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序章 異世界転移でてんやわんや篇
9.それは………有り??
しおりを挟む頬に当てた俺の手を、カイザーがそっと外した。
「お前自身……深くは……考えてないんだろうな」
「え?」
「何でもない…不用意に、その気もない相手の肌に触れるなよ」
それだけ言い、一人さっさと歩き出す。
しばし固まり、言われた言葉を数回反芻し、やがて、かぁーーっと顔が熱くなる。
言われた言葉もそうだが、何より、自分の行動に狼狽えた。
心配するのは分かる。が、何故触れる必要があったのか?
カイザーの熱がまだ残る自分の手を見下ろし、ワキワキ動かした後、思わずしゃがみ込んで顔を手で覆った。
恥ずかしすぎる!!
可愛い女の子ならまだしも……何で、よりによって男……
そこまで考えて、ハッとなる。
「その気もないのにっておかしいだろ⁈何で、そもそも、それが有りみたいな言い方するよ??」
カイザーの言い方だと、その気があれば、相手は女の子だけに限らずみたいに聞こえた。
「まさか……!……………………ね?」
怖い考えが浮かびそうで、思わず乾いた笑いが出た。
「いつまでそうしてる?騎兵舎に寄ってから帰る。さっさとしろ」
先に行っていたカイザーに呼ばれた。
一度、頭を軽く振り、脳裏に浮かんだ考えを振り払い後を追った。
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近衛騎士が詰める兵舎と呼ばれる建物は、一見、そうは見えないくらいに瀟洒な建物だ。
皇国に勤める、いわゆるエリートってやつだからか、粗末な物だと皇室の威厳に関わるとばかりに、綺麗にされていた。
カイザーに連れられ、恐る恐る入る。
中は意外とシンプルでスッキリしている。ごてごてしい鎧やら剣やらあったら……という考えは払拭された。
「意外とまとも……」
「何を想像してたんだ?こっちだ」
促され、奥へと進む。
中庭のような場所があり、そこを囲むように建物が建つ仕組みらしい。
灯りに照らされたその場所で、騎士らしき者たちが武術稽古したり、何やら難しい顔で話したりと集まっている。
外はかなり暗い。何時なのかは分からないが、夜だろうに、かなりな人数が詰めてる。
「隊長?」
声がかかり、青年が一人歩いてくる。
金髪の見知った顔。キリアンだ。
「皇太子殿下に呼ばれたんじゃ?もう、終わったんですか?」
「一応な。それもあって、ここに来た」
カイザーの少し後ろにいる俺に気付き、キリアンがパッと嬉しそうに笑う。
「マヒロちゃんも一緒ですか」
「……………………」
良く言えば気さくで人懐こい。悪く言えば馴れ馴れしい。よくよく知らない相手だというのに、ちゃん付け……
胡乱な俺の視線に構わず、キリアンが何が嬉しいのかニコニコ上機嫌に笑う。
「一緒に帰ってきたって事は、マヒロちゃんの疑いは晴れた、と?」
「それも………まぁ、一応だ」
歯切れの悪いカイザーの言葉にも、特に意に介せず、キリアンが良かった良かったと頷く。
見た目通りの能天気だ。
まぁ、根掘り葉掘り聞かれるよりかはいいが、こんなんで近衛騎士…大丈夫なのかと、些か、心配になる。
「隊長。お戻りになったのですね!」
ちょいキツめ美人のジディも、姿を見つけて駆け寄ってきた。俺の事も見遣り、少し目を見開いてから表情が和らぐ。少しは心配してくれたらしい。美人のお姉さんからの心配は普通に嬉しい。
「マヒロは、一応、皇太子殿下の命がかかった。貴人という事になるからその旨承知しておけ」
「貴人……詳細は、お聞かせ願えるのでしょうか?」
「極秘だ。だが、皇太子殿下と同等の庇護を要する」
「うっわぁ~~、ほんとですか?マヒロちゃん、そんな凄い子なんだぁ?」
凄いか凄くないかで言えば、特に凄いとは言えない。何せ、勘違いの人違いなのだ。ただ、それをバラすと面倒くさい事になりそうだし、こんな訳分かんない世界に、一人放り出されても困る。
帰る方法が見つかるまでは、なんとかここに置いてもらわなければならない。
記憶はないふりをするつもりで、騙すのは気が引けるが、背に腹は変えられない。
ほとんど、詳細らしい詳細はなし。それで納得しろはかなり乱暴だと思ったが、キリアンもジディも承知した。
「俺は皇太子殿下より、マヒロの護衛を任じられた。よって、近衛の職から暫く遠ざかる。が、隊長としての職はこなさねばならない。キリアンとジディは、悪いが補佐してくれ」
「もちろんっス!!俺に任せて下さい!」
「当然ですわ!全力でお支えします!私に全てお任せ下さい」
二人して先を競うように言い、お互いがお互いを見遣って、フン!とそっぽを向く。
この二人、ほんと仲悪いな……
「キリアン。近衛の予定の洗い出しをする。いいか?」
「了解で~す!」
「隊長!!それでしたら、私の方がッッ!」
「ジディは、マヒロの話を聞いて答えてやってほしいんだが…駄目なら、キリアンと代わって……」
にへら♡と笑うキリアンに、ジディがキリッと表情を引き締める。
「お任せ下さい!マヒロ様は私が全身全力でお守り致します!!穢らわしい獣は一切近付けさせませんわ!」
「まて、コラ!!誰の事だ⁈」
「あなたの事なんて言ってないわよ?あなたの事なんて!」
「俺見て言うな!!あと、何で二回言った⁈」
「うるさいわね!!それ以上、近づかないでちょうだい!!」
「「……………………」」
俺とカイザーが二人して無言になり、言い争いが低俗化。白熱し、取っ組み合いに発展しかけ、業を煮やしたカイザーにカミナリを落とされるまでそれは続いた。
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