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第二章:城での生活の始まり
第21話 思わぬ副産物
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カレヴィに庭園に誘われたのはいいんだけど、そういえばわたし腰が痛いことをすっかり失念してたよ。
それで、そのことをカレヴィに言ったら、すぐに王宮付きの魔術師を呼ばれて治癒魔法をかけられた。
「ティカ様ほど完璧にはいきませんが、これでいくらかは痛みが引かれると思います」
「ありがとう」
その魔術師に言われた通り、少し痛みは残るけど、だいぶ楽になった。これなら庭園に行けそうだ。
ちなみに治癒魔法って言うのは、完全に治癒させるものじゃなくて、正式には「治癒させる為の魔法」って言うんだって。
千花みたいに完璧に治癒させるのは、むしろ一般の魔術師的にはものすごく非常識な部類に入るらしい。
「……ですが陛下、ハルカ様にあまりご無理なことをなされないようにお願いいたします。治癒魔法もあまり頻繁には使えません故」
カレヴィに苦言を呈した魔術師曰く、痛いからってあまり治癒魔法に頼っていると、人体本来の治癒能力が鈍ってくるからなんだそうな。
……それなら、仕方ない。次からは湿布と痛み止めで我慢しよう。痛み止めっていっても、ここのは薬湯だから飲み続けても大丈夫らしいし。
本当はカレヴィが自重してくれるのが一番いいんだけどね。
千花に会ったら、例の精力減退の薬があるか確認しておかなきゃ。
「……ああ、分かった。一応頭に入れておく」
「一応じゃなくて、ちょっとは自重してよね」
本当に分かってるんだかどうだか分からないカレヴィにわたしは文句をつけたけど、ここまで言っても夜には忘れられてそうだよなあ。……カレヴィ、鳥頭か。
ああ、と言ったカレヴィの目が泳いでるのも怪しい。
「……まあ、それはともかく庭園まで移動させてくれ。ハルカの体のこともあるしな」
む、ごまかしたな。
そもそも今、わたしの体を気遣えるんだったら、夜にセーブして欲しい。
けど、なんでカレヴィがわたしの体にそこまで執着するのか本当に分からない。
カレヴィは貴族のおじさん達に、どの高級娼婦よりもわたしが最高だったって言ってたけど、ひょっとしてあれは真実だったってことなのかな。
貴族を追い払う名目で言ったのかと思ってたけど、わたしの体って、カレヴィの好みにかなり合っているのかもしれない。……一応、わたしは巨乳とは言われるし。
でも高級娼婦の人に、そういう人はいくらでもいそうなんだけどなあ……。
そこのところをカレヴィにはっきり聞いてみたいけど、今朝みたいに誘われてると思われたらたまったもんじゃないし。どうしたもんだろう。
……でもまあ、カレヴィには折りを見て聞いてみよう。ちょっと聞くのにも心構えがいるけど。
わたしがそんなことを思っている内に、カレヴィに命令された魔術師は頷いて、わたしとカレヴィ、それにお付きの者達を庭園の入り口まで移動させた。
カレヴィに案内されたのは、南国ムード溢れる庭園だった。
南国の植物が茂っているそばに人工の川やら噴水が絶妙に配置されていて庭園自体が涼しくなるように配慮されているみたいだ。
それでも、快適な温度だった王宮内と違ってここは少し暑い。
「ちょっと暑いね」
額に浮かんだ汗をハンカチで拭いながらそう言うと、カレヴィはいつもと変わらない涼しい顔で肩を竦めた。
「この国の気温はこんなものだ。……城の中は魔術で快適な温度に保ってある」
ふーん、常時クーラーが作動しているようなものか。
こんな快適な環境で趣味に浸れて、最強の魔術師が友達で、王の婚約者としてみんなにかしずかれてる。……わたしってつくづく恵まれてるよなあ。
元はただの一般庶民のわたしは、ザクトアリアの国民に対してちょっと罪悪感を感じてしまう。
そう考えると、貴族のおじさん達がわたしに反発していたのも分かる気がする。
それでわたしが少し溜息をついてると、カレヴィが「どうした」と聞いてきた。
わたしがさっきの自分の考えをカレヴィに話すと、彼はわたしの肩を抱き寄せて笑った。
「おまえが気に病むことはない。おまえは王妃の務めを果たすことだけ考えていればいい」
「……うん」
王妃の務めっていったら、まず子作りだよね。
カレヴィがあの調子だったら、結婚してすぐできるかなあ。できるといいな。……体力的にちょっと大変そうだけど。
そんなことを思いつつ庭園を見回していたら、巨大な黄色い房が垂れ下がっているのが目に入った。
……これって、もしかしてバナナ?
付いてきていた庭師の説明によるとやっぱりバナナで、鑑賞用に植えてあるそうだ。でも本来は食用の品種なので食べられるんだって。
ネットでバナナの房が巨大とは知ってたけど、実際に目にするとなんか感動するなあ。
わたしの住んでいる地域は、バナナ育ててる人いないしね。
「へえ~……」
わたしは食べごろサインの黒い斑点、いわゆるスイートスポットの出ているバナナを房から一本もぐと、皮を剥いて食べてみた。
うん、濃厚な甘みがあってとってもおいしい。
にこにこしながらバナナを食べるわたしをカレヴィは最初呆気に取られて見ていたけど、なにか変だったかなあ。
それに、次にはなぜか彼がにやけていたみたいなのも気になった。……なんか妖しいぞ、カレヴィ。
「おいしいよ」
わたしがバナナをもう一本房からもいでカレヴィに渡すと、彼は仕方なさそうに苦笑した。
「……ああ、確かにうまいな」
わたしと同じようにバナナにかぶりついたカレヴィもちょっと驚いたように瞳を見開いた。
彼も観賞用のものとは思えないおいしさにびっくりしたらしい。
「でしょ? これ少し持って帰っていいかなあ」
わたしがそう言ったら、庭師が気を利かせて房の一部を切り落としてくれた。
「ハルカ様、よろしかったら他にも果物がありますよ」
庭師はわたしがバナナをおいしいと言ったことが余程嬉しかったらしく、パパイヤやアップルマンゴーなんかを山ほど採ってくれた。
ふふふ、庭師の人、気が利きすぎで嬉しいぞ。
他にもいろいろ種類はあるらしいけれど、それはまた、次の機会でいいかなと思って、今日はこの辺でやめておいた。
とりあえず、これは今日の食後のデザートにしよう。
でも、ちょっと量が多いかなあ。まあ、後でモニーカ達や近衛兵に分ければいいか。
にやにやしながら大量にゲットした南国フルーツを見ていたら、カレヴィがちょっと呆れたように言った。
「おまえは庭園に散策に来たのか? それとも果実狩りに来たのか?」
「え? もちろん散策に来たんだよ」
思わぬ副産物で、果実狩りもできたけどね。
でも、果実狩り出来る庭園なんて貴重だよねえ。わたしも漫画でそんなの描いたことないぞ。
それに、せっかく庭師が丹誠込めて作ってるんだから、これを食べずに捨ててしまうのはもったいない。
これは、これからもっと庭園の有効な使い方をカレヴィとも相談しないとね。
それで、そのことをカレヴィに言ったら、すぐに王宮付きの魔術師を呼ばれて治癒魔法をかけられた。
「ティカ様ほど完璧にはいきませんが、これでいくらかは痛みが引かれると思います」
「ありがとう」
その魔術師に言われた通り、少し痛みは残るけど、だいぶ楽になった。これなら庭園に行けそうだ。
ちなみに治癒魔法って言うのは、完全に治癒させるものじゃなくて、正式には「治癒させる為の魔法」って言うんだって。
千花みたいに完璧に治癒させるのは、むしろ一般の魔術師的にはものすごく非常識な部類に入るらしい。
「……ですが陛下、ハルカ様にあまりご無理なことをなされないようにお願いいたします。治癒魔法もあまり頻繁には使えません故」
カレヴィに苦言を呈した魔術師曰く、痛いからってあまり治癒魔法に頼っていると、人体本来の治癒能力が鈍ってくるからなんだそうな。
……それなら、仕方ない。次からは湿布と痛み止めで我慢しよう。痛み止めっていっても、ここのは薬湯だから飲み続けても大丈夫らしいし。
本当はカレヴィが自重してくれるのが一番いいんだけどね。
千花に会ったら、例の精力減退の薬があるか確認しておかなきゃ。
「……ああ、分かった。一応頭に入れておく」
「一応じゃなくて、ちょっとは自重してよね」
本当に分かってるんだかどうだか分からないカレヴィにわたしは文句をつけたけど、ここまで言っても夜には忘れられてそうだよなあ。……カレヴィ、鳥頭か。
ああ、と言ったカレヴィの目が泳いでるのも怪しい。
「……まあ、それはともかく庭園まで移動させてくれ。ハルカの体のこともあるしな」
む、ごまかしたな。
そもそも今、わたしの体を気遣えるんだったら、夜にセーブして欲しい。
けど、なんでカレヴィがわたしの体にそこまで執着するのか本当に分からない。
カレヴィは貴族のおじさん達に、どの高級娼婦よりもわたしが最高だったって言ってたけど、ひょっとしてあれは真実だったってことなのかな。
貴族を追い払う名目で言ったのかと思ってたけど、わたしの体って、カレヴィの好みにかなり合っているのかもしれない。……一応、わたしは巨乳とは言われるし。
でも高級娼婦の人に、そういう人はいくらでもいそうなんだけどなあ……。
そこのところをカレヴィにはっきり聞いてみたいけど、今朝みたいに誘われてると思われたらたまったもんじゃないし。どうしたもんだろう。
……でもまあ、カレヴィには折りを見て聞いてみよう。ちょっと聞くのにも心構えがいるけど。
わたしがそんなことを思っている内に、カレヴィに命令された魔術師は頷いて、わたしとカレヴィ、それにお付きの者達を庭園の入り口まで移動させた。
カレヴィに案内されたのは、南国ムード溢れる庭園だった。
南国の植物が茂っているそばに人工の川やら噴水が絶妙に配置されていて庭園自体が涼しくなるように配慮されているみたいだ。
それでも、快適な温度だった王宮内と違ってここは少し暑い。
「ちょっと暑いね」
額に浮かんだ汗をハンカチで拭いながらそう言うと、カレヴィはいつもと変わらない涼しい顔で肩を竦めた。
「この国の気温はこんなものだ。……城の中は魔術で快適な温度に保ってある」
ふーん、常時クーラーが作動しているようなものか。
こんな快適な環境で趣味に浸れて、最強の魔術師が友達で、王の婚約者としてみんなにかしずかれてる。……わたしってつくづく恵まれてるよなあ。
元はただの一般庶民のわたしは、ザクトアリアの国民に対してちょっと罪悪感を感じてしまう。
そう考えると、貴族のおじさん達がわたしに反発していたのも分かる気がする。
それでわたしが少し溜息をついてると、カレヴィが「どうした」と聞いてきた。
わたしがさっきの自分の考えをカレヴィに話すと、彼はわたしの肩を抱き寄せて笑った。
「おまえが気に病むことはない。おまえは王妃の務めを果たすことだけ考えていればいい」
「……うん」
王妃の務めっていったら、まず子作りだよね。
カレヴィがあの調子だったら、結婚してすぐできるかなあ。できるといいな。……体力的にちょっと大変そうだけど。
そんなことを思いつつ庭園を見回していたら、巨大な黄色い房が垂れ下がっているのが目に入った。
……これって、もしかしてバナナ?
付いてきていた庭師の説明によるとやっぱりバナナで、鑑賞用に植えてあるそうだ。でも本来は食用の品種なので食べられるんだって。
ネットでバナナの房が巨大とは知ってたけど、実際に目にするとなんか感動するなあ。
わたしの住んでいる地域は、バナナ育ててる人いないしね。
「へえ~……」
わたしは食べごろサインの黒い斑点、いわゆるスイートスポットの出ているバナナを房から一本もぐと、皮を剥いて食べてみた。
うん、濃厚な甘みがあってとってもおいしい。
にこにこしながらバナナを食べるわたしをカレヴィは最初呆気に取られて見ていたけど、なにか変だったかなあ。
それに、次にはなぜか彼がにやけていたみたいなのも気になった。……なんか妖しいぞ、カレヴィ。
「おいしいよ」
わたしがバナナをもう一本房からもいでカレヴィに渡すと、彼は仕方なさそうに苦笑した。
「……ああ、確かにうまいな」
わたしと同じようにバナナにかぶりついたカレヴィもちょっと驚いたように瞳を見開いた。
彼も観賞用のものとは思えないおいしさにびっくりしたらしい。
「でしょ? これ少し持って帰っていいかなあ」
わたしがそう言ったら、庭師が気を利かせて房の一部を切り落としてくれた。
「ハルカ様、よろしかったら他にも果物がありますよ」
庭師はわたしがバナナをおいしいと言ったことが余程嬉しかったらしく、パパイヤやアップルマンゴーなんかを山ほど採ってくれた。
ふふふ、庭師の人、気が利きすぎで嬉しいぞ。
他にもいろいろ種類はあるらしいけれど、それはまた、次の機会でいいかなと思って、今日はこの辺でやめておいた。
とりあえず、これは今日の食後のデザートにしよう。
でも、ちょっと量が多いかなあ。まあ、後でモニーカ達や近衛兵に分ければいいか。
にやにやしながら大量にゲットした南国フルーツを見ていたら、カレヴィがちょっと呆れたように言った。
「おまえは庭園に散策に来たのか? それとも果実狩りに来たのか?」
「え? もちろん散策に来たんだよ」
思わぬ副産物で、果実狩りもできたけどね。
でも、果実狩り出来る庭園なんて貴重だよねえ。わたしも漫画でそんなの描いたことないぞ。
それに、せっかく庭師が丹誠込めて作ってるんだから、これを食べずに捨ててしまうのはもったいない。
これは、これからもっと庭園の有効な使い方をカレヴィとも相談しないとね。
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