雫物語 Rewrite 〜神剣に導かれて神話の世界に行ったら『先祖の恩人の恩人』の姫を救う戦いに巻き込まれただけじゃないらしい〜

くろぷり

文字の大きさ
91 / 92
レンヴァル村の戦い

反撃の翼1

しおりを挟む
「フェルグスさんよぁ! ヨトゥン軍最強と謳われるロキ軍の将軍ともあろう貴様がぁ、たかが人間如きに苦戦ですかぁ? なんとも、情けないなぁ……それとも貴様の親父の圧政から救い出した者たちが殺されるのはぁ、やはり心が痛むのですかぁ?」

 スリヴァルディの毒々しい笑みが、フェルグスの胸に鋭く突き刺さる。

 だがフェルグスはその言葉を無視し、心を鋼で固めた。
 挑発に惑わされる時間はない。

 レンヴァル村……父の圧政に抗いアデストリアの乱に加わった者たちを、フェルグスが集めて導いた先の村。

 ランカストがヨトゥンの将軍ユトムンダスを倒した戦いで失われた者たち……フェルグスが導いた人々は、その代わりに村の発展に尽力していた。

 その事実を知ったスリヴァルディは、フェルグスの母と同志たちの命を天秤にかけ狡猾に揺さぶりをかけてくる。

 それでも、フェルグスは決意を固めていた。

 母も村人たちも、共に救う。

 フードを被った謎の男の提案に乗り迷いを断ち切った瞬間、彼の瞳には揺るぎない光が宿った。

 これまでカラドボルグを伸ばし距離を保ちながら戦ってきたフェルグスだったが、今は違う。

 大地を力強く蹴りつけ、轟音と共にフードの男へと飛び込む。

 両手に握られたカラドボルグが、雷光を纏いながら上段から振り下ろされる。
 その一撃は空気を切り裂き、地面に細かな亀裂を生むほどの威力だった。

 フードの男は、軽やかに動く。
 エアの剣を斜めに構え、カラドボルグの雷鳴のような一撃を軽々と受け流す。

 金属同士がぶつかる甲高い音が僅かに響き、火花が闇夜を一瞬照らす。

「受け流されるのは、想定内だ! だが……これなら、どうだ!」

 フェルグスは叫びながら、唇に獰猛な笑みを浮かべる。
 その顔を見たフードの男は、軽く頷く。

 カラドボルグの剣先がエアの剣と重なり、フードの男の喉元を直線的に捉えた……刹那、カラドボルグが光の速さで伸びる。

 カラドボルグは、まるで意志を持った生き物のように獲物を逃さぬ勢いで突き進む。

 至近距離からの閃光の如き一撃は、常人なら決して避けられぬはずだった。

 フードの男は後方へ跳び、風の力を巧みに操る。


 エアの剣から放たれる柔らかな風が、フードの男の喉元とカラドボルグの剣先に空気のクッションを作り出す。

 カラドボルグに突き刺されたフードの男が、岩壁に叩きつけられる為に飛ばされているように見えただろう。

 カラドボルグは加速していき、その剣先はスリヴァルディが立つ高台の岩壁へと突き進む。

 高速で伸びるカラドボルグは、フードの男を張り付かせたまま岩壁に激突した。

 スリヴァルディは勝利を確信し、冷酷な笑みを深めながらフェルグスの命を奪う策を脳裏に描き始める。

 難敵が1人減っただけでも、満足な成果だ。
 生き残った方も、体力は削られ満身創痍だろう。
 なにより、人質までいる。

 これでは、負ける方が難しい。

 スリヴァルディは、笑いを堪える事ができなかった。

 だからこそ、その瞬間……スリヴァルディは、見逃していた。

 フードの男の瞳が、紅蓮の炎のように赤く輝いた事を……
 赤き瞳の前では、カラドボルグの閃光のような動きすらスローモーションのように映っている事を……
 赤き瞳が輝いた時、炎の翼が出現した事を……

 一瞬にして、フードの男はカラドボルグの剣先から姿を消した。

 岩壁に激突したと思われた身体は、土煙が上がり始めた時にはスリヴァルディのいる高台に運ばれている。
 エアの剣が巻き起こした突風が、一瞬でフードの男を高台へと運んでいた。

 笑っているスリヴァルディの正面……その姿を視界に捉えた時には、鎌鼬のような斬撃が放たれる。

 鋭い風の刃が、フェルグスの母の喉に突きつけられていたスリヴァルディの剣を右腕ごと吹き飛ばす。

「な……なんだぁ?」

 スリヴァルディの声は驚愕に震え、血が地面を赤く染めた。

 右腕を失った痛みに顔を歪めながらも、スリヴァルディは体勢を立て直そうとする。

「遅い……」

 フードの男が、エアの剣を振った。
 風が唸りを上げ、スリヴァルディの身体を突風が襲う。

「ぐわぁっ! これが、狙いだったのかぁ! もう、容赦はいらねぇぁ! 眠っている村人たちを、皆殺しにしろやぁ!」

 スリヴァルディは転がりながら叫び、声を張り上げる。

 その叫びを掻き消すように、雷鳴が轟く。
 カラドボルグから迸る雷光が空を裂き、まるで天が怒りを放ったかのような轟音が辺りを支配する。
 フェルグスが剣を振り上げるたび、雷が地面を焦がし近くの木々が爆ぜる。

 スリヴァルディは、思わずフェルグスの方へ視線を向ける。

「フェルグスぁ! 貴様、ヨトゥンを裏切るつもりかぁ!」

「ふん、ヨトゥンを裏切るだと? 誰が、ヨトゥンに忠誠を誓っている? 私はロキ殿に従い、恩を返しているに過ぎん。そして私の守るべき人の事を、ロキ殿は理解されている。残念だが、貴公に情けをかけてやる理由はない。だが、貴公の相手は私ではない。不運であったな……」

 スリヴァルディの前に立ちはだかったのは、フェルグスではなくフードの男であった。
 静かな威圧感を漂わせ、フードの男は告げる。

「もはや、勝ち目はありませんよ。それでも、まだ戦いますか? 今ならまだ、助ける事も出来るかもしれません……」

 その言葉に、スリヴァルディの顔が怒りに歪む。

「たかが、人間如きがよぉぁ……フェルグスと互角に戦った程度で、勝ったつもりかぁ?  笑わせるなぁ!」

 いつの間にか、失ったはずの右腕が再生している。
 その手にバスタード・ソードを握り直したスリヴァルディが、猛然とフードの男に襲い掛かった。

 剣は唸りを上げ、地面を抉るほどの勢いで振り下ろされる。

 フードの男はエアの剣を軽やかに構え、その一撃を軽々と受け止めた。
 金属がぶつかり合う音が響き、衝撃波が周囲の土埃を巻き上げる。

 スリヴァルディの目は鋭く、今度はフードの男の瞳が再び紅く輝く瞬間を見逃さなかった。

「なんだぁ、その目はぁ! 凰の目だぁ?」

 スリヴァルディの驚愕の叫びが響く中、フードの男は動く。

 エアの剣が風を切り裂き、まるで嵐を操るかのように無数の風刃を放つ。
 スリヴァルディはバスタード・ソードを振り回し風刃を弾こうとするが、その動きは既に遅い。
 フードの男の剣先が、まるで命を持つ蛇のようにスリヴァルディの胸元に迫る。

「この目を見てしまったなら、もう助けられません。残念ですが……」

 風の刃が、スリヴァルディの身体を切り裂いていく……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

生贄の少女と異世界ぐらしwith 持ち物一つ

青樹春夜
ファンタジー
俺の部屋にあるもので異世界生活?高校生の俺の部屋にはマンガ・ゲーム・趣味の物プラス学用品・服・ベッド…。生贄の金髪碧眼少女と一緒に村を立て直すとこから始まる救世主生活!だけど特にスキルがついている気がしない⁈あっ…転生じゃないから? 1話1話は短いです。ぜひどうぞ! このお話の中には生活用品で魔物と戦うシーンが含まれますが、その行為を推奨するものではありません。良い子も悪い子も真似しないようお願い致します。 主人公ヒロキ……17才。 現実世界でつまづき、ある理由によって異世界に呼ばれたヒロキは、その世界で優しさと強さを手に入れる——。 ※数字の表記について——一から九までを漢字表記。それ以上は見やすくアラビア数字で表記しています。 ※他サイトでも公開中。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...