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届かない、その祈り
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しおりを挟む「な、梨ヶ瀬課長! どうしてここに?」
慌てた様子の先輩が外にいたはずの女子社員を見ると、彼女たちは既に梨ヶ瀬さんに後ろで申し訳なさそうに手を合わせている。
きっと梨ヶ瀬さんに上手く丸め込まれてしまい、この現場を見せてしまったのだろう。
「どうしてって、ここは社員全員が使う給湯室だよね? そこに俺が来ることがそんなにおかしいのかな」
梨ヶ瀬さんの遠回しな言い方が余計に怖い。誰もが見に来れる場所でおかしな事をしている方が悪い、私にはそんな風に聞こえてしまう。
梨ヶ瀬さんはゆっくりとした動作で私の前に立ち、先輩と真正面から向き合ってみせる。この状態が彼に守られているみたいで、何となく恥ずかしかった。
「篠根さんが優秀なのは知っているけれど、どうして俺のサポートに相応しいかを横井さんに言わせる必要があるの?」
「それは……その、私が言うよりは話がスムーズかと思いまして」
嘘を言わないで、そうやって私を威圧して自分から梨ヶ瀬さんのサポートを断るように仕向けてたくせに。
少しでも自分のイメージを悪くしないようにと、さっきの事を誤魔化そうとしている先輩に腹が立つ。
「そうなの、横井さん?」
わざとらしく私に確認してくる梨ヶ瀬さんと、ギロリと鋭い目つきで睨んでくる篠根先輩。もうどうするのが一番良いのか段々分からなくなってくる。
「それは、その……」
梨ヶ瀬さんの質問の答えに迷う。今ここで先輩が嘘を言っていると言えば、先輩や外にいる女子社員は上司から注意を受けるだろう。
しかしこれだけ嫌がらせを受けて黙っていても、きっと彼女たちの行為を増長させるだけ。それならば……
「どうなの、横井さん?」
「……いいえ、ハッキリと篠根先輩に梨ヶ瀬さんのサポートを断るように言われました。そのうえ自分が相応しいと上司に口添えするようにとも」
そう言った瞬間、梨ヶ瀬さんの口角がクッと上がった事に気付く。どうやら彼が望んでいた答えを私は出すことが出来たみたいだ。
だけどそんな梨ヶ瀬さんとは反対に、真っ青になって震える篠根先輩。彼女は私をギラッとした目で睨むと……
「なんてことを言うの、横井さん! 嘘、嘘です! 横井さんは私が嫌いだからってそんなでたらめをっ!」
さっきまで私を威圧していた彼女は、なりふり構わず私を悪者にしようとしてくる。嘘なんて私は行ってないし、反省の色の無い彼女に私の中で何かがプチンと音を立てて切れた。
「嘘? 何が嘘なんですか? こうやって先輩が私を呼び出して言うことを聞かせようとしたことですか。それとも……この前、資料室に閉じ込めるなんて子供じみた嫌がらせをしたことですか?」
「……横井さん、貴女!!」
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