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36.いろいろとありえない!

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「さらにビッチ・スタインの言葉により、当人がいじめられたと申した者は、ビッチ・スタインに抗議文を送った側の令嬢ということが判明した」

 ……あーあ、ビッチちゃん、自分からゲロってどうすんだ。ドジっ子認定するにはかわいげがなさすぎるぞ。
 わたしがあきれているうちにも、陛下のお言葉は続く。

「そして、王宮調査官の調べから、ビッチ・スタインに抗議文を送った家の令嬢たちは、確かにビッチ・スタインによって抗議文どおりの虐げを受けていることが裏付けされた。ビッチ・スタインの度重なる偽証、とうてい許されるものではない」

 ……ここまでビッチちゃんの非がはっきりしていると、彼女があれだけ自信ありげに出してきた証拠とやらの存在がむなしすぎるな。ビッチちゃん、結局自分の首をさらに絞めただけじゃん。もう隠しもせずに、すごい目で陛下を睨んでるけど、それも減点対象だからね。

「──それから、ビッチ・スタインには、殺人未遂容疑がかかっておる」

 えっ。
 いくらビッチちゃんでも、さすがにそこまでするとは思っていなかったわたしは、驚愕から目を見張る。
 そして、ビッチちゃんのお馬鹿な自爆行為に失笑していた会場内の人々も息を呑む気配が伝わってきた。

「えっ、えっ? わたしが殺人未遂ってなんのことですか!? そんなのなにかの間違いです!」

 さすがのビッチちゃんも、いきなり重大な嫌疑をかけられて、びっくりした顔で声を荒らげる。

「そなた、学園でコーラル・ファーガソン子爵令嬢を池に突き落としただろう」
「えっ、なんでそれが殺人未遂になるんですか!? そんなのおかしいです!」

 暗に犯行を自供してしまったビッチちゃんは悪びれもせずにそう言ったけれど、ビッチちゃん、それはまぎれもなく殺人未遂だぞ!
 学園の制服は簡易とはいえ、まぎれもないドレス、そんな格好で池に落とされたら、普通の令嬢はまず自力じゃい上がれない。まさに死んでくださいと言うようなものだ。
 ビッチちゃんのありえないその言葉に、陛下が凍えそうな瞳でビッチちゃんを見下ろした。

「おかしいもなにも、現にコーラル嬢は溺れて死にかけた。その時のショックで彼女は記憶を失っていたがな」

 それに対して、ビッチちゃんは小馬鹿にするような顔と調子で「なーんだ!」とほざいた。……うわあ、ほんとに不敬だなあ……。なんかもう、いろいろとありえないよビッチちゃん。

「記憶がないなら、わたしがやったって証拠にはならないです! わたしが池に突き落としたなんて、きっとわたしをねたんだそいつの虚言ですよ!」

 ……いや、ビッチちゃんのどこにねたむ要素があるの?
 言っちゃ悪いけど、髪色以外は容姿は平々凡々だし、学園の成績も地を這ってて、さらにサバス様と並んで学園では嫌われまくってたよね?
 それに比べてコーラル嬢といえば、かわいらしい容姿で男性に人気があったはずだ。爵位もビッチちゃんの家より彼女のが上だし、ねたむ要素がまったくない。
 それにビッチちゃん、さっき陛下が「池に突き落とした」っておっしゃった時、そのことをスルーしてたじゃないか。普通はやってないなら、まずそれを否定するでしょ? 加えて、被害者をそいつ呼ばわりって心証が悪すぎる。まあ、これは今さらかもしれないけどさ。

「……なぜ、コーラル嬢がそなたをねたむ必要があるのだ?」
「えっ? だって、わたしには侯爵家嫡男のサバス様がついてますしぃー? 子爵令嬢ごときが、そんなわたしにかなうわけないですよ!」

 どこまでも不遜な態度のビッチちゃんをサバス様が「ふざけるな!」とでもいうような顔で睨みつけている。ビッチちゃんはそれに気づきもしていないけど。
 それにしてもビッチちゃん、思い上がってんなあ……。とうに化けの皮がはがれて、サバス様にも本性がばれてるっていうのに、まだその効力が続いているとでも思ってるのかな?

「……そのコーラル嬢は侯爵家の子息と婚約中だ。いまだサバス・パーカーと婚約もしていないそなたをねたむ必要性がない」
「ええっ! あの女、たかが子爵令嬢のくせに、侯爵家の子息と婚約なんて図々しいわ! 何様のつもりよ!」

 あきれたようにおっしゃった陛下に、驚いた様子のビッチちゃんはありえない返しをした。
 ビッチちゃん、まさか男爵家は子爵家より上だとでも思ってんのか? そう思わざるをえないほど、ツッコミどころがありすぎる。

「そなたこそ何様のつもりだ。コーラル嬢の家はそなたの家よりも上位、さらに言うなら、彼女の婚約者の家は、サバス・パーカーよりも家格は上である。そんなコーラル嬢をそなたが貶めるいわれはない」

 そうおっしゃって、侮蔑をたたえた瞳で陛下がビッチちゃんを見つめたけれど、心臓に毛の生えている彼女はどこ吹く風で、それどころかとんでもない一言をさらに繰り出した。

「そんなどうでもいいモブより、世界に選ばれたわたしのほうがずっと重要です! だってわたしは、この国の未来の王妃になるんですからね!!」

 えええ、ビッチちゃん、既に陛下に不敬罪を言い渡されているのに、なんでそうなるの!?
 彼女のありえないその一言で、必然的に会場中の視線がとある人物に集まった。

「……はあ?」

 いきなりビッチちゃんに伴侶発言をされ、注目を浴びたアーヴィン様は、茫然ぼうぜん自失のていでそうつぶやいた。
 ……うん、なんかもう、彼にはご愁傷様ですとしか言いようがない。
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