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第2章 水と炎の激愛、揺れる光の惑い編

6.アメジストの耳飾り

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城にいた三日間、結局、俺とバルドの間に明確な言葉のつく進展はなかった。
特に接触らしい接触もなく、俺一人が消化不良を起こしたような状態。
話したくても何をどう話せばいいか分からず、一人悶々としたまま、当日になってしまった。
当日は宰相らに見つかると厄介だからと、細心の注意を払って城を出た。
向かうのは、俺とバルドとセレストの三人のみ。俺の肩には勿論、リラがいた。

城の裏手から脱出、城下へと降りるとひとまず息がつけた。
城下は帝都と呼ばれるだけあって、すごく賑やかだ。露店には、様々な物が並んでる。
色とりどりの布を売る店、花、果物、お菓子みたいな甘い物まで売られてる。
宝石が売られていて、ふと目が止まった。
欲しいわけじゃなく、本当に見ただけ。

綺麗だな。特に、あの赤い石が付いたのとピンクの石のやつ。赤はラーシャ、ピンクはファランに似合いそうだ。

「何、見てる?」
「わ!ビックリした、急に声かけるなよ」

不意に耳に息がかかるくらいの距離で、バルドに声かけられ、俺は跳ね上がった心臓に、バルドを軽く睨む。
 
「で?何見てたって?」

ほんと、この皇太子様、我が道を行くだよな。
言ったところで、無駄だから余計な問答はしないけど。

「あそこの店のアクセサリー見てただけ」
「あくせ…何だって?」
「これも、ひっかかるんだな。え~~っと、宝飾品?」

《ルーン》便利だけど、こういう時不便。
俺が指差した露店を見て、バルドはあぁと頷く。

「あの店のは、安いが細工はいい…ん?どうした?」

無言で見つめる俺に、バルドが問いかけてくる。

「皇太子なんだし、あんな安物とか言うのかと思った」
「お前な…お前の中の俺はどんな鼻持ちならん奴だ?
あぁした物にも、ちゃんと職人がいる。確かに粗悪なモンもたまにはあるが、無闇に貶したりしねぇよ」

いい物はちゃんといいと褒める。
やっぱり、バルドは俺が思う王族貴族のイメージから離れてる。

「で?どれが欲しいって?」
「いや、欲しいなんて言ってない。ただ、あそこにある、赤とピンクのが………」
「あれか?確かに、細工はいいが、お前の雰囲気には合わねぇな」

だから、聞けよ!俺は自分が欲しいなんて言ってない。
ラーシャとファランに似合いそうだなって言葉は、バルドに遮られる。

「バルド、違…」
「お前に似合うのは、これだな」
「ちょ!バルド?!」

露店まで、バルドに手首を掴んで連れて行かれる。
近づくと、地面に置かれた木の板の上に白い布が敷かれただけの簡素な露店だったが、その板の上には所狭しと、綺麗な色とりどりの宝石が使われた宝飾品が並べられていた。

その中から、バルドが手に取ったのは、紫色の石が細長く切り出され、銀の細かいツタのような植物が絡みつけられたシンプルなデザインの耳飾り。

「兄ちゃん、目が高いな。そりゃ、最高の質のアメジストだ。石がいいから、銀は控えめにしてある。うちの店で出す自慢の一つだぜ」

露店のオヤジに説明を受け、バルドは満足そうに笑う。

「いくらだ?オヤジ」
「連れの可愛いのに買ってやんのか?いいとこ見せなきゃな。いいぞ、ちょっとまけてやる。これで、どうだ?」
「ちょ!バルド、買うのか?それに、可愛いって何だよ!俺は、男だ!女の子じゃない!!」
「わっはっはっ!見りゃ、分かる。だが、坊主は可愛いぞ」

絶句。
何なんだ?この世界。背の低い男はすべからず、みんな可愛いカテに入るのか?
言葉を失う俺に構わず、バルドとオヤジとで交渉が成立し、耳飾りはバルドの手に。

「着けてやる」
「あんたな……」

綺麗なものは嫌いじゃない。だけど、俺だって男だし、アクセサリーもらって、キャアキャアいう女の子じゃないんだけど?
どちらかといえば、剣とか武器系のがワクワクするし嬉しいけど、所詮、争いとは無縁の世界育ち。素人がいきなり刃物持ったって怪我するだけだ。
それに、似合うと言われて嬉しくないわけじゃない。
自分で着けると言いたいが、鏡がないので任せる。

うぅ、恥ずかしい。
耳に触られるって、思ったより恥ずかしい。
髪をかきあげられ、露わになった耳にバルドの手で耳飾りが着けられる。
軽い重みが耳たぶに伝わるが、バルドの手が離れない。

「バ、ルド……」
「どうした?」

いや、どうしたじゃねぇよ。
おそらく、俺の顔は赤い。軽く睨むが、バルドはどこ吹く風で不敵に笑ってる。
こいつ、ワザとやってるな。

「くすぐったい、んだ、けど」
「だろうな。ワザとやってるから」

言い切りやがった、この皇太子様。

「スケベ………」

いいように振り回されてるのが悔しくて、精一杯睨みながら言った俺に、バルドは一瞬目を瞠り、
クッと喉奥で笑い、堪え切れないと肩を震わせて笑い出した。

「涙目で睨んでも可愛いだけだって言ったろ?」
「……………」

楽しそうに笑うバルドと、涙目で睨む俺に横から声がかかる。

「二人とも、いつまでもイチャついてないで、さっさと行くぞ」

セレストだ。

「ジャマすんなよ、セレスト」
「イチャついてない!!」

俺とバルドの声がそれぞれでハモった。

俺の耳に着けられたアメジストが、キラリと光を弾いて煌めいていた。




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