57 / 105
攫われて育つのは淡い恋心で
第四話
しおりを挟む「そうでしょ、俺は母親と過ごす時間が長かったし日本語が好きなんだ。それで君はこんなところでキョロキョロと何を探していたの? もしかして旅行中なのかな?」
青年は馴れ馴れしく話を続けるが、そこに下心は感じさせない。琴はそんな彼の様子に押されつつも笑顔で返事をしてしまう。
あとで加瀬に知られたら怒られないかと冷や冷やしながらも、きちんと話せばいいだろうと思いながら。
「いえ、スーパーへ買い物に来たんです。まだパリに来たばかりなので間違えないように気を付けてて」
「そうなんだ! じゃあ俺が案内してあげようか、新鮮でオススメなお店もあるよ?」
親切心なのだろうが、初対面の男性にそこまでしてもらう訳にはいかない。加瀬との約束もあるし、琴はぺこりと頭を下げて「大丈夫です」とだけ返し青年から距離を取る。
青年はそれを気にした様子もなく笑って手を振り、そのまま街中へと歩いて行ってしまった。本当に親切のつもりだったのだろう、きちんとお礼を言うべきだったと琴は少し反省した。
加瀬に教えてもらったスーパーで買い物を済ませると、本屋によって趣味や資格などの棚を見てるがフランス語を読めない事に気付いて諦めてそのまま家に帰った。
まだここでの生活に慣れるのは時間がかかりそうだと、小さな溜息をついて。
「え、来週なんですか? 志翔さんが前に言っていた日本人の方が主催の集まりって」
仕事から帰ってきた加瀬にそう言われて、キッチンで夕食の準備をしていた琴は驚いて顔を上げる。まだまだ先の事だとばかり思っていて、すっかり頭の中から抜けていた。
加瀬は書斎に鞄を置くとそのまま手洗いを済ませ、琴の横で夕飯の支度の手伝いを始める。
「そうだ、そのための服は俺が用意しておく。その他に何か必要なものがあれば、言ってくれたら準備する」
「あ、いえ。それは大丈夫なんですが……」
服もアクセサリーや小物も加瀬が買ってくれたものでまだ使っていないものもある。そんなに次々に買い与えられてばかりでは、逆にいつ使うかも困ってしまう。
加瀬は自分に甘すぎる、甘えることに慣れてない琴には少しハードルが高すぎるのだ。
「じゃあ何が心配なんだ? 少し不安そうな顔をしているように見える」
そうやって琴の小さな変化にも気付いてくれる、そんな加瀬に心揺さぶられないわけがない。ふんわりとした温かさが琴の胸の中を満たしていくようで……
少し迷ったが、彼女は小さな声で自分が不安に感じていることを加瀬に告げる。
「その、私は上手く友達を作ることが出来るでしょうか……?」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
247
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる