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【2】
#7
しおりを挟む夏がきた。
夏の朝だ。蒸し暑い。
冬の朝は凍え死にしそうで布団から出ることが億劫になる。だが夏は夏で、布団から出られたとしても起き上がる気力がなかった。
真陽はベッドの上を二回半転がり、サイドテーブルに置いてある冷房のリモコンを取った。
これで少しは生き返る……。リモコンを翳して電源を押そうとしたとき、部屋の扉が勢いよく開いた。
「真陽、おはよう」
「理貴……?」
慌てて飛び起きる。ドアの前には制服姿の理貴が立っていた。寝惚けて幻覚でも見てるんじゃないか。真陽は目元を何回か擦るが、やはり彼は変わらない様子で部屋に入ってきた。
異常……異常事態だ。彼が自分よりも早起きして家に来るなんて。
冷房をつけてないのに寒気がする。どんなアラームよりも目覚まし効果のある恋人の出現。何を話せばいいのか分からず目が泳いでしまった。
ったく母さん……家に上げるより先に起こしてくれよ。
心の中で毒づき、寝癖を直した。
先日理貴と二人で学校を休んで(サボって)昔住んでいた町へ訪れた。ただの気晴らしだと思いきや、理貴から川で溺れさせてごめん、と謝られて。
お前のせいじゃないと軽く百回は言ったけど、陽が沈むまでその場で過ごした。
本当に昔のことだけど、俺が思ってるよりずっと理貴を苦しめていたらしい。それが俺も苦しかった。
間接的であれ、俺の存在が理貴を苦しめたんだ。夜の帰り道は言葉も交わさず。けど手を繋いで、昔に戻ったみたいに並んで歩いた。
もともと素敵な思い出や環境とは縁のない生活をしてるんだから、これでいい。特別な何かはいらないから、彼の隣にいさせてほしい。それだけで満たされてる────そう思える時間だった。
「ほら、早く起きて着替えて。おばさんが朝ごはん作って下で待ってるよ」
「……理貴、ずいぶん早起きだな。昨日帰るの遅かったのに」
「あぁ。何か目が冴えちゃって」
理貴は俺の棚から櫛をとると、そっと髪を梳かした。
「相変わらず寝癖すごいな、お前」
「ん~……」
寝起きのせいか、今は俺の方が反応が遅い。このままぼけっとしてたら理貴が何でもやってくれる気がして、わざと大人しくしてみた。すると予想が当たり、彼は制服やら鞄やら手際よく用意してくれた。
着替えだけして、理貴と一緒に一階へ下りる。
まだ変な気分だった。
「こんな時間に理貴が家にいんの、変なカンジ。泊まってたわけでもないのに……」
「はは、俺も何か新鮮。でも寝起きの真陽が見れたから、それだけでOKかな」
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