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神話の世界へ
冒険の始まり7
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夜営地に着くと、目視で数えても数10個しかないテントに航太は疑問を抱いた。
(攻めるにしても守るにしても、兵の数が少なすぎないか? 敵の領地に入ってるみたいな事を言ってたけど、どこに攻め込むつもりなんだ?)
航太は心許ない戦力であろう野営地の内部を見ながら、歩を進める。
「こちらです」
ネイアは航太達を招き入れる様に、軍の大将に通じる者としてテントの入口を開けた。
そこは他のテントとは一線を画すほどの大きさで、両脇には雄大な旗が掲げられている。
「うー、緊張するなぁ! 熊をも素手で倒すような人だったら、どーしよう!」
絵美が、演技めいた泣き顔を見せる。
「もし悪い奴なら、ガーゴがぶっ飛ばしてやりましゅよ~」
(おいおい、マジか? この距離で、大声だすんじゃねぇ! 今のは、完全に中まで響いてんぞ? なんで、アヒルの化け物まで連れてきてんだよ!
航太はキッと絵美を睨むが、彼女は首を傾げ惚けて見せた。
「夜分に失礼いたします」
後ろで騒いでる航太達を無視して、智美と一真が丁寧にお辞儀をしながら先にテントに入る。
次いでガーゴを抱えた絵美、そして航太が続いた。
松明の光が照らす内部は、暑苦しいほどの熱気に包まれていた。
汗っかきの一真は何度も額を拭うが、航太はその暑さも感じないほど目の前の男に圧倒されていた。
先のヨトゥン兵との戦いで、ある程度の自信もついた……その力も示したと思っていたのに……その圧倒的な存在感に、身がすくんだ。
座っているためその全貌は分からないが、190センチはあろうかという長身、筋肉はまるで神話の巨人を思わせる。
髪は肩にかかる長さで、やや波打っている。
ネイアが事前に経緯を説明していたが、航太と智美が補足の説明も含めて、これまでの話をした。
大柄な指揮官であり騎士であるアルパスター・ディノと名乗った男は、立て掛けてある航太たちの武器を一瞥すると、再び彼らの前に座った。
「成る程な、確かに全て神器だ。これを操り、力を示したと言うのならば、全員騎士として認めよう」
アルパスターはそう言うと、突然立ち上がり頭を下げた。
「君たち、我々と共に戦ってはくれないか?」
絵美は突然の迫力に、みじろいで少し後ろに下がった。
そんな中、航太は自分達の神剣に目を向ける。
立て掛けてある剣は、他の武器と大差ないようにも見える。
(どうして見ただけで、神器と分かる? 長い間、オレ達の世界にあった物だ。見た事も無いはずだが……)
疑問を抱き、その疑問を航太が問いかけようとした……まさにその時。
「ちょっと、待ってください! 確かにさっきはネイアさんたちを助けたけど、私は……私達は、もう人を傷つけたくないんです! 武器はお貸ししますから、他の兵隊さんたちで使ってください! 私達が必要な時に返してもらえれば、それでいいですから!」
突然、智美が感情を露わに叫んだ。
一真の願いを考慮し、この世界に来た。
しかし、それと戦争に参加する事はイコールではない。
そもそも、この世界に戦いに来た訳ではないと智美は思った。
少しの沈黙が流れた後、ネイアが静かに智美に語りかける。
「智美様……神器は一度持ち主を選ぶと、他の誰にも扱えなくなるのです。私でもアルパスター将軍でも、剣を持つ事すらできないんです……」
「智美殿……貴女の神剣、触らせてもらってもよいか?」
智美が頷いたのを確認したアルパスターは、傍らの草薙剣を握り強く力を込めるが、剣は微動だにしない。
智美の身体と同じぐらいあると錯覚してしまう腕の太さがあるアルパスターが額に汗を滲ませる程に力を込めるが、それでも草薙剣は少しも動かない。
「なんで? 今までは、お父さんだって普通に持ってたのに? 私には、重さを感じないぐらいなのに……」
智美は、信じられない表情で草薙剣を見つめる。
「ヨトゥン兵との戦いで、神器が君たちを認めたのだろう。神器が軽くなり、恐怖心が消えた瞬間があったはずだ。必死だっただろうから、気付かなかったかもしれんが……」
アルパスターの言葉に、航太は思い出す。
(確かに、力を感じる瞬間があった! それに、何故かヨトゥン兵相手に恐怖もなく立ち向かえた……)
智美と絵美も、同様の経験を思い起こしているようだ。
「神器が主を決める前は普通の質量で誰にでも持てるが、主が決まった後は他者には手にできない。主が亡くなれば元に戻るが……主が最も使いやすい重さになり、他の者は扱う事すら許されない。そして、神器の数は限られている。君たちは、本当に貴重な存在なのだ。無論、君達が成そうとしている事も全力でサポートしよう。食事と寝床も用意できるしな」
アルパスターは、深々と頭を下げる。
迷う航太たちを見て、一真が初めて口を開いた。
「アルパスター将軍、今の戦いが何故起きているのか……何の為の戦いなのか、説明してもらえませんか? 本当に何も知らなくて……」
アルパスターは一真に視線を向けると、深々と一礼する。
「失礼いたしました。自分達の都合ばかりの話をしてしまって、申し訳ありません」
そう言うと、アルパスターは一真と視線が合う様に自らの腰を落とす。
「皆さんは、現在の状況を何も知らないのでしたな?」
アルパスターの問いに、一真が頷く。
「ねーねー、なんかカズちゃんとオジ様って主従関係みたいだねー」
「絵美、余計な事を言うんじゃねー。現代社会と違うんだ。下手な事を言うだけで、殺される可能性もあんだぞ……」
耳元で囁いてきた絵美を窘めた航太だったが、確かに違和感がある。
しかし一真の願いで旅に出ていると説明している為、彼をリーダーだと勘違いしている可能性も充分ある。
そんな航太の疑問が解決する前に、アルパスターが話し始めた。
「この戦争は、開戦してから約100年が経つ。突然、ヨトゥン軍が南の辺境の国ムスペルヘイムに進軍してきたことが始まりだ。ヨトゥンの国ヨトゥンヘイムから、人間界への唯一の通路は断崖に囲まれていてな……ヨトゥン軍は、ムスペルヘイムに大軍を送ることは不可能だった……」
アルパスターは、そこで一度言葉を切った。
「その通路を抑えてしまえば、そうそう攻め込めないだろうな。敵の長細い隊列に対して、横に幅広く隊列が組めれば、敵の横っ腹に長距離攻撃が突き刺さる。侵入してくる場所だけ蓋をしちまえば、圧倒的に有利だ!」
航太の言葉にアルパスターは驚きながら頷いて、話を続ける。
「航太殿の言う通りだ。しかしロキという者がヨトゥン軍の将軍となり、ムスペルヘイム付近に暮らす一つ目の巨人達がヨトゥン側に付いた。ヨトゥンヘイム側から小数の精鋭の部隊、内から一つ目の巨人の攻撃を受け、ムスペルヘイム王国騎士……ガディア騎士団の強者たちもその前に屈していった。そしてムスペルヘイムは、ミュルクヴィズと呼ばれる暗い森に覆われた……」
「ムスペルヘイムがヨトゥンと戦っている間に、この世界の全ての国が結束したの。それを7国同盟と呼んで、各国から最強の騎士が集められた。ヨトゥンに対抗できる神器を探し、ヨトゥンに立ち向かう為に……」
ネイアの言葉に、希望の色を感じない。
失敗した訳じゃなくても、成功とは言い難い……そんな状況なのだろう。
「この世界は、国が7個しかなかったんですね? 神器でなければ、ヨトゥンは倒せないんですか?」
確認する様に、一真が問う。
「いや……普通の武器でも、倒せるには倒せる。しかしヨトゥンの力は強大で、兵卒クラスでも優秀な騎士3人がかりで何とか倒せるぐらいだ。指揮官クラスになると、神器と同等の特殊能力を使う者も出くるから、神器が無いと厳しいのは間違いない」
アルパスターは過去の苦しい戦いを思い出し、首を振りながら声を絞り出す。
「この部隊の目的を聞いていましたよね? この部隊は、ベルヘイムの姫……ヴァナディース様を救うために行軍しているわ」
ネイアは、何故か声を抑えて言った。
「姫を救うためにだけに、こんな大規模な部隊を?」
航太は、率直な疑問をアルパスターに投げかけた。
ネイアもアルパスターも、その話題には触れてほしくない雰囲気である。
姫を救う部隊という事で納得してくれ……そんな感情が見て取れる。
自分1人なら、それで納得したかもしれない。
だが戦争に関わるなら、智美や絵美……一真の命が危険に晒される事になる。
航太は、出来るだけ詳細な情報を求めた。
「そうだ。ヴァナディース姫は、ベルヘイム国に不可欠な存在だ。故に、国王は遊撃軍として精鋭部隊を編成した。それが、この部隊だ」
アルパスターは、慎重な言葉を選びながら答える。
(やっぱり、遠回しに話すのは駄目か……直接聞くしかないな……)
航太は決意し、アルパスターの目を真っ直ぐに見る。
「遊撃部隊だと言うなら、数が多すぎませんか? 確かにヨトゥン兵を倒すには数が必要と思いますが、この数では行軍速度が遅くなるでしょう? 姫が殺されてしまったら、救出軍の意味がなくなりますよね? 考えられるとしたら、姫が殺される可能性が少ない……何かの交換条件があるとか?」
「それは……」
ネイアが言いかけたのを、アルパスターが目で制する。
「私も気になります。ヴァナディース姫が殺されないという確証があるから、行軍速度をギリギリにして救出の可能性を高める人員配置にしてるんじゃないですか?」
智美も、自身が感じた疑問を口にする。
航太も智美も、幼少期から神話の話を繰り返し聞いてきた。
歴史に興味を持った2人は、子供の頃にアーサー王の伝説や三国志などの漫画を読んで、その戦いにワクワクしたりもしていた。
大人になり、そんな本も読まなくなってしまったが……
それでも、今の現状に疑問を持つ程度の知識は頭にあった。
「分かった……可能な限り話そう……」
アルパスターは観念して、小声で外に聞こえないように語り始める。
「確かに、ヨトゥン側からヴァナディース姫と交換で要求されているものがある」
アルパスターは、真剣な表情で話始めた。
絵美とガーゴまでもが、真剣な顔で話を聞いている。
「交換条件とされているのは、ミステルテインと呼ばれる神剣だ。ミステルテインは太古の昔、母神フリッグが直接ベルヘイムに託した神剣。そう簡単にヨトゥンに渡せるものではない」
「ミステルテインと姫を交換する条件として、ミステルテインがヨトゥン側に渡るまで姫を殺さない約束をしたのよ」
アルパスターの話を引き継いで、ネイアが説明する。
(つまり姫の価値がミステルテインって神剣と同等、あるいはそれ以上にあるということか……)
航太が考えをまとめようとしたその時、突然1人の兵士がテントに飛び込んできた。
「報告します! クロウ・クルワッハの部隊が、ベルヘイム最北端のオゼス村に進行しました!」
「なに! アデリア将軍の部隊は?」
アルパスターが声を荒らげる。
「アデリア・ホーネ将軍は、ベルヘイム東の国境でロキ軍と交戦中であります!」
「間に合わないか……ゼークの隊をオゼス村に急行させろ! 生き残った者を1人でも多く助けるんだ!」
アルパスターは怒鳴る様に指示を出すと、航太達を見る。
「聞いての通りだ。お前たちも、一緒に行ってくれ。戦場を見てから……さっきの答えは、それからでいい……」
その重い雰囲気と言葉に、航太たちはただ頷くことしかできなかった……
(攻めるにしても守るにしても、兵の数が少なすぎないか? 敵の領地に入ってるみたいな事を言ってたけど、どこに攻め込むつもりなんだ?)
航太は心許ない戦力であろう野営地の内部を見ながら、歩を進める。
「こちらです」
ネイアは航太達を招き入れる様に、軍の大将に通じる者としてテントの入口を開けた。
そこは他のテントとは一線を画すほどの大きさで、両脇には雄大な旗が掲げられている。
「うー、緊張するなぁ! 熊をも素手で倒すような人だったら、どーしよう!」
絵美が、演技めいた泣き顔を見せる。
「もし悪い奴なら、ガーゴがぶっ飛ばしてやりましゅよ~」
(おいおい、マジか? この距離で、大声だすんじゃねぇ! 今のは、完全に中まで響いてんぞ? なんで、アヒルの化け物まで連れてきてんだよ!
航太はキッと絵美を睨むが、彼女は首を傾げ惚けて見せた。
「夜分に失礼いたします」
後ろで騒いでる航太達を無視して、智美と一真が丁寧にお辞儀をしながら先にテントに入る。
次いでガーゴを抱えた絵美、そして航太が続いた。
松明の光が照らす内部は、暑苦しいほどの熱気に包まれていた。
汗っかきの一真は何度も額を拭うが、航太はその暑さも感じないほど目の前の男に圧倒されていた。
先のヨトゥン兵との戦いで、ある程度の自信もついた……その力も示したと思っていたのに……その圧倒的な存在感に、身がすくんだ。
座っているためその全貌は分からないが、190センチはあろうかという長身、筋肉はまるで神話の巨人を思わせる。
髪は肩にかかる長さで、やや波打っている。
ネイアが事前に経緯を説明していたが、航太と智美が補足の説明も含めて、これまでの話をした。
大柄な指揮官であり騎士であるアルパスター・ディノと名乗った男は、立て掛けてある航太たちの武器を一瞥すると、再び彼らの前に座った。
「成る程な、確かに全て神器だ。これを操り、力を示したと言うのならば、全員騎士として認めよう」
アルパスターはそう言うと、突然立ち上がり頭を下げた。
「君たち、我々と共に戦ってはくれないか?」
絵美は突然の迫力に、みじろいで少し後ろに下がった。
そんな中、航太は自分達の神剣に目を向ける。
立て掛けてある剣は、他の武器と大差ないようにも見える。
(どうして見ただけで、神器と分かる? 長い間、オレ達の世界にあった物だ。見た事も無いはずだが……)
疑問を抱き、その疑問を航太が問いかけようとした……まさにその時。
「ちょっと、待ってください! 確かにさっきはネイアさんたちを助けたけど、私は……私達は、もう人を傷つけたくないんです! 武器はお貸ししますから、他の兵隊さんたちで使ってください! 私達が必要な時に返してもらえれば、それでいいですから!」
突然、智美が感情を露わに叫んだ。
一真の願いを考慮し、この世界に来た。
しかし、それと戦争に参加する事はイコールではない。
そもそも、この世界に戦いに来た訳ではないと智美は思った。
少しの沈黙が流れた後、ネイアが静かに智美に語りかける。
「智美様……神器は一度持ち主を選ぶと、他の誰にも扱えなくなるのです。私でもアルパスター将軍でも、剣を持つ事すらできないんです……」
「智美殿……貴女の神剣、触らせてもらってもよいか?」
智美が頷いたのを確認したアルパスターは、傍らの草薙剣を握り強く力を込めるが、剣は微動だにしない。
智美の身体と同じぐらいあると錯覚してしまう腕の太さがあるアルパスターが額に汗を滲ませる程に力を込めるが、それでも草薙剣は少しも動かない。
「なんで? 今までは、お父さんだって普通に持ってたのに? 私には、重さを感じないぐらいなのに……」
智美は、信じられない表情で草薙剣を見つめる。
「ヨトゥン兵との戦いで、神器が君たちを認めたのだろう。神器が軽くなり、恐怖心が消えた瞬間があったはずだ。必死だっただろうから、気付かなかったかもしれんが……」
アルパスターの言葉に、航太は思い出す。
(確かに、力を感じる瞬間があった! それに、何故かヨトゥン兵相手に恐怖もなく立ち向かえた……)
智美と絵美も、同様の経験を思い起こしているようだ。
「神器が主を決める前は普通の質量で誰にでも持てるが、主が決まった後は他者には手にできない。主が亡くなれば元に戻るが……主が最も使いやすい重さになり、他の者は扱う事すら許されない。そして、神器の数は限られている。君たちは、本当に貴重な存在なのだ。無論、君達が成そうとしている事も全力でサポートしよう。食事と寝床も用意できるしな」
アルパスターは、深々と頭を下げる。
迷う航太たちを見て、一真が初めて口を開いた。
「アルパスター将軍、今の戦いが何故起きているのか……何の為の戦いなのか、説明してもらえませんか? 本当に何も知らなくて……」
アルパスターは一真に視線を向けると、深々と一礼する。
「失礼いたしました。自分達の都合ばかりの話をしてしまって、申し訳ありません」
そう言うと、アルパスターは一真と視線が合う様に自らの腰を落とす。
「皆さんは、現在の状況を何も知らないのでしたな?」
アルパスターの問いに、一真が頷く。
「ねーねー、なんかカズちゃんとオジ様って主従関係みたいだねー」
「絵美、余計な事を言うんじゃねー。現代社会と違うんだ。下手な事を言うだけで、殺される可能性もあんだぞ……」
耳元で囁いてきた絵美を窘めた航太だったが、確かに違和感がある。
しかし一真の願いで旅に出ていると説明している為、彼をリーダーだと勘違いしている可能性も充分ある。
そんな航太の疑問が解決する前に、アルパスターが話し始めた。
「この戦争は、開戦してから約100年が経つ。突然、ヨトゥン軍が南の辺境の国ムスペルヘイムに進軍してきたことが始まりだ。ヨトゥンの国ヨトゥンヘイムから、人間界への唯一の通路は断崖に囲まれていてな……ヨトゥン軍は、ムスペルヘイムに大軍を送ることは不可能だった……」
アルパスターは、そこで一度言葉を切った。
「その通路を抑えてしまえば、そうそう攻め込めないだろうな。敵の長細い隊列に対して、横に幅広く隊列が組めれば、敵の横っ腹に長距離攻撃が突き刺さる。侵入してくる場所だけ蓋をしちまえば、圧倒的に有利だ!」
航太の言葉にアルパスターは驚きながら頷いて、話を続ける。
「航太殿の言う通りだ。しかしロキという者がヨトゥン軍の将軍となり、ムスペルヘイム付近に暮らす一つ目の巨人達がヨトゥン側に付いた。ヨトゥンヘイム側から小数の精鋭の部隊、内から一つ目の巨人の攻撃を受け、ムスペルヘイム王国騎士……ガディア騎士団の強者たちもその前に屈していった。そしてムスペルヘイムは、ミュルクヴィズと呼ばれる暗い森に覆われた……」
「ムスペルヘイムがヨトゥンと戦っている間に、この世界の全ての国が結束したの。それを7国同盟と呼んで、各国から最強の騎士が集められた。ヨトゥンに対抗できる神器を探し、ヨトゥンに立ち向かう為に……」
ネイアの言葉に、希望の色を感じない。
失敗した訳じゃなくても、成功とは言い難い……そんな状況なのだろう。
「この世界は、国が7個しかなかったんですね? 神器でなければ、ヨトゥンは倒せないんですか?」
確認する様に、一真が問う。
「いや……普通の武器でも、倒せるには倒せる。しかしヨトゥンの力は強大で、兵卒クラスでも優秀な騎士3人がかりで何とか倒せるぐらいだ。指揮官クラスになると、神器と同等の特殊能力を使う者も出くるから、神器が無いと厳しいのは間違いない」
アルパスターは過去の苦しい戦いを思い出し、首を振りながら声を絞り出す。
「この部隊の目的を聞いていましたよね? この部隊は、ベルヘイムの姫……ヴァナディース様を救うために行軍しているわ」
ネイアは、何故か声を抑えて言った。
「姫を救うためにだけに、こんな大規模な部隊を?」
航太は、率直な疑問をアルパスターに投げかけた。
ネイアもアルパスターも、その話題には触れてほしくない雰囲気である。
姫を救う部隊という事で納得してくれ……そんな感情が見て取れる。
自分1人なら、それで納得したかもしれない。
だが戦争に関わるなら、智美や絵美……一真の命が危険に晒される事になる。
航太は、出来るだけ詳細な情報を求めた。
「そうだ。ヴァナディース姫は、ベルヘイム国に不可欠な存在だ。故に、国王は遊撃軍として精鋭部隊を編成した。それが、この部隊だ」
アルパスターは、慎重な言葉を選びながら答える。
(やっぱり、遠回しに話すのは駄目か……直接聞くしかないな……)
航太は決意し、アルパスターの目を真っ直ぐに見る。
「遊撃部隊だと言うなら、数が多すぎませんか? 確かにヨトゥン兵を倒すには数が必要と思いますが、この数では行軍速度が遅くなるでしょう? 姫が殺されてしまったら、救出軍の意味がなくなりますよね? 考えられるとしたら、姫が殺される可能性が少ない……何かの交換条件があるとか?」
「それは……」
ネイアが言いかけたのを、アルパスターが目で制する。
「私も気になります。ヴァナディース姫が殺されないという確証があるから、行軍速度をギリギリにして救出の可能性を高める人員配置にしてるんじゃないですか?」
智美も、自身が感じた疑問を口にする。
航太も智美も、幼少期から神話の話を繰り返し聞いてきた。
歴史に興味を持った2人は、子供の頃にアーサー王の伝説や三国志などの漫画を読んで、その戦いにワクワクしたりもしていた。
大人になり、そんな本も読まなくなってしまったが……
それでも、今の現状に疑問を持つ程度の知識は頭にあった。
「分かった……可能な限り話そう……」
アルパスターは観念して、小声で外に聞こえないように語り始める。
「確かに、ヨトゥン側からヴァナディース姫と交換で要求されているものがある」
アルパスターは、真剣な表情で話始めた。
絵美とガーゴまでもが、真剣な顔で話を聞いている。
「交換条件とされているのは、ミステルテインと呼ばれる神剣だ。ミステルテインは太古の昔、母神フリッグが直接ベルヘイムに託した神剣。そう簡単にヨトゥンに渡せるものではない」
「ミステルテインと姫を交換する条件として、ミステルテインがヨトゥン側に渡るまで姫を殺さない約束をしたのよ」
アルパスターの話を引き継いで、ネイアが説明する。
(つまり姫の価値がミステルテインって神剣と同等、あるいはそれ以上にあるということか……)
航太が考えをまとめようとしたその時、突然1人の兵士がテントに飛び込んできた。
「報告します! クロウ・クルワッハの部隊が、ベルヘイム最北端のオゼス村に進行しました!」
「なに! アデリア将軍の部隊は?」
アルパスターが声を荒らげる。
「アデリア・ホーネ将軍は、ベルヘイム東の国境でロキ軍と交戦中であります!」
「間に合わないか……ゼークの隊をオゼス村に急行させろ! 生き残った者を1人でも多く助けるんだ!」
アルパスターは怒鳴る様に指示を出すと、航太達を見る。
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