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2人のフィアナ騎士
2人の決意2
しおりを挟む夜明けの静寂を切り裂くように、航太は燃えるような決意を胸にテントを飛び出した。
外に広がる光景は、まるで神々の筆で描かれた絵画だった。
空は深い群青から炎のようなオレンジへと溶け合い、地平線には黄金の光が一条の剣のように突き刺さる。
冷たい朝霧が、足元を這う。
航太の心臓は高鳴りながらも、どこか安らかな静けさに包まれた。
だが……その刹那の平穏は、嵐のような声によって粉々に砕かれた。
「見たよ見たよー! 夜通し若い女子と2人きりで、何をしてたのかなぁ~! 渦中の航太さん、弁明どうぞ!」
絵美の甲高い声が、朝焼けの静寂を切り裂く。
絵美は悪戯っぽくニヤリと笑うと、右手を丸めてマイクの様にして、航太の目の前に突き出してくる。
その肩の上には、例のアヒルのぬいぐるみ……ガーゴが、まるで悪魔の使者のように不気味に揺れている。
「ガーゴは、見たでしゅよ~! 夜這いする変態の姿を、ばっちりとでしゅ~! こーのロリコン野郎、どこまで堕ちる気でしゅか~?」
「なっ、なんで知ってんだよ?」
航太は、血が逆流するような怒りを抑えきれず叫ぶ。
「おっ? 夜這いしたのは事実という事で、間違いないのでしょうか? 航太さん、はっきりとお聞かせ下さい!」
「絵美も、アホな事やってんじゃねぇ! だいたい夜這いとか、どんな時代の話をしてやがる!」
(せっかくの神聖な朝が、阿呆の絵美と馬鹿のヌイグルミのせいで台無しだ! 誰だよ……こんな奴らを、この世に解き放ったのは!)
航太が頭を抱えていると、直ぐ横で智美がクスクスと笑いをこらえきれずに吹き出した。
「毎回、同じやり取り……ほんとに、飽きないね? 楽しいの?」
智美の声は軽やかだが、どこか挑発的だ。
「楽しいわけあるか! 誰だよ、このアホのヌイグルミに命を吹き込んだ奴は! 絵美だけで、腹一杯だってーの!」
航太の怒声が響き渡った瞬間、場が凍りついた。
その時、か細い……まるで、風に消えそうな声が聞こえてくる。
「はははー……ごめん、私だ……」
声の主は、エリサだった。
エリサは顔を伏せ、恐る恐る手を上げながら震える声で呟いた。
航太の心に、罪悪感が突き刺さる。
エリサの小さな肩が、今までの全ての話の重みを背負っているかの様に見えたからだ。
「航ちゃん、エリサさんに謝った方がいいよ。だいたい、魔法が見たいって言い出したの私達でしょ?」
智美が静かに、しかし鋭く言い放つ。
「いや、まぁ……そりゃ、そうなんだがよ……確かに、別にエリサさんは悪くねぇ……すまん!」
航太は、深く頭を下げた。
だが、心の奥では納得できない苛立ちが渦巻いていた。
(って、俺が悪いのか? いや、マジで納得いかねえ! なんで、こんな事に!)
エリサに謝る姿を見ながら爆笑する絵美とガーゴを横目に、航太の殺意は増していく。
「みんな、相変わらず賑やかだね! それは、とても良い事だよ。でも、今……この瞬間からは、本気でいこう! 本当の戦場……そして、相手はロキ軍の第2席に入る程の腕を持つフェルグス! 手強い相手だけど、私達でヨトゥン軍の侵略の流れを断つ!」
雷鳴のような蹄の音と、力強くも可憐な声と共にゼークが現れた。
銀髪が朝陽に輝き、まるで神話の英雄のように馬上で堂々と構える。
ゼークの瞳には、揺るぎない決意と騎士の威厳が宿っていた。
航太の脳裏に、昨夜のテントでの会話が雷のように蘇る。
アルパスターとフェルグスは、決して戦場で相見えてはならない。
将軍の名を背負う以上、過去のように戦いを避けることはできない。
2人を引き離すため、航太自身がこの戦場で全力を尽くさなければならない。
その重圧が、胸の奥で熱く燃え上がった。
アホな話に、苛立っている場合ではない。
航太は深く息を吸い、辺りを見渡した。
朝焼けはさらに鮮烈さを増し、太陽の光が大地を血のように赤く染め上げていた。
遠くの山脈は光の刃に切り裂かれ、戦場の空気は剣呑な緊張感に満ちていた。
「ヨトゥン軍に人間が立ち向かい、それに打ち勝つ! 歴史に、伝説が刻まれる瞬間だ! この戦いで、我々が未来を切り開くぞ!」
ゼークの声が、雷鳴のように全軍を貫いた。兵士たちの咆哮が大地を揺らし、空を裂く。
「うおおおお――!」
そのすさまじい気迫に、航太の全身が震えた。
まるで大気が彼らの闘志に共鳴し、戦場全体が一つの生き物のように脈動しているかのようだった。
「ホワイト・ティアラ隊は後方支援! 我が部隊は、正面から突き進む! 敵を後退させれば、それが勝利だ!」
ゼークの声は、まるで神の宣告のように響き渡った。
そこには迷いも恐れもなく、ただ純粋な信念だけがあった。
(今のゼークなら、絶対に勝てる! 大丈夫だ!)
航太の胸にも、燃え盛る確信が宿った。
「突撃!」
ゼークの号令が、戦場を切り裂く。
瞬間……馬蹄が大地を蹴り立て、すさまじい砂煙が天を覆った。
まるで嵐が具現化したかのように、軍勢は一つの巨大な波となってフェルグス軍へ突進する。
前衛にはゼークと航太が横並びに立ち、風を切り裂く。
中軍には、絵美と智美が陣を固め、後衛にはホワイト・ティアラ隊が治癒の守りを築く。
この陣容で、フェルグス軍との壮絶な戦いが火蓋を切った。
戦場の鼓動が、航太の心臓と共鳴する。
絶望へのカウントダウンが、始まっていく……
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