上 下
44 / 102

第41話

しおりを挟む
潮の匂いで津久見は目を覚ました。



(う…。あ、今回は誰にも殴られずに起きたぞ。)



と思いながら、立ち上がる。



波風が清々しい。



看板に出て周囲を見渡すと、一面海であった。



「殿、お目覚めでございますか?」



声を掛けてきたのは平岡であった。



「ああ。平岡ちゃん。海は気持ちいいねえ。」



「拙者は少々怖いです。」



「そなの?」



「はい。船に乗るのが初めてなもので…。」



「そっか。船酔いとか大丈夫!?」



「いや、それがちょっと気持ちわ…」



と言いかけると、平岡は口に手をあて、どこかに行ってしまった。



遠くから嗚咽の声がする。



「平岡ちゃん…。」



津久見は少し笑いながら言った。



(今どこらへんなんだろう…。)



辺りを見渡すが見当もつかない。



すると、足音が聞こえて来た。



「おう、治部殿。お目覚めか。」



村上武吉であった。



津久見はまだこの男の免疫ができていない。



後ずさりしながら、



「はい、今起きた所です。」



「そうかそうか。治部殿は船は初めてか?」



村上は聞いてきた。



「いや、サンフラワー号で…。」



「さんふらわあ?」



「いや、え~っと、二回目くらいですかね。」



「左様でござるか。」



「今どこら辺なんですか?」



「今伊予の辺りを超えたところにござるよ。」



「あ~もう、そんな所まで来てたんですね。」



案外普通に喋れる村上に、すこしづつ津久見は慣れて来た。



「佐伯にはあと一時間くらいでつきますぞ。」



「佐伯…。大分県じゃないですか!!」



「おおいたけん?」



「いや、何でもないです。」



津久見は実家の大分の佐伯港に向かっている事に殊更喜んだ。



(佐伯か…。懐かしいな。よく堤防で釣りしたなあ。俺の先祖様とかいるんかな)



等と考えていたら、村上が聞いてきた。



「治部殿は戦の無い世を作りたいと仰っていられるようで。左近殿から聞きましたぞ。」



「あ、はい。そうです。」



「でしたら我々水軍大名はどうすればよい?伊予の一角を収めてはおるが、本業は…。」



「海賊…ですか?」



「ん、まあ、悪い奴らを懲らしめてるだけじゃけどな。」



「そうですか…。」



津久見の頭は回転し始めた。

海賊業を止め、伊予の一角だけに収めるには、この水軍は勿体なすぎる。

ふと、津久見の中で一案が思いついた。



「海運業…。」



「ん?なんですと。」



「海運業ですよ!この立派な船たちと、乗組員。西日本を縦断して、各地の特産品を海を渡って届ける。どうですか?これ。」



「何を言ってるのかさっぱりわからん。」



「だから、村上水軍じゃなくて、を作りましょう!」



「海運…。そりゃあ、稼げるんか?」



「きっと。どっさり。」



津久見はニヒルな笑みを浮かべる。



「ほんまかいな。それやったらやってもええけど…。」



「ちょっと、この話、豊後が落ち着いたら、帰りの船で話しましょう。」



「うん。そうだな。がっぽりいけるんか?」



「がっぽり。」



津久見はまたニヒルな笑みで村上を見る。



すると、

「あ、治部殿。佐伯港でござる。降りる準備をしてくだされ。」



「あ、はい!」

津久見は真顔になって、準備を始めた。





船は港に着岸し、板がかけられ、津久見達は降りていく。



港を少し歩きながら



(どこか、故郷の匂いがする)



目を瞑りながら、津久見は思った。



すると、行く手の先から、50名ほどの武装した兵士が、槍を片手にもう突進してきていた。



「え、なんで!?」



先頭で馬に乗っている武将は、先の長い兜に〇の絵が描かれている兜を被って、槍を片手に一直線に、津久見に突進してきている。



「え、ちょ、。」



「治部よ!!覚悟!!!!!」



その武将は、槍の穂先を津久見に向け突き刺してきた。



「うっ!!!」



津久見は後ろに吹き飛ばされてしまった。





第41話 完
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

広島の美術館

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

日は沈まず

歴史・時代 / 連載中 24h.ポイント:63pt お気に入り:94

この婚約はなかった事にしてください。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:107

父性覚醒~最凶の魔法使いは樹人の少女に絆される~

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:877

君の笑顔が見たいから

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

シルバーアイス

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

処理中です...