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紅の剣士と恐怖の剣
赤き悲劇1
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「こんな綺麗な宝石、見た事ない……本当に、貰っちゃっていいの?」
エストはまるで燃えるような赤い石の嵌め込まれているペンダントを手に取り、その美しさに魅了されながらガイエンに問いかけた。
「うん……母さんから貰った物なんだけど、2つあるから1つあげるよ」
ガイエンはエストがそれを愛してくれることに、心の中では喜びを爆発させていた。
しかし恥ずかしさから、ぶっきらぼうに答える。
「ありがとう! 本当に嬉しい! ティアにも病気が治ったら、見せてあげよ!」
エストはペンダントを首にかけ、その輝きと共に太陽の様な笑顔をガイエンに見せた。
「ティア……早く良くなるといいね。親父も、心配してたよ」
「ティア……」
満面の笑顔だったエストの表情が暗く沈み、心配と不安が浮かぶ。
その表情を見て、ガイエンも胸が痛んだ。
「そういえば……ティアのことで、今日エストの親父さんとウチの親父が話し合うって言ってたよ。ティアの病気のこと詳しそうな医者がいないか調べてたし、何とかなるよ!」
赤毛の少年ガイエンは、父ゲイン・ドーマの子である事を誇りにしていた。
ゲインは村一番の剣士であり、その昔ヨトゥンに滅ぼされた国において最後まで抵抗した赤枝の騎士団に所属していた。
今はヨトゥン軍の侵攻に立ち向かう村を守る英雄であり、その活躍は7国の騎士の伝説に匹敵すると称されている。
ベルヘイム王国や聖王国アルスターを攻めるにあたり、重要拠点になりうる村……
その村を攻略するために、ヨトゥンの部隊が幾度となく攻め込んできた。
その度にゲインを中心とした村の騎士団が奮闘し、村を落とさせなかった。
業を煮やしたヨトゥン軍は、策略家クロウ・クルワッハに村の攻略を託したのだった。
クロウ・クルワッハは、手始めに騎士の娘を人質にとった。
その騎士、クレイサー・ファンライトの娘……それがガイエンの幼なじみエストの妹、ティア・ファンライトだった。
一糸乱れぬ意思統一された戦い方、心が通い合っているかの様な連携……それ程の信頼を崩すモノは、裏切りが効果的という事をクロウ・クルワッハは分かっている。
そして1番信頼されている人間を裏切らせる事で、強固な組織が崩れる事も……
娘を人質に取られたクレイサー・ファンライトは、やむを得ずクロウ・クルワッハに……ヨトゥン軍に協力することになる。
ヨトゥン軍とは心言という上級神聖魔法を使い、秘密裏に会話していた。
裏切っている事が効果的に伝わるタイミングまで、その事実が公にならないように……
その秘密に、最初に気付いたのがゲインだった。
僅かにだが、クレイサーの表情や態度が変化している。
娘が病気だと言っている割には、村唯一の医者に診せる訳でもない。
娘は自分が守ると常に言っていた男が、別の町の医者に娘を送って放置している。
クレイサーという男は、娘を1人で行かせる様な男ではない。
たとえ医者に診せる為でも、一緒に付いて行くだろう。
治療が必要なら、ずっと付き添っている筈だ。
その許可を、真っ先に自分に求めてくる筈なのだ。
何かを抱えている……確証めいた考えを持ち、ゲインは村外れの森の奥深くにクレイサーを呼び出した。
緊張感漂う中、鋭い目でクレイサーを見るゲイン。
「ゲイン……こんな所に呼び出して、何の用だ? オレもこれで、なかなか忙しい身なんだがな」
クレイサーは、怪訝そうに顔をしかめる。
「そうか? 忙しいのは間違いないだろうが、それは身体の方だけだろ? 心の方は、その忙しさに追いついていない様に見えるが?」
「それはそうさ。大事な娘のティアが、他の町で治療を受けているんだ。心配している心が、正常な訳がない」
クレイサーは、面倒くさそうに答える。
「ティアが病気だと言うのは、他の団員から聞いている。お前の口からではなく……な。そしてノディス先生は、ティアは診察に来ていないと言っていたぞ。村唯一の医者に、彼女を診せてないのは何故だ? ノディス先生ではダメな理由が、何かあるのか?」
クレイサーは、一瞬沈黙した。
言い訳を考えているのだろう……クレイサーの目は、泳いでいる。
「クレイサー、何もお前を問い詰めるつもりはないんだ。ただ何か問題があるのなら、頼ってほしい。今までも、そうだっただろ? ヨトゥン軍との戦いが激化している今、少しの綻びが致命的になる可能性もある。悩んでいる事、話してくれないか?」
「ティアの病気が仮病で、オレが何かを企んでるって疑ってるのか? 今は、娘の事で頭が一杯なんだ。これ以上、悩み事を増やさないでもらえるか?」
クレイサーは吐き捨てる様に言うと、ゲインに背を向ける。
「待て! わざわざ誰もいない森にまで来て、話をしているんだぞ! 誰にも聞かれないようにな!」
「それが、余計なお世話なんだよ。ティアは病気で、その病気は感染する。だから、村に置いとけないんだ! それじゃ、駄目なのか?」
その言葉で、ゲインは理解した。
クレイサーは、ティアを人質にとられている。
そして人目の無い場所でも、真実を話せないという事は……
ここにも、ティアを人質にとった犯人の目があるという事。
ゲインは、バスタード・ソードの柄に手を置く。
神経を研ぎ澄まし、ゲインは風の動きと木々の僅かな音を感じる。
「そこかっ!」
微かに動いた草の動き……集中したゲインの感覚は、その中で動く生物の息吹を捉えていた。
ガァキキキィィ!
金属が擦れ合う音……
緑の中に身を隠していたのは、間違いなくヨトゥン兵だ。
ゲインの剣は、間違いなくヨトゥンを斬り裂いていただろう。
クレイサーの剣が、邪魔をしなければ……
「クレイサー! 何を考えている! こいつを殺せば、お前への監視は無くなるんだろ?」
「そんなに、単純じゃないんだ! すまん……だが、娘の命には変えられないんだ!」
クレイサーの瞳には、明らかに迷いがあった。
後悔や、疑念もあった。
それでも、その剣をゲインに向けるしかなかった。
「クレイサー! 何故だ? 我々に頼って、ティアを救うって選択肢は無かったのか!」
「ティアを人質に取られている! ヨトゥンにだぞ? いつ殺されても不思議じゃない。選択の余地は……なかったんだ!」
クレイサーが剣を振るったが、ゲインの力の前にあっけなく弾かれた。
迷いの残る剣で、赤枝の剣術を会得しているゲインに勝つ事は不可能だ。
それでも、ヨトゥンに反抗する姿を見せる訳にはいかなかった。
「お前が裏切りって、何が変わる? ヨトゥンは何を考えて、こんな作戦を……クレイサー、奴らの策に嵌る必要は無い!」
「オレがヨトゥンに歯向かえば、ティアが殺されて終わりだ。お前だって、ガイエンを人質に取られれば同じことをしただろう。すまないが、これしか方法はない!」
クレイサーは、再び剣を振るった。
先程より、迷いは無かった。
その剣を軽くいなしたゲインは、クレイサーに身を寄せる。
「クレイサー、オレ達が争う必要は無い。お前の剣を弾いて、オレがソコのヨトゥンを殺す。オレの方が強かった……そういう事にして、この場を去ろう。対策を考える」
ヨトゥン兵に聞こえない様に、ゲインはクエイサーに告げた。
「ゲイン、すまん。やはり、娘の命を天秤にかける事は出来ない!」
クレイサーは、ゲインに向けて剣を突き出す。
単調な攻撃だった。
ゲインはクレイサーの剣を弾き、ヨトゥン兵の動きを見ながら軽く反撃をする。
クレイサーであれば、簡単に避けれる攻撃……
剣で弾く事も出来る程度の緩さ……
そもそも、その剣は空を斬った。
バシュゥ!
しかしその剣の軌道に沿って、クレイサーの身体が斬り裂かれた。
「馬鹿な! クレイサー!」
深く斬り裂かれ、鮮血を吹き出しながら後ろに倒れていくクレイサー。
「おとう……さん……」
あまりにタイミング良く、エストが茂みから顔を覗かせた。
あまりの出来事に、ゲインはクレイサーに手を伸ばす事が出来なかった。
エストの目には、ゲインが力強く父親を斬り裂いた様に見えただろう。
先程までいたヨトゥン兵は既に姿を消し、目を見開いたエストが立っていた。
血の飛沫が舞い、エストを赤に染めていく。
悲劇が……幕を開けた……
エストはまるで燃えるような赤い石の嵌め込まれているペンダントを手に取り、その美しさに魅了されながらガイエンに問いかけた。
「うん……母さんから貰った物なんだけど、2つあるから1つあげるよ」
ガイエンはエストがそれを愛してくれることに、心の中では喜びを爆発させていた。
しかし恥ずかしさから、ぶっきらぼうに答える。
「ありがとう! 本当に嬉しい! ティアにも病気が治ったら、見せてあげよ!」
エストはペンダントを首にかけ、その輝きと共に太陽の様な笑顔をガイエンに見せた。
「ティア……早く良くなるといいね。親父も、心配してたよ」
「ティア……」
満面の笑顔だったエストの表情が暗く沈み、心配と不安が浮かぶ。
その表情を見て、ガイエンも胸が痛んだ。
「そういえば……ティアのことで、今日エストの親父さんとウチの親父が話し合うって言ってたよ。ティアの病気のこと詳しそうな医者がいないか調べてたし、何とかなるよ!」
赤毛の少年ガイエンは、父ゲイン・ドーマの子である事を誇りにしていた。
ゲインは村一番の剣士であり、その昔ヨトゥンに滅ぼされた国において最後まで抵抗した赤枝の騎士団に所属していた。
今はヨトゥン軍の侵攻に立ち向かう村を守る英雄であり、その活躍は7国の騎士の伝説に匹敵すると称されている。
ベルヘイム王国や聖王国アルスターを攻めるにあたり、重要拠点になりうる村……
その村を攻略するために、ヨトゥンの部隊が幾度となく攻め込んできた。
その度にゲインを中心とした村の騎士団が奮闘し、村を落とさせなかった。
業を煮やしたヨトゥン軍は、策略家クロウ・クルワッハに村の攻略を託したのだった。
クロウ・クルワッハは、手始めに騎士の娘を人質にとった。
その騎士、クレイサー・ファンライトの娘……それがガイエンの幼なじみエストの妹、ティア・ファンライトだった。
一糸乱れぬ意思統一された戦い方、心が通い合っているかの様な連携……それ程の信頼を崩すモノは、裏切りが効果的という事をクロウ・クルワッハは分かっている。
そして1番信頼されている人間を裏切らせる事で、強固な組織が崩れる事も……
娘を人質に取られたクレイサー・ファンライトは、やむを得ずクロウ・クルワッハに……ヨトゥン軍に協力することになる。
ヨトゥン軍とは心言という上級神聖魔法を使い、秘密裏に会話していた。
裏切っている事が効果的に伝わるタイミングまで、その事実が公にならないように……
その秘密に、最初に気付いたのがゲインだった。
僅かにだが、クレイサーの表情や態度が変化している。
娘が病気だと言っている割には、村唯一の医者に診せる訳でもない。
娘は自分が守ると常に言っていた男が、別の町の医者に娘を送って放置している。
クレイサーという男は、娘を1人で行かせる様な男ではない。
たとえ医者に診せる為でも、一緒に付いて行くだろう。
治療が必要なら、ずっと付き添っている筈だ。
その許可を、真っ先に自分に求めてくる筈なのだ。
何かを抱えている……確証めいた考えを持ち、ゲインは村外れの森の奥深くにクレイサーを呼び出した。
緊張感漂う中、鋭い目でクレイサーを見るゲイン。
「ゲイン……こんな所に呼び出して、何の用だ? オレもこれで、なかなか忙しい身なんだがな」
クレイサーは、怪訝そうに顔をしかめる。
「そうか? 忙しいのは間違いないだろうが、それは身体の方だけだろ? 心の方は、その忙しさに追いついていない様に見えるが?」
「それはそうさ。大事な娘のティアが、他の町で治療を受けているんだ。心配している心が、正常な訳がない」
クレイサーは、面倒くさそうに答える。
「ティアが病気だと言うのは、他の団員から聞いている。お前の口からではなく……な。そしてノディス先生は、ティアは診察に来ていないと言っていたぞ。村唯一の医者に、彼女を診せてないのは何故だ? ノディス先生ではダメな理由が、何かあるのか?」
クレイサーは、一瞬沈黙した。
言い訳を考えているのだろう……クレイサーの目は、泳いでいる。
「クレイサー、何もお前を問い詰めるつもりはないんだ。ただ何か問題があるのなら、頼ってほしい。今までも、そうだっただろ? ヨトゥン軍との戦いが激化している今、少しの綻びが致命的になる可能性もある。悩んでいる事、話してくれないか?」
「ティアの病気が仮病で、オレが何かを企んでるって疑ってるのか? 今は、娘の事で頭が一杯なんだ。これ以上、悩み事を増やさないでもらえるか?」
クレイサーは吐き捨てる様に言うと、ゲインに背を向ける。
「待て! わざわざ誰もいない森にまで来て、話をしているんだぞ! 誰にも聞かれないようにな!」
「それが、余計なお世話なんだよ。ティアは病気で、その病気は感染する。だから、村に置いとけないんだ! それじゃ、駄目なのか?」
その言葉で、ゲインは理解した。
クレイサーは、ティアを人質にとられている。
そして人目の無い場所でも、真実を話せないという事は……
ここにも、ティアを人質にとった犯人の目があるという事。
ゲインは、バスタード・ソードの柄に手を置く。
神経を研ぎ澄まし、ゲインは風の動きと木々の僅かな音を感じる。
「そこかっ!」
微かに動いた草の動き……集中したゲインの感覚は、その中で動く生物の息吹を捉えていた。
ガァキキキィィ!
金属が擦れ合う音……
緑の中に身を隠していたのは、間違いなくヨトゥン兵だ。
ゲインの剣は、間違いなくヨトゥンを斬り裂いていただろう。
クレイサーの剣が、邪魔をしなければ……
「クレイサー! 何を考えている! こいつを殺せば、お前への監視は無くなるんだろ?」
「そんなに、単純じゃないんだ! すまん……だが、娘の命には変えられないんだ!」
クレイサーの瞳には、明らかに迷いがあった。
後悔や、疑念もあった。
それでも、その剣をゲインに向けるしかなかった。
「クレイサー! 何故だ? 我々に頼って、ティアを救うって選択肢は無かったのか!」
「ティアを人質に取られている! ヨトゥンにだぞ? いつ殺されても不思議じゃない。選択の余地は……なかったんだ!」
クレイサーが剣を振るったが、ゲインの力の前にあっけなく弾かれた。
迷いの残る剣で、赤枝の剣術を会得しているゲインに勝つ事は不可能だ。
それでも、ヨトゥンに反抗する姿を見せる訳にはいかなかった。
「お前が裏切りって、何が変わる? ヨトゥンは何を考えて、こんな作戦を……クレイサー、奴らの策に嵌る必要は無い!」
「オレがヨトゥンに歯向かえば、ティアが殺されて終わりだ。お前だって、ガイエンを人質に取られれば同じことをしただろう。すまないが、これしか方法はない!」
クレイサーは、再び剣を振るった。
先程より、迷いは無かった。
その剣を軽くいなしたゲインは、クレイサーに身を寄せる。
「クレイサー、オレ達が争う必要は無い。お前の剣を弾いて、オレがソコのヨトゥンを殺す。オレの方が強かった……そういう事にして、この場を去ろう。対策を考える」
ヨトゥン兵に聞こえない様に、ゲインはクエイサーに告げた。
「ゲイン、すまん。やはり、娘の命を天秤にかける事は出来ない!」
クレイサーは、ゲインに向けて剣を突き出す。
単調な攻撃だった。
ゲインはクレイサーの剣を弾き、ヨトゥン兵の動きを見ながら軽く反撃をする。
クレイサーであれば、簡単に避けれる攻撃……
剣で弾く事も出来る程度の緩さ……
そもそも、その剣は空を斬った。
バシュゥ!
しかしその剣の軌道に沿って、クレイサーの身体が斬り裂かれた。
「馬鹿な! クレイサー!」
深く斬り裂かれ、鮮血を吹き出しながら後ろに倒れていくクレイサー。
「おとう……さん……」
あまりにタイミング良く、エストが茂みから顔を覗かせた。
あまりの出来事に、ゲインはクレイサーに手を伸ばす事が出来なかった。
エストの目には、ゲインが力強く父親を斬り裂いた様に見えただろう。
先程までいたヨトゥン兵は既に姿を消し、目を見開いたエストが立っていた。
血の飛沫が舞い、エストを赤に染めていく。
悲劇が……幕を開けた……
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