雫物語 Rewrite 〜神剣に導かれて神話の世界に行ったら『先祖の恩人の恩人』の姫を救う戦いに巻き込まれただけじゃないらしい〜

くろぷり

文字の大きさ
39 / 92
2人のフィアナ騎士

2人の決意2

しおりを挟む

 夜明けの静寂を切り裂くように、航太は燃えるような決意を胸にテントを飛び出した。

 外に広がる光景は、まるで神々の筆で描かれた絵画だった。
 空は深い群青から炎のようなオレンジへと溶け合い、地平線には黄金の光が一条の剣のように突き刺さる。
 冷たい朝霧が、足元を這う。

 航太の心臓は高鳴りながらも、どこか安らかな静けさに包まれた。

 だが……その刹那の平穏は、嵐のような声によって粉々に砕かれた。

「見たよ見たよー! 夜通し若い女子と2人きりで、何をしてたのかなぁ~! 渦中の航太さん、弁明どうぞ!」

 絵美の甲高い声が、朝焼けの静寂を切り裂く。
 絵美は悪戯っぽくニヤリと笑うと、右手を丸めてマイクの様にして、航太の目の前に突き出してくる。

 その肩の上には、例のアヒルのぬいぐるみ……ガーゴが、まるで悪魔の使者のように不気味に揺れている。

「ガーゴは、見たでしゅよ~! 夜這いする変態の姿を、ばっちりとでしゅ~! こーのロリコン野郎、どこまで堕ちる気でしゅか~?」

「なっ、なんで知ってんだよ?」 

 航太は、血が逆流するような怒りを抑えきれず叫ぶ。

「おっ? 夜這いしたのは事実という事で、間違いないのでしょうか? 航太さん、はっきりとお聞かせ下さい!」

「絵美も、アホな事やってんじゃねぇ! だいたい夜這いとか、どんな時代の話をしてやがる!」

(せっかくの神聖な朝が、阿呆の絵美と馬鹿のヌイグルミのせいで台無しだ! 誰だよ……こんな奴らを、この世に解き放ったのは!)

 航太が頭を抱えていると、直ぐ横で智美がクスクスと笑いをこらえきれずに吹き出した。

「毎回、同じやり取り……ほんとに、飽きないね? 楽しいの?」 

 智美の声は軽やかだが、どこか挑発的だ。

「楽しいわけあるか! 誰だよ、このアホのヌイグルミに命を吹き込んだ奴は! 絵美だけで、腹一杯だってーの!」

 航太の怒声が響き渡った瞬間、場が凍りついた。
 その時、か細い……まるで、風に消えそうな声が聞こえてくる。

「はははー……ごめん、私だ……」

 声の主は、エリサだった。
 エリサは顔を伏せ、恐る恐る手を上げながら震える声で呟いた。

 航太の心に、罪悪感が突き刺さる。
 エリサの小さな肩が、今までの全ての話の重みを背負っているかの様に見えたからだ。

「航ちゃん、エリサさんに謝った方がいいよ。だいたい、魔法が見たいって言い出したの私達でしょ?」 

 智美が静かに、しかし鋭く言い放つ。

「いや、まぁ……そりゃ、そうなんだがよ……確かに、別にエリサさんは悪くねぇ……すまん!」 

 航太は、深く頭を下げた。
 だが、心の奥では納得できない苛立ちが渦巻いていた。

(って、俺が悪いのか? いや、マジで納得いかねえ! なんで、こんな事に!)

 エリサに謝る姿を見ながら爆笑する絵美とガーゴを横目に、航太の殺意は増していく。

「みんな、相変わらず賑やかだね! それは、とても良い事だよ。でも、今……この瞬間からは、本気でいこう! 本当の戦場……そして、相手はロキ軍の第2席に入る程の腕を持つフェルグス! 手強い相手だけど、私達でヨトゥン軍の侵略の流れを断つ!」

 雷鳴のような蹄の音と、力強くも可憐な声と共にゼークが現れた。
 銀髪が朝陽に輝き、まるで神話の英雄のように馬上で堂々と構える。
 ゼークの瞳には、揺るぎない決意と騎士の威厳が宿っていた。

 航太の脳裏に、昨夜のテントでの会話が雷のように蘇る。

 アルパスターとフェルグスは、決して戦場で相見えてはならない。

 将軍の名を背負う以上、過去のように戦いを避けることはできない。
 2人を引き離すため、航太自身がこの戦場で全力を尽くさなければならない。
 その重圧が、胸の奥で熱く燃え上がった。

 アホな話に、苛立っている場合ではない。

 航太は深く息を吸い、辺りを見渡した。

 朝焼けはさらに鮮烈さを増し、太陽の光が大地を血のように赤く染め上げていた。
 遠くの山脈は光の刃に切り裂かれ、戦場の空気は剣呑な緊張感に満ちていた。

「ヨトゥン軍に人間が立ち向かい、それに打ち勝つ! 歴史に、伝説が刻まれる瞬間だ! この戦いで、我々が未来を切り開くぞ!」

 ゼークの声が、雷鳴のように全軍を貫いた。兵士たちの咆哮が大地を揺らし、空を裂く。

「うおおおお――!」

 そのすさまじい気迫に、航太の全身が震えた。
 まるで大気が彼らの闘志に共鳴し、戦場全体が一つの生き物のように脈動しているかのようだった。

「ホワイト・ティアラ隊は後方支援! 我が部隊は、正面から突き進む! 敵を後退させれば、それが勝利だ!」

 ゼークの声は、まるで神の宣告のように響き渡った。
 そこには迷いも恐れもなく、ただ純粋な信念だけがあった。

(今のゼークなら、絶対に勝てる! 大丈夫だ!)

 航太の胸にも、燃え盛る確信が宿った。

「突撃!」

 ゼークの号令が、戦場を切り裂く。
 瞬間……馬蹄が大地を蹴り立て、すさまじい砂煙が天を覆った。
 まるで嵐が具現化したかのように、軍勢は一つの巨大な波となってフェルグス軍へ突進する。

 前衛にはゼークと航太が横並びに立ち、風を切り裂く。
 中軍には、絵美と智美が陣を固め、後衛にはホワイト・ティアラ隊が治癒の守りを築く。
 この陣容で、フェルグス軍との壮絶な戦いが火蓋を切った。

 戦場の鼓動が、航太の心臓と共鳴する。

 絶望へのカウントダウンが、始まっていく……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

生贄の少女と異世界ぐらしwith 持ち物一つ

青樹春夜
ファンタジー
俺の部屋にあるもので異世界生活?高校生の俺の部屋にはマンガ・ゲーム・趣味の物プラス学用品・服・ベッド…。生贄の金髪碧眼少女と一緒に村を立て直すとこから始まる救世主生活!だけど特にスキルがついている気がしない⁈あっ…転生じゃないから? 1話1話は短いです。ぜひどうぞ! このお話の中には生活用品で魔物と戦うシーンが含まれますが、その行為を推奨するものではありません。良い子も悪い子も真似しないようお願い致します。 主人公ヒロキ……17才。 現実世界でつまづき、ある理由によって異世界に呼ばれたヒロキは、その世界で優しさと強さを手に入れる——。 ※数字の表記について——一から九までを漢字表記。それ以上は見やすくアラビア数字で表記しています。 ※他サイトでも公開中。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

処理中です...