子の軍勢が映る。
スリヴァルディの軍を撃破し凱旋したばかりのアルパスターたちの姿は、疲労と勝利の余韻を漂わせていた。
(みんな、無事だったのか……よかった……)
航太はアルパスターたちの生還を確認し、胸の奥で重い安堵の息をついた。
知っている人間が、この世から消える痛み……二度と味わいたくない苦しみが、航太の心を締め付ける。
もう、誰も失いたくない。
そう、切実に願った。
「航太もミーちゃんも、無事でしゅね~! ホント、良かったでしゅ~!」
突然、目の前を白い影が宙を舞う。
疲れ果てた絵美の胸に、ガーゴが飛び込んできたのだ。
その勢いに、絵美は一瞬たじろぐ。
「ガーゴも、何事も無さそうだねー! よかったよー! でもでもー、私は大変疲れているのだよ。なもんで、キャッチ・アンド・リリースぅ!」
絵美はノータイムで、ガーゴを航太に向かって放り投げる。
戦闘の妨げになるガーゴは、ガイエン軍との遭遇時に伝令と共に幕舎へ戻されていた。
高々と放り投げられたガーゴは、ゆっくりと航太に向かって落下していく。
(ガーゴも、心配してくれてたんだな。絵美の魂の情報が宿ってるんだから、何かあったのかって感覚があったのかもな……って、うわっ!)
疲労でぼんやりしていた航太は、絵美から放り投げられたガーゴが目の前に迫るのに気付かなかった。
白い物体が急に視界を埋め、驚きのあまり心の中で叫び声を上げた航太。
反射的にその羽を掴み、地面に叩きつけてしまった。
「な、なぜ……こんな、酷い仕打ちを……でしゅ……」
地面に倒れたガーゴが、力尽きたふりで大げさに呻く。
航太は心配するどころか、地面で死んだフリをするガーゴを呆れた目で見下ろす。
「死んだ……か。絵美、遊び相手がいなくなって残念だったな」
「今日は、ガーゴと遊ぶ余力も無いし……面白い動きに、突っ込む気分でもないしなぁ……」
絵美の軽やかな声に、ガーゴは牙を剥く。
「ガーゴは、面白くしようとしてる訳じゃないんでしゅけど! ミーちゃんの胸に飛び込んだら、投げられた上に叩きつけられて、勝手に殺されたんでしゅが?」
ガーゴの滑稽な姿に、航太は久しぶりに笑みをこぼした。
戦場の重苦しい空気の中で、こんな瞬間が心を軽くしてくれる。
そこへ、低く落ち着いた声が響く。
「ランカストの部隊は、壊滅状態だと聞いたが……航太に絵美、よく無事だったな。生き残る事は、とても大切だ。しっかり、疲労を癒すようにな」
黄金の鎧を纏ったユングヴィ王子が、声をかけながら静かに近づいてきた。
王子の声には、労いと安堵が込められているのを感じる。
「あ、王子! 自分なんかに声をかけていただけるなんて、恐縮っス!」
航太は緊張で声が上ずり、ぎこちなく頭を下げた。
背後では絵美が肩を震わせ、笑いを堪えている。
声を抑えているつもりらしいが、クスクスという音がはっきりと漏れていた。
足元では、復活したガーゴが腹を抱えて転げ回っている。
(コイツら……ふざけやがって! 相手は王子だぞ! 緊張するに決まってんだろーが! 絵美だけでもムカつくのに、ガーゴまで笑い転げやがって!)
航太の内心の叫びをよそに、ユングヴィ王子は穏やかな笑みを浮かべた。
「君たちは、なんとも不思議な空気をまとっている。私の前で、こんなに無邪気に笑える者はいないよ。だが……こんな時だからこそ、笑える瞬間は貴重だと思わないか?」
ユングヴィ王子の優しさの籠った言葉に、航太は少し気まずそうに絵美とガーゴを睨む。
「すみませんでした! 王子の前で、とんだ失礼を! こいつら、少し……いやだいぶ、頭のネジが飛んでまして……」
ユングヴィ王子は柔らかく笑い、航太の肩を軽く叩く。
「君だって、王子の前とは思えない言葉遣いだぞ」
その声音には一切の棘がなく、むしろ温かな気遣いが感じられる。
航太は、王族に対する偏見が少しずつ解けていくのを感じた。
「はは……本当に、すみませんでした」
「いいんだ。いつまでも、その純粋さを失わないでくれ。戦争は、心を蝕む。君たちのような戦に慣れていない者には、特にな。だからこそ、気を緩める時間は必要だ」
(王子って立場なのに、俺たちのために優しく話しかけてくれてる。嫌な奴もいるけど、優しい人だっているんだ。正直、この人のためなら戦えるかもしれない。上に立つ者にとって、大事な素質だよな……)
ユングヴィ王子が自らの部隊へと戻る後ろ姿に、航太は思わず深く頭を下げる。
「航ちゃん……王子って、ホント感じのイイ人だね。私たちの気持ち、全部わかってくれてるみたい!」
絵美の言葉に、航太は静かに頷いた。
「そうだな。智美のこともあったし……今回の戦いは大切な人を失いたくないって、ずっとそう思って戦った。でも今日、スルトの炎で焼かれた人たち……あの人たちにも、きっと大切な人がいた。嫌な奴もいたけど、そんな人にだって帰りを待ってた人がいたはずなんだ。そんな人達にとっての大切な大勢の命が、今日失われた……」
唇を噛む航太の横で、絵美の表情も曇る。
「王子の事も、昨日までほとんど知らなかった。今王子がいなくなるのと、昨日いなくなるのでは全然違うよね……今日焼かれちゃった人達の中にも、私たちの大切な人になったかもしれない人がいたかもしれないのに……ね」
絵美の瞳から、ポロリと涙がこぼれ落ちる。
戦いが終わった安堵感と目の前で多くの命が消えた悲しみが、絵美の心を押し潰した。
「ミーちゃん、考えても仕方ないでしゅよ! ほら、ガーゴの羽で、涙拭くでしゅ! ほれほれーでしゅ!」
ガーゴが汚れた羽で絵美の顔を拭くと、絵美の目元はみるみるパンダのように黒ずんでいく。
その滑稽な姿に、航太は思わず吹き出した。
「ちょっと、航ちゃん! 笑ってないで助けてよ! ガーゴ、汚い羽で拭かないでよ! 洗ってないでしょ? もうー!」
泣きながら笑う絵美の顔は、まるで目の前に天使が現れたかのように航太の胸を掴んだ。
そんな情緒不安定気味の2人の耳に、アルパスターの厳かな声が響いてくる。
「連戦で疲れていると思うが、各将は集まってくれ! 今回の戦闘の状況報告を頼む!」
航太の顔が、一瞬で曇った。
ゲンナリした航太の顔を確認した絵美は、パンダ化した目を見開く。
「まさかとは思うケド……一応確認! 私たちも、参加するワケ?」
航太は、無言で頷く。
「もー、超過勤務すぎるよー! ブラック企業だって、もう少しマシだってーの! 航ちゃんだけで、行ってきて!」
「そんなわけにいくか! ここは軍隊だぞ! んで、俺もキミも将としての扱いなんだ。会議系は、全部参加って言われてるだろ……」
航太は、がっくりと肩を落とす。
そこへガーゴが再び飛び上がり、汚い羽で航太の頭をベシベシ叩き始める。
「何でしゅか、その顔は? 将でしゅって? そんな顔で、よく言ったでしゅー! ぷっ、笑かしてくれるでしゅね!」
「アヒル野郎! 会議が終わったら、覚えておけよ! おい絵美、行くぞ!」
航太は頭からガーゴを引っぱがし、芝生に叩きつける。
「はいよー。なんとかして、人の話を聞きながら寝る方法を考えよー」
開き直った絵美を連れて、航太たちはアルパスターのいるテントへと向かう。
その様子を遠くから眺めていたユングヴィ王子は、空を仰ぐ。
(フレイヤ……アーネとミルティの魂を宿した神器が、戻ってきたぞ。そして、お前が命を懸けて守り通した方も一緒だ。今回こそ、救ってみせる……我が妹よ!)
戦場の重圧と仲間との絆が交錯する中、彼らの物語はまだ終わらない……
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知っている人間が、この世から消える痛み……二度と味わいたくない苦しみが、航太の心を締め付ける。
もう、誰も失いたくない。
そう、切実に願った。
「航太もミーちゃんも、無事でしゅね~! ホント、良かったでしゅ~!」
突然、目の前を白い影が宙を舞う。
疲れ果てた絵美の胸に、ガーゴが飛び込んできたのだ。
その勢いに、絵美は一瞬たじろぐ。
「ガーゴも、何事も無さそうだねー! よかったよー! でもでもー、私は大変疲れているのだよ。なもんで、キャッチ・アンド・リリースぅ!」
絵美はノータイムで、ガーゴを航太に向かって放り投げる。
戦闘の妨げになるガーゴは、ガイエン軍との遭遇時に伝令と共に幕舎へ戻されていた。
高々と放り投げられたガーゴは、ゆっくりと航太に向かって落下していく。
(ガーゴも、心配してくれてたんだな。絵美の魂の情報が宿ってるんだから、何かあったのかって感覚があったのかもな……って、うわっ!)
疲労でぼんやりしていた航太は、絵美から放り投げられたガーゴが目の前に迫るのに気付かなかった。
白い物体が急に視界を埋め、驚きのあまり心の中で叫び声を上げた航太。
反射的にその羽を掴み、地面に叩きつけてしまった。
「な、なぜ……こんな、酷い仕打ちを……でしゅ……」
地面に倒れたガーゴが、力尽きたふりで大げさに呻く。
航太は心配するどころか、地面で死んだフリをするガーゴを呆れた目で見下ろす。
「死んだ……か。絵美、遊び相手がいなくなって残念だったな」
「今日は、ガーゴと遊ぶ余力も無いし……面白い動きに、突っ込む気分でもないしなぁ……」
絵美の軽やかな声に、ガーゴは牙を剥く。
「ガーゴは、面白くしようとしてる訳じゃないんでしゅけど! ミーちゃんの胸に飛び込んだら、投げられた上に叩きつけられて、勝手に殺されたんでしゅが?」
ガーゴの滑稽な姿に、航太は久しぶりに笑みをこぼした。
戦場の重苦しい空気の中で、こんな瞬間が心を軽くしてくれる。
そこへ、低く落ち着いた声が響く。
「ランカストの部隊は、壊滅状態だと聞いたが……航太に絵美、よく無事だったな。生き残る事は、とても大切だ。しっかり、疲労を癒すようにな」
黄金の鎧を纏ったユングヴィ王子が、声をかけながら静かに近づいてきた。
王子の声には、労いと安堵が込められているのを感じる。
「あ、王子! 自分なんかに声をかけていただけるなんて、恐縮っス!」
航太は緊張で声が上ずり、ぎこちなく頭を下げた。
背後では絵美が肩を震わせ、笑いを堪えている。
声を抑えているつもりらしいが、クスクスという音がはっきりと漏れていた。
足元では、復活したガーゴが腹を抱えて転げ回っている。
(コイツら……ふざけやがって! 相手は王子だぞ! 緊張するに決まってんだろーが! 絵美だけでもムカつくのに、ガーゴまで笑い転げやがって!)
航太の内心の叫びをよそに、ユングヴィ王子は穏やかな笑みを浮かべた。
「君たちは、なんとも不思議な空気をまとっている。私の前で、こんなに無邪気に笑える者はいないよ。だが……こんな時だからこそ、笑える瞬間は貴重だと思わないか?」
ユングヴィ王子の優しさの籠った言葉に、航太は少し気まずそうに絵美とガーゴを睨む。
「すみませんでした! 王子の前で、とんだ失礼を! こいつら、少し……いやだいぶ、頭のネジが飛んでまして……」
ユングヴィ王子は柔らかく笑い、航太の肩を軽く叩く。
「君だって、王子の前とは思えない言葉遣いだぞ」
その声音には一切の棘がなく、むしろ温かな気遣いが感じられる。
航太は、王族に対する偏見が少しずつ解けていくのを感じた。
「はは……本当に、すみませんでした」
「いいんだ。いつまでも、その純粋さを失わないでくれ。戦争は、心を蝕む。君たちのような戦に慣れていない者には、特にな。だからこそ、気を緩める時間は必要だ」
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「航ちゃん……王子って、ホント感じのイイ人だね。私たちの気持ち、全部わかってくれてるみたい!」
絵美の言葉に、航太は静かに頷いた。
「そうだな。智美のこともあったし……今回の戦いは大切な人を失いたくないって、ずっとそう思って戦った。でも今日、スルトの炎で焼かれた人たち……あの人たちにも、きっと大切な人がいた。嫌な奴もいたけど、そんな人にだって帰りを待ってた人がいたはずなんだ。そんな人達にとっての大切な大勢の命が、今日失われた……」
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「ミーちゃん、考えても仕方ないでしゅよ! ほら、ガーゴの羽で、涙拭くでしゅ! ほれほれーでしゅ!」
ガーゴが汚れた羽で絵美の顔を拭くと、絵美の目元はみるみるパンダのように黒ずんでいく。
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