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契約結婚でも自然に笑えて
契約結婚でも自然に笑えて2
しおりを挟むすぐに私たちのテーブルまで来たウエイトレスに匡介さんはメニューを指差して二人分の注文を済ませる。私が選んだのは二種のベリーのハニートースト、匡介さんは相変わらずの仏頂面で何を頼んだのかしら?
そんな事ばかりを考えていると、彼が私の事をジッと見つめている事に気付く。もしかして何かおかしなところでもあるのかと、身の回りを確認するが特に変わった所は見当たらない。
「あの、えっと……匡介さん?」
「なんだ?」
「いえ、何でもありません……」
昔から顔なじみとはいえほとんど話したことも無かった私達が結婚しても、やはりお互いに距離を感じてしまうのは仕方のない事で。想像していた通りの、言いたいこともはっきりと口にする事の出来ないような形だけの夫婦でしかない。
……そう、そのはずなのに。
「杏凛、君は普段は寧々とどんな話をしているんだ? 今日も彼女と楽しそうに何か話していただろう」
「寧々と、ですか?」
匡介さんが私とねねの会話の内容を気にするなんて思ってなくて、おもわず彼の顔をまじまじと見つめてしまった。そうすると匡介さんは気まずそうに視線を逸らしてしまうけれど……
もしかして、私はこの人に少しくらい関心を持たれていると思ってもいいのかしら?
そんなちょっとしたことで、気持ちが少しだけふわふわするような気がするのはいったい何故? 私はこの人からどんな風に思われても構わないと思っていたのに、意外と本音はそうでもなかったのかもしれない。
匡介さんは逸らしていた視線をゆっくりと戻すと、私が寧々との会話の内容を話すのをじっと待っている。
「でも、私と寧々はそんな匡介さんが聞いて面白い様な話なんて……」
そう言いかけてふと思い出してしまう、今日の話題は新婚の夜に私を一人にした匡介さんへの不満ばかりだったことを。
確かに新婚の妻を置いて朝帰りをした匡介さんが悪いとは思う。だけど今はその話を蒸し返したくもないし、匡介さんの不満で盛り上がったなんて本人に言えるわけもない。
それなのに……
「面白くないか面白いかではなく、杏凛が普段どんな話をしているのかを知りたいだけだ」
「……どうして? そんな事をわざわざ知ろうとしなくても……」
私達は三年間という期限付きの夫婦でしかない、ならば相手を深く知ろうとするより何も知らないままの方が良いのではないかと思う。相手を知れば知るほど色んな感情が胸の中で育ってしまう事だってあるかもしれない。
でも、そんなのきっとこの結婚には必要ないはずのものだから……
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