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番外編 笑った顔が見たいから
番外編 笑った顔が見たいから 後編
しおりを挟むプレゼントを渡した時、月菜さんはどんな顔をしてくれるでしょうか。あの花のような笑顔を見せてくれたら良いのに、なんて思ったりもして。
そんな事を考えていたらすっかり長湯をしてしまって、着替えを済ませてリビングに戻ると月菜さんがソファーで俯いていました。僕にはそんな彼女の姿が泣いているように見えて、急いで駆け寄ったんです。
すると月菜さんはいきなりソファーから立ちあがって……
「私も香津美さんの様に夫の傍で仕事をしたいと言ったら、柚瑠木さんは許してくれますか?」
「……仕事を、月菜さんがですか?」
まさかそんな事を言われるとは思ってもいなくて、すぐに彼女の望むような返事をすることは出来ませんでした。おっとりとした彼女を僕の傍に置いてしまっては、誰から嫌がらせを受けるか分かりませんし。
でもそんな僕の勝手な考えが月菜さんを傷付けている理由の一つになっているなんて思いもしてなかったんです。
「やはり霧島さんや香津美さんの様に華やかで有能な女性でなければ、駄目ですよね……」
「月菜さん……?」
ポロっと一粒の涙が月菜さんの頬を濡らして……
月菜さんはいつもならこんな事で泣いたりする女性ではありません。不思議に思って周りを見て気付いたんです、彼女の座っていた場所に空のワイングラスが転がっている事に。
「月菜さん、貴女まさか酔っぱらって……?」
月菜さんは普段僕の前でお酒を口にする事はありませんでした。だから僕も月菜さんがどれだけお酒に弱いかを知らなくて。でも、今の月菜さんはいつもと様子が違っていて……
「柚瑠木さんの隣を歩くのは私のはず……なのに霧島さんと柚瑠木さんの方がずっとお似合いで。」
小さくしゃくりあげながらも、話を続ける月菜さん。彼女は零れる涙を拭いもせず、ただ僕から目を逸らすことも無く……
ですが僕だって納得がいきません、僕の隣にいて欲しいのは月菜さんに決まっています。似合う似合わないなんて関係ない。
「霧島はただの秘書ですよ、月菜さんとは傍にいてもらう意味合いが違います。僕にとって月菜さんは……」
地位だとか家柄とかも関係なく、僕自身をちゃんと見てくれる。誰よりも僕の近くにいてずっと笑っていて欲しい人なんです。
けれどそう言葉にする前に、テーブルを指さして……
「……柚瑠木さんはクリスマスイブの日に、ただの秘書と楽しそうにアクセサリーを選ぶのですか?」
そこには僕が月菜さんに選んでおいたアクセサリーの入った小箱。確かに僕はチェストの中に隠しておいたはずなのに。
テーブルに置かれたプレゼントと月菜さんの先程の言葉、どうやら彼女は何かを誤解しているようです。
きつく握りしめられた彼女の手が心配になって、僕は彼女のこぶしにそっと手を添えてゆっくりとその手を開かせました。月菜さんは爪痕が残るほどにきつく握りしめていて、彼女をこんなに不安にさせてしまったことを僕は深く反省しました。
月菜さんが言っているのは、僕が彼女へのプレゼントを選んでいた時の霧島とのやり取りの事だとすぐ思いついたので。
「……あの時、見ていたんですね。」
「はい。霧島さんが柚瑠木さんの腕を引いて仲良さげにショップに入ったところから、ずっと……」
ああ、あの時そう言えば霧島はそんな事をしていましたね。霧島は普段から強引な所があるので気にしていませんでしたが、月菜さんにはそう見えてしまったのでしょう。
「声をかけてくれても良かったんですよ?」
「そんなこと出来ません、あんな親密な雰囲気を見せられて、私は……」
お酒の力を借りているせいかもしれませんが、月菜さんは普段言ってくれないような不満もちゃんと僕に教えてくれます。
「私は、凄く悔しくて……う、ひっく……っく。」
嫉妬して子供のように泣きじゃくる月菜さんが堪らなく可愛くて、我慢出来ずに涙で濡れたままの彼女を抱きしめました。
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