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第3章 翡翠の剣姫
1.嵐の予感③
しおりを挟む「か、んちがい?」
言われた言葉にぽけっとするマヒロに、俺も皇太子殿下も苦笑を禁じえない。
先程までいい勢いで応戦しまくっていたのが嘘のように、今は言葉をなくして立ち尽くしている。
いい意味でも悪い意味でも素直すぎる。
清廉につきるこの気質こそが、聖獣になんの制約もなしに好かれる所以だろう。
聖獣妃としてはまさに理想。が、故に危う過ぎる。
かけひきなど頭の隅にもないのだろうが、これでは悪い奴らに付け入られまくりだろう。
手に入った安心感と満足感は得られたが、それ以上の不安感も得てしまった。
「勘違いって?だって、カイザーと俺、、、」
「聖獣妃は確かに皇族のものになるのが慣例だよ。だから、カイザーなら構わないんだ」
「?????」
「殿下。それだけですと、マヒロには伝わらないかと」
皇太子の言葉に、思いっきりわけが分からないといった表情で首を傾げるマヒロに、軽く溜め息をつきながら俺が諌めた。
「私はね。長年、欲しかったものが二つあるんだ」
ニコニコ笑いながら語り出す皇太子に、俺は再度溜め息をつく。
さっさと話せば済む問題だが、この歳若い主君は、人をやきもきさせるのが好きで、こうして真相をはぐらかす癖がある。
マヒロは素直だ。
が、素直過ぎる故に、皇太子の嗜虐を煽ってしまったらしい。
意地悪く、のらりくらりとはぐらかし、モヤモヤするマヒロを揶揄って楽しむ腹づもりらしい。
あまりいい趣味とは言えないが、皇太子には悪気はなく、むしろ、好きな相手ほど弄りたがる。
どうでもいい相手なら、笑顔で、目はまったく笑っておらず、内心馬鹿にしきり、さっさと話してさっさと終える。およそ、興味のない相手ほど、リステアの態度は冷たい。空気が柔らかければ柔らかいほど素っ気ないのだ。
雰囲気から察するに、マヒロはどうやら相当、気に入られているらしい。
ただ、相手にとってはそんな意図は伝わらず、どこまでもハタ迷惑なだけでしかない。
「リステアの欲しいモンなんか興味ないから!どういう事なのかさっさと話せよ!」
「マヒロは堪え性がないなぁ。さっさと話してしまったら、面白く………………………………………まぁ、ゆっくり丁寧に話さなきゃね」
「今、面白くないって言ったよな⁈言ったな⁈絶ッッッ対、言った!!」
「あははは!!!!!」
「あはは、じゃないッ!俺、揶揄って楽しむつもりだろ⁉︎この、腹黒皇太子!!」
「こらこら!人聞きが悪い」
ぎゃんぎゃんやり取りしだした二人。
「二人とも、遊んでないでさっさと話せッッ!!」
このままでは一向に話が進まない。
先にキレた俺が怒鳴ると、マヒロが首を竦ませ、皇太子は益々愉快そうに笑う。
「怖いなぁ~、カイザーは」
「何で俺が怒られんだよ?悪いの、リステア……」
この二人には溜め息しか出ない。
片や主君。片や庇護対象で恋人。どちらの肩入れもしたいができない。
自分でも分かる顰めっ面でいたら、皇太子がやれやれと折れた。
「分かったよ。いっくらマヒロが可愛いからって、怒鳴るかなぁ?普通…私は一応主君だよ?」
「どちらの味方もしたつもりはありませんが?」
「おやおや……マヒロを優先して庇うような言葉が先に出てるのに?特別は作らないと言われてた近衛騎士隊長がねぇ……変わるものだ」
今までと、自分の中で先に来てるものの順位が変わっているのは自覚している。
弱みとなるものを作り、また知れれば不利になるのは分かっていたが、マヒロに関しては自分を律することが難く抑えきれなかった。
所詮、先に惚れた方の負けということか。今更隠し立てするつもりもないが……
マヒロを堂々と手にし、触れても有無を言わせない為、手を打ちに来たが、目の前のマヒロは、ことが成す前にやって来てしまった。
元々、何事にも縛られず『こう!』っと決めたらやる青年だ。
が、こちらの斜め上や、まったく真逆な方向へ動いたりするから、傍に居るものは気が気じゃない。
昨晩は思いがけず触れ合うことができた。
マヒロを傷つけ、いらん事を吹き込んだ馬鹿のおかげではあるが……
攫われたマヒロを救出に向かった時の事を思い出し、怒りとドス黒いものが湧き上がる。今思い出しただけでも気持ちは荒れるが、あれがあったからこそ、今回心が決まったのも事実で……
「カイザー?」
考え事に耽ける俺に、マヒロが呼びかけているのに気づき我に返る。
マヒロと俺の問題は事実上解決したが、まだ見えない闇は晴れない。
目の前の存在。作ってしまった俺の弱味で大切な存在。それに最初より更に深く濃く昏いものが纏わりつく感覚。
気がつけば、俺の手はマヒロの手首を掴んでいた。
「カ……」
「殿下。マヒロへの説明はこちらからします」
「そ?じゃ、よろしく~。私は私の望みが叶ったからもう文句はないしね」
物言いたげなマヒロを遮り皇太子に告げると、皇太子がニッコリ笑って話は終わった。
元々、利がなければ動かない人だ。人としてはクセだらけで難ありだが、根はあっさりサバサバしている為分かりやすくて助かる。
礼だけ済ませ、戸惑うマヒロを連れて部屋を出た。
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