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2人のフィアナ騎士
絶望の残響
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アデストリアの乱から数日後、アルスター国の城にゼークはいる。
まだ幼い彼女は反乱の真相を知らされぬまま、父の護衛任務に付き従っていた。
父は王の側を離れられず、いつもの様に退屈を持て余したゼークは、静かな中庭へと足を踏み入れる。
いつもなら、激しい金属音が流れている場所……
フェルグスとアルパスター……2人の若き騎士が、腕を磨き合っている筈の場所……
普段とは違う静かな中庭の中央に、アルパスターが佇んでいた。
俯くその姿は、まるで世界の重みを一身に背負った亡魂のよう。
深い悲しみ、胸を引き裂く寂しさ、堪えきれぬ苦しみが彼から溢れ出し、空気を重く淀ませていた。
嫌な感情が芽生えたゼークの小さな心は怯え、アルパスターに声を掛けるのを躊躇った。
だが、草を踏む微かな音に気付いたアルパスターが顔を上げる。
血走った弱々しい瞳が、ゼークを捉えた。
「お嬢ちゃんか……今日も、ファルミア様の付き添いか? 悪いが、暇潰しの相手になってやれそうにない。すまないな……」
その声は、まるで死にゆく者の最期の呟きのようだった。
いつもは力強く響くアルパスターの言葉が、今は冷たい風に散りゆく灰のように儚い。
「暇潰しの相手が出来ないって……そんなの、見れば分かるよ! そんな事より、一体どうしたの? その顔……まるで、心が死んでるみたいだよ?」
ゼークの声は、幼さゆえの無垢な鋭さで中庭に響く。
恐怖と心配で揺れるゼークの心は、アルパスターの暗い影に吸い込まれそうだった。
アルパスターは胸の奥に刺さった刃を吐き出すように、ゼークに向けて震える声を絞り出す。
「フェルグスが……フェルグスが、ヨトゥン側に回っちまったんだ! お嬢ちゃん……大切な人が敵になっても、まだ信じれるんだろうか? 友人と言っても、いいんだろうか? 心から信じていた奴が、敵意を向けてきたとしても……」
アルパスターの声は怒りと絶望が混じり合い、まるで自らを責める刃のようだった。
そして……その言葉を子供に向けるには、あまりに残酷だった。
敵になった人間が、慕い愛していた者であれば尚更だ。
ゼークの小さな身体は……心は、凍りついた。
心臓が締め付けられ、息が詰まる。
「ヨトゥン側って……どういう事? 敵……フェルグス様が、敵になっちゃったって事? ヨトゥンの兵隊に、なっちゃったって事? どうして? どうして、そんな事に!」
彼女の叫びは、まるで中庭の静寂を切り裂く雷鳴のようだった。
大きく見開いた瞳から涙が溢れ、幼い顔を歪ませる。
ベルヘイム近衛騎士の家に生まれたゼークにとって、フィアナ騎士団は英雄の集まりである。
その中でもフェルグスは遠い英雄であり、憧れと羨望の的だった。
淡い恋心が、崩れていく気がした。
このままベルヘイム騎士になれば、ヨトゥン兵となったフェルグスと剣を交えなければならない日が来るかもしれない。
その恐怖は、ゼークの小さな心を粉々に打ち砕く。
アルパスターは神槍ブリューナクを手に、反乱の民を討つため戦場に立った。
実際、アルスターの民を数人倒した。
だが……対峙したフェルグスの手には、神剣カラドボルグの鞘しかなかった。
何があっても、俺たちは戦場で敵として剣を交えない。
お互いを縛る鎖があるならば、それを断ち斬る為の刃を振おう。
フェルグスは、かつて交わした約束を貫き通したのだ。
お互いを縛る鎖が切れないならば、争う必要もない。
それが、フェルグスの出した答えなのだろう。
「民を守るのが正しいのか? 国を守るのが正しいのか?」
アルパスターの心は、答えのない問いの中で引き裂かれていた。
フェルグスはアルスターの民も、フィアナ騎士も傷つけなかった。
ただ、アルスターの民を連れて静かに去ったのみ。
それに対して、自分は何を成した?
アルスターの民を傷つけ、友に刃を向けた。
ゼークの言葉に何も答える事が出来なかったアルパスターの瞳には涙が滲み、拳は血が滲むほど握り潰されていた。
そしてゼークに投げかけた問いは、ただの言葉ではなくアルパスターの魂の迷いだった。
「どうして、フェルグス様が……そんな、嘘でしょ? 嘘って……言ってよ……」
ゼークの声は、いつしか嗚咽に変わっていた。
ゼークの小さな手は無意識に胸を掴み、まるで心が逃げ出さないように押さえつけるようだった。
2人の間に、言葉はもうなかった。
アルパスターの瞳には、涙と後悔と……解決しない悩みが溢れ続ける。
ゼークの小さな肩は絶望と混乱と悲しみで、ただ震えていた。
中庭を吹き抜ける冷たい風が、2人の間を無情に通り抜けていく。
やがて……どちらともなく踵を返し、沈黙の中で別れた。
残されたのは互いの心に刻まれた深い傷と、決して癒えぬ痛みの残響だけだった……
まだ幼い彼女は反乱の真相を知らされぬまま、父の護衛任務に付き従っていた。
父は王の側を離れられず、いつもの様に退屈を持て余したゼークは、静かな中庭へと足を踏み入れる。
いつもなら、激しい金属音が流れている場所……
フェルグスとアルパスター……2人の若き騎士が、腕を磨き合っている筈の場所……
普段とは違う静かな中庭の中央に、アルパスターが佇んでいた。
俯くその姿は、まるで世界の重みを一身に背負った亡魂のよう。
深い悲しみ、胸を引き裂く寂しさ、堪えきれぬ苦しみが彼から溢れ出し、空気を重く淀ませていた。
嫌な感情が芽生えたゼークの小さな心は怯え、アルパスターに声を掛けるのを躊躇った。
だが、草を踏む微かな音に気付いたアルパスターが顔を上げる。
血走った弱々しい瞳が、ゼークを捉えた。
「お嬢ちゃんか……今日も、ファルミア様の付き添いか? 悪いが、暇潰しの相手になってやれそうにない。すまないな……」
その声は、まるで死にゆく者の最期の呟きのようだった。
いつもは力強く響くアルパスターの言葉が、今は冷たい風に散りゆく灰のように儚い。
「暇潰しの相手が出来ないって……そんなの、見れば分かるよ! そんな事より、一体どうしたの? その顔……まるで、心が死んでるみたいだよ?」
ゼークの声は、幼さゆえの無垢な鋭さで中庭に響く。
恐怖と心配で揺れるゼークの心は、アルパスターの暗い影に吸い込まれそうだった。
アルパスターは胸の奥に刺さった刃を吐き出すように、ゼークに向けて震える声を絞り出す。
「フェルグスが……フェルグスが、ヨトゥン側に回っちまったんだ! お嬢ちゃん……大切な人が敵になっても、まだ信じれるんだろうか? 友人と言っても、いいんだろうか? 心から信じていた奴が、敵意を向けてきたとしても……」
アルパスターの声は怒りと絶望が混じり合い、まるで自らを責める刃のようだった。
そして……その言葉を子供に向けるには、あまりに残酷だった。
敵になった人間が、慕い愛していた者であれば尚更だ。
ゼークの小さな身体は……心は、凍りついた。
心臓が締め付けられ、息が詰まる。
「ヨトゥン側って……どういう事? 敵……フェルグス様が、敵になっちゃったって事? ヨトゥンの兵隊に、なっちゃったって事? どうして? どうして、そんな事に!」
彼女の叫びは、まるで中庭の静寂を切り裂く雷鳴のようだった。
大きく見開いた瞳から涙が溢れ、幼い顔を歪ませる。
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その中でもフェルグスは遠い英雄であり、憧れと羨望の的だった。
淡い恋心が、崩れていく気がした。
このままベルヘイム騎士になれば、ヨトゥン兵となったフェルグスと剣を交えなければならない日が来るかもしれない。
その恐怖は、ゼークの小さな心を粉々に打ち砕く。
アルパスターは神槍ブリューナクを手に、反乱の民を討つため戦場に立った。
実際、アルスターの民を数人倒した。
だが……対峙したフェルグスの手には、神剣カラドボルグの鞘しかなかった。
何があっても、俺たちは戦場で敵として剣を交えない。
お互いを縛る鎖があるならば、それを断ち斬る為の刃を振おう。
フェルグスは、かつて交わした約束を貫き通したのだ。
お互いを縛る鎖が切れないならば、争う必要もない。
それが、フェルグスの出した答えなのだろう。
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アルパスターの心は、答えのない問いの中で引き裂かれていた。
フェルグスはアルスターの民も、フィアナ騎士も傷つけなかった。
ただ、アルスターの民を連れて静かに去ったのみ。
それに対して、自分は何を成した?
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そしてゼークに投げかけた問いは、ただの言葉ではなくアルパスターの魂の迷いだった。
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ゼークの声は、いつしか嗚咽に変わっていた。
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2人の間に、言葉はもうなかった。
アルパスターの瞳には、涙と後悔と……解決しない悩みが溢れ続ける。
ゼークの小さな肩は絶望と混乱と悲しみで、ただ震えていた。
中庭を吹き抜ける冷たい風が、2人の間を無情に通り抜けていく。
やがて……どちらともなく踵を返し、沈黙の中で別れた。
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