雫物語 Rewrite 〜神剣に導かれて神話の世界に行ったら『先祖の恩人の恩人』の姫を救う戦いに巻き込まれただけじゃないらしい〜

くろぷり

文字の大きさ
10 / 92
神話の世界へ

冒険の始まり6

しおりを挟む
 ふと気づいたその時、風が海から吹きつけてきた。
 航太がその冷たい風を感じていると、遠くから誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。

「航兄! 動くなって言ったでしょ! 探すの大変だったんだから!」

 その声の主、駆け寄ってきたのは一真だった。
 かなり辺りを探し回ったのか息を切らし、その顔には疲労感が伺える。

 一真と合流できた事に絵美は驚き、目を見開いてネイアに視線を向ける。

「凄い! カズちゃん、本当に来た! ネイアさん、まるで魔法使いだね!」

(いや……多分、本当に魔法使いだろ……てか、まずは一真の心配しろよ……)

 航太は心の中でつっこみつつ、まだ呼吸が整っていない一真に声をかける。

「悪い……一真を探そうと思った時に、女性の悲鳴が聞こえたんだよ。で、助けてたんだ。一真にナンチャラって魔法で場所を伝えたから、ここで待てばいいって言われて、色々と聞きながら待ってた訳だが……」

 航太はこれまでの経緯を説明しつつ、一真をとネイアの目が合っている事が気になった。

「どうした、一真?」

「ん……いや、何でもない。人助けをしている人の手だなぁと思って。手の消毒をしなきゃいけないから、乾燥してボロボロになっちゃうんだ。それだけ、沢山の人を救っている証だなぁと思ってね」

 一真の言葉で航太はネイアの手の平に視線を移すが、手荒れをしているかと言われると、そこまででは無い気がする。

「カズちゃん! 女性の手がボロボロとか、失礼だぞー」

「いえ、事実ですから……それに多くの人を救っていると言って頂けるのは、医療部隊の隊長としては誇らしい事です」

 ネイアは一真に笑顔を向けると、軽くお辞儀した。

「ネイアさんは看護長なんだろ? 一真、軍の医療ってヤツも勉強してみたらどうだ? まぁ、軍の部隊に簡単に入れる訳ねぇーと思うが……」

 冗談半分で言った航太だったが、予想に反してネイアは満更でもない顔をしている。

「ネイアさんや軍の人達が許可してくれるなら、勉強してみたいけど……航兄の言う通り、そんな簡単にはいかないよ」

 そう言う一真は、何故か左腕を押さえていたた。
 見れば一真の左腕から血が流れ、走って来た方角の砂浜に赤い点々が続いている。

「カズちゃん、どうしたの! その傷!」

 智美が鋭く気付き、声を上擦らせた。

「大変でしゅ~。血が出てるでしゅよ~。プシュー」

 ガーゴが騒ぎ出す。

「何? このアヒル……の、ヌイグルミ?」

 傷の痛みを忘れた一真は、動くヌイグルミのガーゴを見て目を丸くした。

「最初は、皆んなそういう反応になるよな……エリサさん、一真の腕治せます?」

 航太が尋ねると、エリサはコクリと頷いて一真の腕を取った。

「直ぐに終わります……動かさないで下さいね」

 エリサはそう言って、一真の傷に手をあてた。
 すると手から淡い光が溢れ出し、一真の傷は一瞬で塞がった。

「ありがとうございます。血が流れてたから、助かりました」

 血が止まった事を確認した一真は、治った左腕を振って見せる。

「魔法って……凄いですね!」

 智美は、目を輝かせながら言う。

「そんな……結構深い傷に見えたのに、一瞬で治るなんて……」

 智美の声も聞こえないぐらい驚いたエリサは、呟きながらネイアを見る。
 ネイアは小さく首を横に振ると、それ以上詮索するなとエリサに目で訴えている。

「エリサさん?」

「いえ、その……そうだ、魔法も万能じゃないんですよ! 無から有を作り出すことはできないんですよ。例えば火の魔法を使うなら、火種や火を起こす何かが必要なんです。高位の魔法使いや、特殊なアイテムを持っていれば別ですが……」

 エリサは驚きを表に出さない様にしながら、ネイアに助けを求める。

「その点、Myth Knightの皆さんは神器の力を引き出して、無から有を作り出すことができます。本当に、神に選ばれた英雄ですわ」

 ネイアの口調から、彼女がMyth Knightを心から尊敬していることが伝わった。

「一真さんも、神器を使えるんですか?」

 エリサが一真の顔を覗き込みながら、訪ねた。
 一瞬で傷が治った秘密のヒントを、一真の表情から少しでも得ようとしたのかもしれない。

「俺は……違うよ。そんな力があれば、怪我なんかしないさ。ただの看護師……医療現場で働く事を目指しているヒヨッコだよ」

 一真は笑いながも、可愛い女性の顔を近くに感じて、顔を赤くしながら首を振って否定した。

「おっ、カズちゃんはエリサさんがお気に入りですかぁ~。なになに、お姉さんが相談に乗るぞー」

 絵美の言葉で一真の顔が近くにある事に気付き、今度はエリサが顔を赤くして離れる。

「何やってんだか……ところで、お2人さんはこんな海辺で何してたんだ? よく分かんねぇが、こんな暗い場所で女性2人だけってのは危なかねぇか? 現に、ヨトゥンってのに襲われた訳だし……」

 航太は、エリサとネイアに尋ねた。

「いえ……確かに、その通りなんですけど……ここは、もうヨトゥンの領土みたいなモノだし……」

「まぁまぁ、航兄。皆んな助かったんだし、いいじゃないか。軍の命令で来てるなら言えない事もあるかもしれないし、詮索しなくても……」

 言い淀むネイアを気遣い、一真が助け舟を出した。

「いや、理由ぐらい尋ねてもいいだろ? オレらも散々聞かれたし、怪しまれたりもしたんだからな!」

 航太が声を荒げた瞬間、ガーゴが何故かトイレのスリッパを持って航太の頭を思いっきり引っ叩いた。

「痛ぇ!」

「痛ぇ! でしゅって~。デリカシーのない男は嫌われましゅよ~。あ、もう嫌われてたでしゅか? そうでしゅか、そうでしゅか~」

 後頭部を押さえて震える航太に、ガーゴが追い打ちをかける。

「アヒル野郎……いい度胸だな! 覚醒したMyth Knightの力、見せてやんよ!」

「最近覚えた言葉をソッコー使うと、頭悪そうにみえましゅよ~。あ、もう悪かったでしゅね! ごめんでしゅ~」

 話そっちのけで、怒りに染まった航太とガーゴの追いかけっこが始まる。

「ナイス! ガーゴ!」

 絵美がガッツポーズでガーゴの応援を開始し、智美はネイアに向けてウィンクする。

「2人とも、ごめんなさい。航兄は、あれで結構頼りにもなるし、頭も悪くはないんだ。ただ、状況に流されやすいと言うか……」

 一真はそう言うと、近くに落ちてたバケツを拾いエリサに差し出す。

「えっ? ああ……ありがとうございます! 一真さん」

 一真の考えを理解して、エリサは感謝しながらバケツを受け取った。

「くっそー、あのアヒル野郎……逃げ足だけはクソ早ぇ! そうだ、こんな真夜中に海辺で何をしてたんだ? って話をしてたんだった」

 空気の読まない頭の良さを発揮した航太は、直前までの話題を思い出していた。

「患者さんの傷を洗ったり、水を運ぶために来たんです。最近の戦闘で怪我をした人が沢山いて……気が動転して、忘れてしまっていました」

 自分の仕事を思い出したフリをしたエリサは、バケツに水を汲もうとした。

「海水でやるのか? 傷を洗うなら、綺麗な水でやるだろ? それに、力仕事は男の仕事だろ? なんで女性が、重い水を運ぶんだ?」

 航太は疑問を口にするが、その言葉にネイアは怪訝な顔をする。

「水を運んだり、傷の手当てをするのは女性の仕事です。それに、海水というのは何ですか? 湖から汲む水も、川から汲む水も変わらないですけど」

「戦争中は男性が命を賭けて戦うから、私たちも出来る事を頑張らなきゃいけないんです。航太さんは、優しいんですね。重い物を運ぶのは男性って、なかなか言ってくれないですよ。それに、治療で使う水は魔法で綺麗にするんです。なので、どこの水でも関係ないんですよ」

 ネイアの少し棘のある言葉を聞いて、エリサは慌てて柔らかい言葉で話を引き継いだ。

「そうなんですね! 私たちの住んでいた地域では大きな湖を海って呼んでいて、その水には塩が混じっているの。そのまま使うには適してなくて、濾過したりする事が一般的だったから……」

 航太が喋るとややこしくなる……そう感じた智美が、急いで取り繕う。

「じゃあ、俺が手伝うよ。航兄達みたいに戦う力もないし、こんな事くらいしか手伝えないからね!」

 一真はエリサのバケツを奪うように受け取ると、その中に水を満タンまで入れる。

「ありがとう……ございます」

 呆気にとられるエリサを横目に、ネイアは踵を返す。

「では皆さん、我々の夜営地に案内しますね! 今夜、泊まる場所も無いのでしょう?」

 そう言うと、ネイアが先頭に立って歩き出した。

「みーちゃん! 行くよ! 今晩の寝床を用意してくれるって!」

 智美が、まだじゃれ合っている絵美とガーゴに声をかける。

「わーい! 野宿回避! ラッキーだったね!」

「お風呂に入るでしゅ~。砂で汚れたから、お風呂で洗い流すでしゅよ~」

「てめーは付いてくんな! うっとうしぃ!」

 やれやれ、騒がしい旅になりそうだ……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

生贄の少女と異世界ぐらしwith 持ち物一つ

青樹春夜
ファンタジー
俺の部屋にあるもので異世界生活?高校生の俺の部屋にはマンガ・ゲーム・趣味の物プラス学用品・服・ベッド…。生贄の金髪碧眼少女と一緒に村を立て直すとこから始まる救世主生活!だけど特にスキルがついている気がしない⁈あっ…転生じゃないから? 1話1話は短いです。ぜひどうぞ! このお話の中には生活用品で魔物と戦うシーンが含まれますが、その行為を推奨するものではありません。良い子も悪い子も真似しないようお願い致します。 主人公ヒロキ……17才。 現実世界でつまづき、ある理由によって異世界に呼ばれたヒロキは、その世界で優しさと強さを手に入れる——。 ※数字の表記について——一から九までを漢字表記。それ以上は見やすくアラビア数字で表記しています。 ※他サイトでも公開中。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...