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契約結婚でも自然に笑えて
契約結婚でも自然に笑えて3
しおりを挟む「……夫の俺が、妻を知ろうとする事に理由がいるのか?」
嫌味でも何でもない、本当に匡介さんは私の言っている事が不思議だと言うように聞き返す。私からすればそんな匡介さんの方がよく分からないというのに。
少しでも匡介さんの事を知ろうとせずに、契約結婚だからと距離を縮める努力なんて不要だと思っていた。でももしかしたら夫である彼はそうではないのかもしれない。
「でも私達は、普通の結婚ではないですから……」
さすがにこんな場所で契約結婚という言葉を使うのは躊躇われて、ぼかして言ったつもりだったけれど匡介さんの肩眉がピクリと動いた事に気付く。
「杏凛は俺達がどんな形で結婚したかを気にしているのか? だとしても……俺にはこうするしか方法が無かったからな」
「……方法が無かった? それはいったい何のことですか?」
匡介さんの言葉に引っ掛かりを感じて思わず聞き返す、彼の言葉にどこか後ろめたさを感じたのは私の気のせいなのかもしれないけれど。
だけど、そんな時に限って……
「お待たせしました。こちらが二種のベリーのハニートーストで、こっちは春の胸キュン・苺ミルクハニートーストになります!」
と、私の前に置かれたもの凄く甘そうな香りの春の胸キュン・イチゴハニートースト……まさか、これを匡介さんが?
「えっと、あの……?」
もしかしたらこれは店員の間違いなのかもしれない。そう思って匡介さんに目を向ける、そんな私の視線に気づいた匡介さんは「ああ」と頷いて……
「悪いがそれはこっちだ」
「え! あ、すみません!」
匡介さんの言葉にウエイトレスも一瞬ギョッとした顔を見せたけれど、すぐに作り笑顔でそのハニートーストを彼の前に置く。どうやら春の胸キュン・イチゴハニートーストは彼の注文したもので間違いないらしい。
山盛りのクリームに旬のイチゴが飾られ、イチゴのシロップをかけられたそのピンクのハニートースト。強面の匡介さんとの組み合わせに、違和感しか感じられないのに……
「杏凛、君は食べないのか?」
なんて当の本人はこれっぽっちも気にしてないのだから、そんな彼を一番近くで見ている私は我慢出来なくなってしまって。
今まで何度も匡介さんを見てきたのに、彼がこんな甘くて可愛いものが好きだなんて知らなかった。ずっと見たままのイメージ通りの人なんだと思っていたのに。
「ふ、ふふふ……そうよね、私ったらずっと……」
「杏凛? もしかして笑っているのか?」
匡介さんが私の顔を覗き込むようにしながら、その大きな片手で緩く結っていた髪に触れようとする。でもすぐにその手は引っ込められて私に触れることは無かったのだけれど。
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