10 / 20
10話 ドレスファン国からの使者
しおりを挟む◇◇◇
――さらに数日が経過致しましたが、今日までは変わらない平和な日常を過ごしていました。ですが、ある来訪者によって邪魔されることになりました。
「カナリア、ドレスファン国の使者が君に面会を申し込んだよ」
「そうですか」
丁度終わった古代語の解読を写したノートを閉じ、席を立つ。
思っていたより私を見つけるのが遅かったですね。もう少し早く発見されると思っていたのですが、ドレスファン国の方々は本当に有能ですねぇ。ああ、勿論皮肉ですよ。そんなこと一切思っておりません。
「レックナード様。お父様やお母様、ウェイドにはこのことを伝えないで下さい。追い出した後に、私からお伝えします」
ヤロン様は私がドレスファン国にとって重要な存在だったのを知らなかったようですが、陛下は違います。陛下は全て承知で、私を王室に繋ぎ止めるためにヤロン様との婚約を王命で命じました。陛下が国に帰って来れば、必ず、私を連れ戻そうとすると思っていました。
家族に余計な心配をかけさせたくありません、やっと幸せに暮らしているのです。邪魔はさせません。
「了解、でも心配だから、俺は一緒に行くよ」
「言語能力者である私を失うのが困るからですか?」
「当然」
私の力目当てなのを隠そうともしない素直な方。でもそちらの方が、今は信用出来ます。
ドレスファン国の使者はクレイシス公爵邸の応接室に通されているとのことで、レックナード様と一緒にその場に向かったのですが、道行く使用人の皆様が心配そうにこちらを見られておられました。私達はよそ者だというのに礼儀もあり親切で良くして下さる公爵家の皆様にとても感謝しております。
「遅いぞ! カナリアはまだか!? ドレスファン国公爵位であるこの私を待たすとは何事だ!? ルンドリアン帝国とはいえ、たかが平民の使用人の分際で!」
………それに比べて、ドレスファン国の貴族は最低ですね。
完全貴族主義、自分達が偉いと下位貴族、平民を見下し馬鹿にされる。同じ国の出身だと思うと恥ずかしくて穴があれば奥底まで埋めてしまいたいくらいです。
「クレイシス公爵家の皆様に無礼な態度はお止め下さい」
「カナリア! 捜したぞ! 手間をかけさせよって、この馬鹿者が!」
公爵家の皆様の温かさが早速心に沁みますわ。相も変わらず、横柄な態度ですこと。
「お久しぶりでございます、ダイヤル公爵様。まさかダイアル公爵様がわざわざ来られるとは思いませんでした。ドレスファン国はお変わりございませんでしょうか?」
ダイヤル公爵様はキラリリア様のお父様であり、ドレスファン国で最大の権力をお持ちの貴族でございます。普段はこのような場に出ることなく偉そうに王宮でふんぞり返っておられるだけの印象だったのですが、たまにはお仕事なさるのですね。
「お前がいなくなった所為で滅茶苦茶に決まってるだろう! まさかルンドリアン帝国の公爵家で世話になっているなど、お前等はどれ程国の恥知らずなんだ!」
私の姿を見るなりアクセス全開ですねぇ。唾が飛んでこないか心配になるほどみっともなく口を開けて怒鳴るお姿は滑稽です。それに、国の恥知らずですか? ダイアル公爵様の方がよっぽど、国の恥を晒しておられるというのに。
「おかしいですねぇ、私ごときミンティア子爵家がいなくなったところで国が滅茶苦茶におなりなど、よっぽど他にまともな臣下がおられなのですねぇ。お恥ずかしいことです」
「なっ! 貴様っ!」
「ああ、失礼致しました。他国の内情に関係ない私が口を挟むことではありませんでしたね。謝罪致しますわ、申し訳ございませんでした」
本当のことを言われただけでそのようにムキになるなんて、まだまだですねぇ。
「何が関係ないだ! さっさと戻って来い!」
「私が国外追放されたことをご存知無いんですか?」
「それを無効にしてやると言ってるんだ! 寛大な陛下とヤロン様に感謝しろ!」
「いえ、結構です。ドレスファン国には二度と戻りません」
「お前に拒否権があるわけないだろう! 他に女を作って婚約破棄を告げられたくらいで拗ねて自分の役目を放置するなど、お前は馬鹿か!?」
……ああ、懐かしいですねぇ。ここ最近出会った方々が親切な方ばかりだったのですっかり忘れておりました。私を罵倒し、見下し、何でも従わせようとする下品な言葉達。
「いいか!? そもそもお前がヤロン様の婚約者であったことがおこがましいのだ! ヤロン様に相応しいのは、王太子妃に相応しいのは私の娘だ! お前はただ黙って、私達のために奴隷のように働き続けろ!」
私の意志は無視で、あんなくだらない方々のために身を粉にして働けと申されるのですね。なんて自分勝手なお言葉でしょう。ふざけられるのも大概にして欲しいですわ。馬鹿にして、私の力に頼っておきながら、偉そうに吠えないで下さいませ。
「《黙れ、私がいないと何も出来ない無能ども》」
「なんだ? 今何と言った?」
「あはは」
今使った言葉はルンドリアン帝国語の次に有名な言葉でございます。
ダイヤル公爵様は全くお分かりになっていないようですが、レックナード様は当然のようにお分かりになられたようで、私の言葉に面白そうに笑っておられますね。このようなつまらないことに付き合わせてしまっていますが、少しでも楽しませられたなら良かったですわ。と言いますか、ダイヤル公爵様はまだ、私の隣にいるのがクレイシス公爵令息だと分かっておられないようですね。
503
あなたにおすすめの小説
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!
つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。
他サイトにも公開中。
今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです
シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」
卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?
娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。
しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。
婚約破棄されている令嬢のお母様視点。
サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。
過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は
だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。
私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。
そのまま卒業と思いきや…?
「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑)
全10話+エピローグとなります。
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
有賀冬馬
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる