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2人のフィアナ騎士
2人の決意1
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航太は、ゼークの話に耳を吸い寄せられるように聞いていた。
銀色の髪を揺らしながら過去を語るゼークの声は、まるで深い記憶の淵から響いてくるようである。
ふと気づけば、航太はずっと正座していた。
(気づいた瞬間に……足がヤベェ!)
ゼークに悟られぬように足を崩し、航太は胡座をかく。
航太の足は、とんでもなく痺れている……だが、心は彼女の話に囚われていた。
(アルパスター将軍とゼークに、そんな過去があったのかよ……)
足の痺れと話の重さに、神妙な面持ちを浮かべる航太。
「ごめんね、航太。つい昔話に、熱が入っちゃって……航太なら、ちゃんと聞いてくれるって信じてたから……」
航太の表情を見たゼークは小さく笑い、立ち上がる。
「お茶のおかわり、持ってくるね」
そう言うと、ゼークはテントの奥へ向かう。その背中には、どこか重い影が差していた。
長く語り続けたせいか、喉が渇いたのだろうか。
それとも、過去の重みが彼女を押し潰そうとしているのか。
「なぁ、ゼーク……今、何考えてる?」
航太は背を向けたゼークに、静かだが力強い声で問いかけた。
大きな声では無かったが、静寂を破るには充分だった。
「えっ?」
銀髪がきらめき、ゼークが振り返る。
その瞳は、驚きと戸惑いで揺れていた。
「ただ、昔話しをしたかっただけじゃないだろ? せっかく、こうやって話してくれたんだ。ここまできたら、吐き出してみなよ。オレには、聞く事くらいしかできないけど……」
ゼークの視線がグラスに落ち、長い息が漏れる。
まるで、心の奥に閉じ込めた何かをそっと解き放つように。
「当時は私、幼かったから。アルパスター将軍の言葉の意味が分からなかった。でも、今なら……その重さが、ほんの少しだけ分かるの」
ゼークはグラスにハーブティーを注ぎ終え、1つを航太に差し出した。
その手は、わずかに震えている。
彼女はグラスを握りしめ、言葉を紡ぎ続ける。
「あの時から……フェルグスとアルパスター将軍は、戦場で顔を合わせてない。もし今、戦場で2人が出会ったら……どうなるのか、怖いの」
「怖い」という言葉に、航太は異様な響きを感じた。
それは、単なる殺し合いや死による恐怖ではない。
もっと深い、魂を抉るような怯えだった。
「2人は騎士として、戦わないと誓い合ってるんだろ? なら、戦わないさ……」
航太は慎重に言葉を選び、ゼークの心の奥を探るように見つめた。
「そうだね……きっと、戦わない。だから、怖いの。戦場の真っ只中で敵の将と遭遇して、剣を交えず帰ってきた……そんな事になったら、どちらも無事じゃ済まない……」
ゼークはグラスを口に運び、唇を湿らせる。
航太を捉えたその瞳には、言い知れぬ不安が宿っていた。
「そっか……敵と戦わなかっただけでも疑われるのに、昔の親友同士だったなんて知られたら、なおさらって事か……」
「敵前逃亡って、重罪なの。戦略的な撤退や敗戦の被害を減らす為の撤退なら、被害の大小で罪が決まる。でも、ただ戦わなかったなんて……死罪か、最悪なら家族まで……」
航太は、ゼークがなぜアルパスターとフェルグスを戦場で引き合わせまいとしていたのか……その理由を、ようやく掴んだ気がした。
ゼークの恐れは、ただの戦いの結果ではない。
2人の絆が引き起こす悲劇への怯えだった。
「なら、アルパスター将軍が戦場に出なくていいようにするしかねぇ! オレ達でフェルグスを引かせちまえば、それでオーケーだろ!」
航太の声に、力がこもる。
「そうだね……でも……」
ゼークの声は……その瞳は、まだ曇っている。
まるで心の底に沈む何か重いものが、彼女を縛っているかのようだった。
(こりゃ、まだ何かあるな……)
航太は一呼吸置き、覚悟を決めて問いかける。
「なぁ、ゼーク……民と国、どっちが大事だと思う?」
ゼークがハッと顔を上げ、航太の瞳を覗き込む。
その言葉は、まるで魂の奥まで見透かされているようだった。
「オレには、まだ分からない。でも……もし神剣を使いこなせるようになったら、まず仲間を守りたい。それから大切な人を、苦しむ人を守りたい。もし国が……掟や法がオレの大切な人を傷つけるなら、国や法とだって戦う。神がその命を奪うなら、神とだって戦ってやる!」
航太の言葉は幕舎の薄暗い空間に響き、ゼークの心を揺さぶった。
「航太は、フェルグスの考え方に寄っているんだね。私も、そうだったら良かったのかな?」
ゼークは目を細め、航太の言葉に理解を示すように頷いた。
「フェルグスは民を守るために、ヨトゥンに身を委ねた。なら、アルパスター将軍は、どうだったんだ?」
ゼークは言葉を失い、ただ航太を見つめる。
その沈黙は、まるで答えを拒む壁のようだった。
「ただ国に尽くしたから、心が傷ついたんじゃないのか? そこに確固たる信念が無かったから、フェルグスと戦おうとした自分が許せなかったんじゃないのか?」
「そんな……そんな、簡単な話じゃない!」
ゼークの声が、静寂な空間を鋭く切り裂いた。
航太は、思わず息を飲む。
「アルパスター将軍だって、そんな事は分かってる! 1番大切な人を守る為に、2番目や3番目に大切な人達を裏切るの? 大切な人を守る為に、ヨトゥン軍に入って人と戦うの? クロウ・クルワッハや、ガイエンのやってる事を肯定してまで?」
今度はその言葉に、航太が押し黙る。
ゼークの瞳には、怒りと悲しみが交錯していた。
「何が正しいかなんて……本当に難しい。だから、2人には戦場で会ってほしくない。だって、2人とも守りたいものは同じなんだから……」
その言葉に、航太は自分の軽率さを恥じた。アルパスターもゼークも、ずっと前からその矛盾に苦しんでいた。
同じ理想を追いながら、異なる道を選んだ2人が敵として相まみえること。
その先に待つ悲劇を、ゼークは全身で恐れていた。
「すまねぇ、ゼーク。何の信念も無い野郎が、偉そうな事を言っちまった! 命を守る事と心を守る事……どっちも大切だ。天秤になんて、かけられねぇ! だからフェルグスは、民を選んだのかもな。真面目なアルパスター将軍は、国が間違った方向を向いていても裏切る事は出来ない。だが、時間がかかっても正すように働きかける事が出来ると思う。だから、国をアルパスター将軍に託したんじゃないのかな?」
「そう……なのかな? でも、そんな気がしてきた。民も国も、どちらも守りたい……だからフェルグスは……信頼して国を任せる事が出来る友人がいたから、民を守る選択をした……」
「多分、そうじゃねぇか? なら、オレ達の出来る事は1つだ!」
ゼークは信じていた。
2人が再び同じ道を歩む時、大きな可能性が生まれると。
だからこそ、ゼークは自らを犠牲にしてでもその未来を守ろうとしていた。
アルパスターも、その覚悟を知っていた。
だからこそ、頼むとゼークに託したのだ。
航太の胸にも、ゼークの想いが熱く響いた。
「ゼーク……2人を守ろう。そして、いつか2人の想いが重なる瞬間が来ると信じて、待つんだ!」
航太は、心の底から叫んだ。
ゼークを、絶対に守ると心に誓った。
「航太……話を聞いてくれて、ありがとう。私、航太の話を聞いて気付いちゃった。もう、2人の道は交わっている。ううん、初めから違えて無かった。アルスターの国と民……両方を守る為に、2人の守護者が立ち上がっただけだった。だから、大丈夫。私が出来る事は、2人の英雄を敵として対峙させない事……ただ、それだけ!」
ゼークの顔に、ようやくいつもの輝く笑顔が戻った。
その笑顔の裏には、決戦の朝を前にした覚悟が宿っている。
運命の朝が訪れる……戦場の風が、2人を否応なく試す時がくる。
その風の中で……2人の英雄が肩を並べて強大な敵に立ち向かう姿を、ゼークは思い描いていた……
銀色の髪を揺らしながら過去を語るゼークの声は、まるで深い記憶の淵から響いてくるようである。
ふと気づけば、航太はずっと正座していた。
(気づいた瞬間に……足がヤベェ!)
ゼークに悟られぬように足を崩し、航太は胡座をかく。
航太の足は、とんでもなく痺れている……だが、心は彼女の話に囚われていた。
(アルパスター将軍とゼークに、そんな過去があったのかよ……)
足の痺れと話の重さに、神妙な面持ちを浮かべる航太。
「ごめんね、航太。つい昔話に、熱が入っちゃって……航太なら、ちゃんと聞いてくれるって信じてたから……」
航太の表情を見たゼークは小さく笑い、立ち上がる。
「お茶のおかわり、持ってくるね」
そう言うと、ゼークはテントの奥へ向かう。その背中には、どこか重い影が差していた。
長く語り続けたせいか、喉が渇いたのだろうか。
それとも、過去の重みが彼女を押し潰そうとしているのか。
「なぁ、ゼーク……今、何考えてる?」
航太は背を向けたゼークに、静かだが力強い声で問いかけた。
大きな声では無かったが、静寂を破るには充分だった。
「えっ?」
銀髪がきらめき、ゼークが振り返る。
その瞳は、驚きと戸惑いで揺れていた。
「ただ、昔話しをしたかっただけじゃないだろ? せっかく、こうやって話してくれたんだ。ここまできたら、吐き出してみなよ。オレには、聞く事くらいしかできないけど……」
ゼークの視線がグラスに落ち、長い息が漏れる。
まるで、心の奥に閉じ込めた何かをそっと解き放つように。
「当時は私、幼かったから。アルパスター将軍の言葉の意味が分からなかった。でも、今なら……その重さが、ほんの少しだけ分かるの」
ゼークはグラスにハーブティーを注ぎ終え、1つを航太に差し出した。
その手は、わずかに震えている。
彼女はグラスを握りしめ、言葉を紡ぎ続ける。
「あの時から……フェルグスとアルパスター将軍は、戦場で顔を合わせてない。もし今、戦場で2人が出会ったら……どうなるのか、怖いの」
「怖い」という言葉に、航太は異様な響きを感じた。
それは、単なる殺し合いや死による恐怖ではない。
もっと深い、魂を抉るような怯えだった。
「2人は騎士として、戦わないと誓い合ってるんだろ? なら、戦わないさ……」
航太は慎重に言葉を選び、ゼークの心の奥を探るように見つめた。
「そうだね……きっと、戦わない。だから、怖いの。戦場の真っ只中で敵の将と遭遇して、剣を交えず帰ってきた……そんな事になったら、どちらも無事じゃ済まない……」
ゼークはグラスを口に運び、唇を湿らせる。
航太を捉えたその瞳には、言い知れぬ不安が宿っていた。
「そっか……敵と戦わなかっただけでも疑われるのに、昔の親友同士だったなんて知られたら、なおさらって事か……」
「敵前逃亡って、重罪なの。戦略的な撤退や敗戦の被害を減らす為の撤退なら、被害の大小で罪が決まる。でも、ただ戦わなかったなんて……死罪か、最悪なら家族まで……」
航太は、ゼークがなぜアルパスターとフェルグスを戦場で引き合わせまいとしていたのか……その理由を、ようやく掴んだ気がした。
ゼークの恐れは、ただの戦いの結果ではない。
2人の絆が引き起こす悲劇への怯えだった。
「なら、アルパスター将軍が戦場に出なくていいようにするしかねぇ! オレ達でフェルグスを引かせちまえば、それでオーケーだろ!」
航太の声に、力がこもる。
「そうだね……でも……」
ゼークの声は……その瞳は、まだ曇っている。
まるで心の底に沈む何か重いものが、彼女を縛っているかのようだった。
(こりゃ、まだ何かあるな……)
航太は一呼吸置き、覚悟を決めて問いかける。
「なぁ、ゼーク……民と国、どっちが大事だと思う?」
ゼークがハッと顔を上げ、航太の瞳を覗き込む。
その言葉は、まるで魂の奥まで見透かされているようだった。
「オレには、まだ分からない。でも……もし神剣を使いこなせるようになったら、まず仲間を守りたい。それから大切な人を、苦しむ人を守りたい。もし国が……掟や法がオレの大切な人を傷つけるなら、国や法とだって戦う。神がその命を奪うなら、神とだって戦ってやる!」
航太の言葉は幕舎の薄暗い空間に響き、ゼークの心を揺さぶった。
「航太は、フェルグスの考え方に寄っているんだね。私も、そうだったら良かったのかな?」
ゼークは目を細め、航太の言葉に理解を示すように頷いた。
「フェルグスは民を守るために、ヨトゥンに身を委ねた。なら、アルパスター将軍は、どうだったんだ?」
ゼークは言葉を失い、ただ航太を見つめる。
その沈黙は、まるで答えを拒む壁のようだった。
「ただ国に尽くしたから、心が傷ついたんじゃないのか? そこに確固たる信念が無かったから、フェルグスと戦おうとした自分が許せなかったんじゃないのか?」
「そんな……そんな、簡単な話じゃない!」
ゼークの声が、静寂な空間を鋭く切り裂いた。
航太は、思わず息を飲む。
「アルパスター将軍だって、そんな事は分かってる! 1番大切な人を守る為に、2番目や3番目に大切な人達を裏切るの? 大切な人を守る為に、ヨトゥン軍に入って人と戦うの? クロウ・クルワッハや、ガイエンのやってる事を肯定してまで?」
今度はその言葉に、航太が押し黙る。
ゼークの瞳には、怒りと悲しみが交錯していた。
「何が正しいかなんて……本当に難しい。だから、2人には戦場で会ってほしくない。だって、2人とも守りたいものは同じなんだから……」
その言葉に、航太は自分の軽率さを恥じた。アルパスターもゼークも、ずっと前からその矛盾に苦しんでいた。
同じ理想を追いながら、異なる道を選んだ2人が敵として相まみえること。
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「すまねぇ、ゼーク。何の信念も無い野郎が、偉そうな事を言っちまった! 命を守る事と心を守る事……どっちも大切だ。天秤になんて、かけられねぇ! だからフェルグスは、民を選んだのかもな。真面目なアルパスター将軍は、国が間違った方向を向いていても裏切る事は出来ない。だが、時間がかかっても正すように働きかける事が出来ると思う。だから、国をアルパスター将軍に託したんじゃないのかな?」
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航太は、心の底から叫んだ。
ゼークを、絶対に守ると心に誓った。
「航太……話を聞いてくれて、ありがとう。私、航太の話を聞いて気付いちゃった。もう、2人の道は交わっている。ううん、初めから違えて無かった。アルスターの国と民……両方を守る為に、2人の守護者が立ち上がっただけだった。だから、大丈夫。私が出来る事は、2人の英雄を敵として対峙させない事……ただ、それだけ!」
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