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番外編 貴方が選んでくれた物だから
番外編 貴方が選んでくれた物だから10
しおりを挟む車をパーキングに止めて助手席のドアを開け、差し出された手に自分の手のひらを重ねて歩き出します。都心からは離れた場所の平日に昼間という事もあってか、思っていたほど混雑はしていませんでした。これも柚瑠木さんが気を使ってくれたのかもしれません。
可愛いらしい形の花壇や植木に気を取られ、キョロキョロとしていると柚瑠木さんに横から笑われてしまいます。
「そんなに慌てて歩いていると転んでしまいますよ、月菜さん」
「すみません、ついどれもこれも気になってしまって。植物園は久しぶりで嬉しくて……」
あまりはしゃぎ過ぎていたら、柚瑠木さんに迷惑をかけてしまいますね。今度は彼に恥をかかせないよう柚瑠木さんの隣で大人しく歩き出します。せっかく大人っぽいコーデにしたんです、それっぽく振舞わなくては。
すると柚瑠木さんは立ち止まって肩を震わせて……
「柚瑠木さん? あの、どうしましたか……」
「だって、月菜さんが可愛い勘違いをするから。 僕はただ時間は気にしなくていいので、ゆっくり見て回りましょうって意味だったのに……ふふっ」
そうだったのですか、それならちゃんとそう伝えてくれればいいのに。
「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか。私だって緊張であまり余裕が無いんです」
「……知ってます。そんな月菜さんを相手にしてるので、僕も余裕なんかありませんよ?」
そんなはずはありません、柚瑠木さんはいつだって余裕の表情で……ほら、今だって拗ねた私の顔を見てもちっとも困ってなんていないじゃないですか。
だけどそんな私の気持ちも彼にはすべてバレているようで……
「余裕あるようにくらい振舞わせてください、僕は月菜さんよりずっと年上なんです。少しでも貴女の頼りになる夫でありたいんです」
「……それを嫌だと言える妻はいないと思います」
そんなの嫌なわけありません、柚瑠木さんがそう思ってくれることはとても嬉しいです。私が彼よりずっと年下であることを気にしてるように、柚瑠木さんも同じように気にしてくれているんですね。
それなのに素直に態度に出すことが出来ないのは……
「でも、私だって柚瑠木さんに釣り合うような大人の女性になりたいんです。強くてしっかりした大人の……」
「月菜さんが強い大人の女性になっても僕の気持ちは変わりませんよ? 僕は夫なんです、可愛い妻をいつだって甘やかしたい」
そう言って手を伸ばし、私の身体を優しく引き寄せる柚瑠木さん。平日とはいえ人目がある場所でこんな……
「ゆ、柚瑠木さん! 分かりました、だから少し離れてください」
周りの人の視線が気になり真っ赤になって柚瑠木さんにそう頼めば、彼はすぐに腰に回した腕を離してくれました。
柚瑠木さんが外でこんなに大胆な事をする人だとは思っていませんでしたし、自分の要求を私に断れなくするためにこんな手を使うだなんて……
私はもっともっと彼の事を深く知らなければいけませんね。
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