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契約結婚の全てを知って…
契約結婚の全てを知って…
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帰りのタクシーの中、柚瑠木さんは黙って私の手を握っています。もちろん私も彼の手を握り返していますが、それでも彼の不安が少しでも和らげればいいと思って。
だけど、私も柚瑠木さんに聞きたいこともあって……
「どうして、私があの場所にいることが分かったのですか?」
私は柚瑠木さんに何も伝えず杏凛さんの病院についていき、匡介さんから話を聞いてそのままあの交差点に行きました。なのに柚瑠木さんはここにいる私を見つけて迎えに来てくれたんです。
「仕事から帰るといつも出迎えてくれる月菜さんの姿が無く、テーブルの上に貴女のスマホが置かれてままになっていて……」
いつもよりも小さな話し声、そして私を握る柚瑠木さんの力がまた強くなって。
「すぐに香津美さんに連絡をしましたが通じなくて。聖壱に話を聞くと、彼女は料理教室を休んでいたと。それであの二人が鏡谷 匡介の連絡先を調べてくれたんです。それで……」
「そうだったのですか。すみません、私も思い付きで行動してしまって……」
私は時々、周りが見えなくなることがあると怒られる時もあって。こんなに柚瑠木さんに心配をかけてしまったことを反省しました。
ですが彼は……
「覚悟していたつもりだったのに、月菜さんのいない暗い部屋を見たら僕は頭の中が真っ白になって……もの凄く怖くなったんです。」
結婚して初めて聞いた柚瑠木さんの弱音、今までの柚瑠木さんだったら、絶対に私にこんな弱い所は見せようとしなかったのに。
でも柚瑠木さんがここまで私の事を信頼して、自分の気持ちを話そうとしてくれているのが嬉しくて。
「それで、あの場所まで走って来たんですか?」
「……我慢するつもりだったんです、でもいざその時が来たら耐えられなかった。僕はもう、月菜さんを手放すことが出来ないんだと気付いたんです。」
いつの間にか私は、そんなに柚瑠木さんの心の奥に置いてもらえていたんですね。本当は私も不安だったんです、柚瑠木さんの本当の意味での特別に私ではなれないんじゃないかって。
ずっと柚瑠木さんにとっての特別は【ますみさん】だけなのかもしれないと……
「着きましたよ、降りましょう。」
いつの間にかタクシーの支払いを済ませた柚瑠木さんに手を引かれ、レジデンスのロビーを抜けてエレベーターの中へ。その間も彼の手は一度も私から離されることはありませんでした。
部屋の中に入り明かりを付けると、柚瑠木さんはもう一度私をそっと抱きしめて……
「全て話しても、月菜さんは僕から離れない……その言葉を信じますから。」
私がその言葉に静かに頷いた事を確認すると、柚瑠木さんは腕の力を抜き私を連れてソファーへと移動しました。
「……あの事件があったのは20年以上前、僕がまだ小学生だった頃の事なんです。」
一度キッチンへと向かって柚瑠木さんが持ってきてくれたのはホットミルク。そのカップを私に手渡しながら、柚瑠木さんはその当時を思い出すように話を始めました。
匡介さんは交換条件として、彼の知っている事件について教えてくれました。ですが詳しい話は柚瑠木さんから話してくれるまで待ちたいからと、匡介さんの話の途中で私はあの場所へと向かったんです。
「僕はその頃、きちんと学校に通うことが出来ていなかった。そんなある日、僕の事を心配した父と母が遠縁の若い女性を僕の家庭教師として連れて来たんです。」
「その女性が……ますみさん、ですか?」
その名前を私が知っている事に柚瑠木さんは少し驚いた顔をしましたが、彼は静かに頷きました。これからどんな話を聞くことになるのかと、私は緊張で胸が苦しくて……
「……真澄さんは都内の大学生を卒業すると同時に、僕の家庭教師を引き受け二階堂の家へと来てくれたそうです。性格は元気で明るく、彼女がいるだけで前向きな気持ちになれる。そんな太陽みたいな女性でした。」
柚瑠木さんが真澄さんの良い所を話す度、私はチクリチクリと胸に何かが刺さるような気がしました。私と正反対の魅力を持ち、柚瑠木さんの心を縛り続ける彼女に嫉妬してしまったのです。
だけど、私も柚瑠木さんに聞きたいこともあって……
「どうして、私があの場所にいることが分かったのですか?」
私は柚瑠木さんに何も伝えず杏凛さんの病院についていき、匡介さんから話を聞いてそのままあの交差点に行きました。なのに柚瑠木さんはここにいる私を見つけて迎えに来てくれたんです。
「仕事から帰るといつも出迎えてくれる月菜さんの姿が無く、テーブルの上に貴女のスマホが置かれてままになっていて……」
いつもよりも小さな話し声、そして私を握る柚瑠木さんの力がまた強くなって。
「すぐに香津美さんに連絡をしましたが通じなくて。聖壱に話を聞くと、彼女は料理教室を休んでいたと。それであの二人が鏡谷 匡介の連絡先を調べてくれたんです。それで……」
「そうだったのですか。すみません、私も思い付きで行動してしまって……」
私は時々、周りが見えなくなることがあると怒られる時もあって。こんなに柚瑠木さんに心配をかけてしまったことを反省しました。
ですが彼は……
「覚悟していたつもりだったのに、月菜さんのいない暗い部屋を見たら僕は頭の中が真っ白になって……もの凄く怖くなったんです。」
結婚して初めて聞いた柚瑠木さんの弱音、今までの柚瑠木さんだったら、絶対に私にこんな弱い所は見せようとしなかったのに。
でも柚瑠木さんがここまで私の事を信頼して、自分の気持ちを話そうとしてくれているのが嬉しくて。
「それで、あの場所まで走って来たんですか?」
「……我慢するつもりだったんです、でもいざその時が来たら耐えられなかった。僕はもう、月菜さんを手放すことが出来ないんだと気付いたんです。」
いつの間にか私は、そんなに柚瑠木さんの心の奥に置いてもらえていたんですね。本当は私も不安だったんです、柚瑠木さんの本当の意味での特別に私ではなれないんじゃないかって。
ずっと柚瑠木さんにとっての特別は【ますみさん】だけなのかもしれないと……
「着きましたよ、降りましょう。」
いつの間にかタクシーの支払いを済ませた柚瑠木さんに手を引かれ、レジデンスのロビーを抜けてエレベーターの中へ。その間も彼の手は一度も私から離されることはありませんでした。
部屋の中に入り明かりを付けると、柚瑠木さんはもう一度私をそっと抱きしめて……
「全て話しても、月菜さんは僕から離れない……その言葉を信じますから。」
私がその言葉に静かに頷いた事を確認すると、柚瑠木さんは腕の力を抜き私を連れてソファーへと移動しました。
「……あの事件があったのは20年以上前、僕がまだ小学生だった頃の事なんです。」
一度キッチンへと向かって柚瑠木さんが持ってきてくれたのはホットミルク。そのカップを私に手渡しながら、柚瑠木さんはその当時を思い出すように話を始めました。
匡介さんは交換条件として、彼の知っている事件について教えてくれました。ですが詳しい話は柚瑠木さんから話してくれるまで待ちたいからと、匡介さんの話の途中で私はあの場所へと向かったんです。
「僕はその頃、きちんと学校に通うことが出来ていなかった。そんなある日、僕の事を心配した父と母が遠縁の若い女性を僕の家庭教師として連れて来たんです。」
「その女性が……ますみさん、ですか?」
その名前を私が知っている事に柚瑠木さんは少し驚いた顔をしましたが、彼は静かに頷きました。これからどんな話を聞くことになるのかと、私は緊張で胸が苦しくて……
「……真澄さんは都内の大学生を卒業すると同時に、僕の家庭教師を引き受け二階堂の家へと来てくれたそうです。性格は元気で明るく、彼女がいるだけで前向きな気持ちになれる。そんな太陽みたいな女性でした。」
柚瑠木さんが真澄さんの良い所を話す度、私はチクリチクリと胸に何かが刺さるような気がしました。私と正反対の魅力を持ち、柚瑠木さんの心を縛り続ける彼女に嫉妬してしまったのです。
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