雫物語 Rewrite 〜神剣に導かれて神話の世界に行ったら『先祖の恩人の恩人』の姫を救う戦いに巻き込まれただけじゃないらしい〜

くろぷり

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レンヴァル村の戦い

風の伝説1

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 幕舎に足を踏み入れた瞬間、アルパスターの鋭い視線がガヌロンを見据えた。
 空気は張り詰め、薄暗い灯火が2人の顔を照らす。

 アルパスターは、口早に切り出した。

「すまんガヌロン、遅くなった。早速だが、話を聞こう」

 ガヌロンは一瞬たじろいだが直ぐに姿勢を正し、慎重に言葉を選ぶ。

「はっ……しかし、ネイア殿に話を聞かれても大丈夫ですか? ホワイト・ティアラ隊の隊長だとしても、戦闘には関与しない部隊の長です。できるだけ、内密にしたいのですが……」

 アルパスターは片眉を上げ、落ち着いた声で答える。

「ホワイト・ティアラ隊には、智美の関係者もいる。航太や絵美にも、説明は必要になってくる。構わん、話を続けてくれ。智美が、ロキに捕らわれているという話だが……詳細を教えてくれ」

 ガヌロンは静かに頷き、折り畳まれた一枚の手紙を差し出す。

 アルパスターはそれを手に取り、深呼吸をして心を落ち着けながらゆっくりと広げる。
 手紙の文面は簡潔で、冷たくも誠実な印象を与えた。

『水のMyth Knightを預かっている。レンヴァル村にて、引き渡しを行いたい。条件はただ1つ、引き渡しの際は1人で来ること。それ以外は求めない。我々も女性の捕虜を長く預かるのは本意ではない。速やかな引き渡しを望む』

 アルパスターは手紙を読み終えると、怪訝そうな顔を上げガヌロンに視線を向ける。

「これは……どう思う? 文面通りに受け取れば、1人で行けば捕虜は無条件で解放してくれるという事だろう。だが、1人で敵の部隊の真っ只中に行けというのは……」

 ガヌロンは一瞬考え込み、低い声で答えた。

「罠の可能性は、当然考慮すべきです。しかし、ロキの部隊はヨトゥン軍の中でも紳士的と評判です。彼の言葉を信じるなら、素直に応じれば智美殿を無事に取り戻せるかもしれません。確かに、1人で捕虜を迎えに行ける猛者がいれば……の、話ですが」

 アルパスターは顎に手を当て、深く考え込む。

 智美の命が、かかっている。
 貴重な神剣使い……水のMyth Knightだ。
 優先順位は、間違いなく高い。

 一歩間違えれば、貴重な戦力である智美を永遠に失うかもしれないのだ。

 そして作戦の失敗は、航太と絵美の離反に繋がる可能性もある。
 とにかく慎重に、かつ必ず成功させなければならない。

 手紙の文面は一見誠実だが、どうしても引っ掛かる。

「引き渡しの際は、1人で来ること」

 なぜ、わざわざ「引き渡しの際」と限定しているのか? 

 その意図が、読めない。

「捕虜の引き渡しを、受けるしかないでしょうね。文面通りに受け取れば、引き渡し以外の時は1人じゃなくていいはず」

 ガヌロンはレンヴァル村の地図を見ながら、続ける。

「1人で来るという条件さえ守れば、レンヴァル村に部隊を配置しても問題はないはず。ならば、やりようはあります」

 アルパスターは手紙を握りしめ、ロキの真意を読み解こうと頭を巡らせた。

 だが、文面に隠された意図はあまりにも曖昧である。
 危険の匂いを感じつつも、ガヌロンの提案にも一理あると思えた。

 アルパスターが思案している中、幕舎の幕が勢いよく開く。
 息を荒げた兵が、激しい足音を響かせ入ってくる。

「何事だ! 大事な会議中だぞ!」

 ガヌロンが、咄嗟に声を荒げた。

 入ってきた兵士は息を切らし、額に汗を浮かべている。

「申し訳ありません! しかし、レンヴァル村でヨトゥン兵が暴れているとの報が入りました! 戦火が広がっているようです! 村人達にも、被害が……」

 その言葉に、アルパスターとガヌロンの視線が交錯した。

 その場の空気が、一瞬にして凍りつく。

「どういう事だ? ヨトゥン領で、ヨトゥン兵が暴れている? 人間の村とはいえ、自国の民だぞ!」

 アルパスターの声には、苛立ちと困惑が混じる。

「将軍の言う通り、レンヴァル村はヨトゥン領とはいえ人間しか住んでいない村です。それに、捕虜受け渡しの指定された地でもあります。何かあると、考えて動くしかないでしょう。そして、連戦で我が軍の兵は疲弊しています。鎮圧部隊を送るなら、捕虜のことも考慮し少数精鋭がいいかと。受け渡しの機会を、失う事になりかねません」

 アルパスターは、無意識に隣に座るネイアに視線を向けた。

 ネイアは神妙な面持ちで頷き、静かに立ち上がる。

「ホワイト・ティアラ隊も、準備を進めます。村人の治療が必要になるかもしれないし、ヨトゥン兵との戦闘も覚悟する必要があるでしょう。少数精鋭となれば、航太やゼークの力が必要になるでしょうから私から伝えておきます」

「分かった。だが、この件は内密に頼む。慎重に事を運ばねばならん」
 アルパスターの声は重く、決意に満ちていた。

 ネイアはガヌロンに一礼し、幕舎の外へと出る。

 そこには、1人の男が待っていた。
 パーカーのフードを深く被り、顔を隠したその男が静かに口を開く。

「ネイアさん、俺が行きます。話を聞く限り、部隊を動かせば捕虜が危険に晒される。1人で行って、レンヴァル村を救ってみせます。村人を1人でも多く救い、顔を見た敵は、必ず仕留める。その覚悟で……戦ってきます」

 ネイアは男の決意を感じ取り、静かに頷く。

「あなたは、これからの戦いに欠かせない人。でも、ホワイト・ティアラ隊にとっても大切な存在なの。命も心も、無駄にしないで。必ず、生きて帰ってきなさい。隊長命令です」

 男は深く頭を下げ、夜の闇の中へと消える。

 その背中を見送りながら、ネイアの隣に歩み寄ったアルパスターが呟く。

「彼なら、大丈夫だ。戦う力も、心の強さも持っている。夜の闇が彼の秘密を隠し、レンヴァル村を救ってくれる。風の剣が、伝説となるだろうな」

 ネイアは小さく頷き、囁くように言った。

「その力は、信じているわ。でも、彼は優しすぎるの。無理に力を使い過ぎてしまわないか……それだけが、心配なの」

 アルパスターは、ネイアの言葉に静かに同意する。

「だが……救えるのに守れないまま待つより、ずっとましだ。今回は、自分の手で守れるのだからな」

 その声は、夜の闇に溶けるように消えていった。

 レンヴァル村の空は血のように赤く染まり、戦火の炎が天を焦がす。

 村人の叫びが響き、ヨトゥン兵の咆哮が轟く。
 そんな中、小柄な騎士は運命に立ち向かう。

 夜の彼方で、星々が静かに瞬く。
 小柄な騎士の戦いは、歴史に刻まれる伝説の第一歩となるだろう。

 闇を裂き、希望を掴むために。

 彼の剣が……
 彼の瞳が……
 彼の翼が……

 運命の歯車を打ち砕く時がきた事を、予感させていた……
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