そちらが私を婚約破棄して国外追放したのですから、もう放っておいて下さいませ

光子

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10話 ドレスファン国からの使者

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 ◇◇◇

 ――さらに数日が経過致しましたが、今日までは変わらない平和な日常を過ごしていました。ですが、ある来訪者によって邪魔されることになりました。

「カナリア、ドレスファン国の使者が君に面会を申し込んだよ」
「そうですか」

 丁度終わった古代語の解読を写したノートを閉じ、席を立つ。
 思っていたより私を見つけるのが遅かったですね。もう少し早く発見されると思っていたのですが、ドレスファン国の方々は本当に有能ですねぇ。ああ、勿論皮肉ですよ。そんなこと一切思っておりません。

「レックナード様。お父様やお母様、ウェイドにはこのことを伝えないで下さい。追い出した後に、私からお伝えします」

 ヤロン様は私がドレスファン国にとって重要な存在だったのを知らなかったようですが、陛下は違います。陛下は全て承知で、私を王室に繋ぎ止めるためにヤロン様との婚約を王命で命じました。陛下が国に帰って来れば、必ず、私を連れ戻そうとすると思っていました。
 家族に余計な心配をかけさせたくありません、やっと幸せに暮らしているのです。邪魔はさせません。

「了解、でも心配だから、俺は一緒に行くよ」
「言語能力者である私を失うのが困るからですか?」
「当然」

 私の力目当てなのを隠そうともしない素直な方。でもそちらの方が、今は信用出来ます。

 ドレスファン国の使者はクレイシス公爵邸の応接室に通されているとのことで、レックナード様と一緒にその場に向かったのですが、道行く使用人の皆様が心配そうにこちらを見られておられました。私達はよそ者だというのに礼儀もあり親切で良くして下さる公爵家の皆様にとても感謝しております。

「遅いぞ! カナリアはまだか!? ドレスファン国公爵位であるこの私を待たすとは何事だ!? ルンドリアン帝国とはいえ、たかが平民の使用人の分際で!」

 ………それに比べて、ドレスファン国の貴族は最低ですね。
 完全貴族主義、自分達が偉いと下位貴族、平民を見下し馬鹿にされる。同じ国の出身だと思うと恥ずかしくて穴があれば奥底まで埋めてしまいたいくらいです。

「クレイシス公爵家の皆様に無礼な態度はお止め下さい」
「カナリア! 捜したぞ! 手間をかけさせよって、この馬鹿者が!」

 公爵家の皆様の温かさが早速心に沁みますわ。相も変わらず、横柄な態度ですこと。

「お久しぶりでございます、ダイヤル公爵様。まさかダイアル公爵様がわざわざ来られるとは思いませんでした。ドレスファン国はお変わりございませんでしょうか?」

 ダイヤル公爵様はキラリリア様のお父様であり、ドレスファン国で最大の権力をお持ちの貴族でございます。普段はこのような場に出ることなく偉そうに王宮でふんぞり返っておられるだけの印象だったのですが、たまにはお仕事なさるのですね。

「お前がいなくなった所為で滅茶苦茶に決まってるだろう! まさかルンドリアン帝国の公爵家で世話になっているなど、お前等はどれ程国の恥知らずなんだ!」

 私の姿を見るなりアクセス全開ですねぇ。唾が飛んでこないか心配になるほどみっともなく口を開けて怒鳴るお姿は滑稽です。それに、国の恥知らずですか? ダイアル公爵様の方がよっぽど、国の恥を晒しておられるというのに。

「おかしいですねぇ、私ごときミンティア子爵家がいなくなったところで国が滅茶苦茶におなりなど、よっぽど他にまともな臣下がおられなのですねぇ。お恥ずかしいことです」

「なっ! 貴様っ!」

「ああ、失礼致しました。他国の内情に関係ない私が口を挟むことではありませんでしたね。謝罪致しますわ、申し訳ございませんでした」

 本当のことを言われただけでそのようにムキになるなんて、まだまだですねぇ。

「何が関係ないだ! さっさと戻って来い!」
「私が国外追放されたことをご存知無いんですか?」
「それを無効にしてやると言ってるんだ! 寛大な陛下とヤロン様に感謝しろ!」
「いえ、結構です。ドレスファン国には二度と戻りません」
「お前に拒否権があるわけないだろう! 他に女を作って婚約破棄を告げられたくらいで拗ねて自分の役目を放置するなど、お前は馬鹿か!?」

 ……ああ、懐かしいですねぇ。ここ最近出会った方々が親切な方ばかりだったのですっかり忘れておりました。私を罵倒し、見下し、何でも従わせようとする下品な言葉達。

「いいか!? そもそもお前がヤロン様の婚約者であったことがおこがましいのだ! ヤロン様に相応しいのは、王太子妃に相応しいのは私の娘だ! お前はただ黙って、私達のために奴隷のように働き続けろ!」

 私の意志は無視で、あんなくだらない方々のために身を粉にして働けと申されるのですね。なんて自分勝手なお言葉でしょう。ふざけられるのも大概にして欲しいですわ。馬鹿にして、私の力に頼っておきながら、偉そうに吠えないで下さいませ。

「《黙れ、私がいないと何も出来ない無能ども》」

「なんだ? 今何と言った?」
「あはは」

 今使った言葉はルンドリアン帝国語の次に有名な言葉でございます。
 ダイヤル公爵様は全くお分かりになっていないようですが、レックナード様は当然のようにお分かりになられたようで、私の言葉に面白そうに笑っておられますね。このようなつまらないことに付き合わせてしまっていますが、少しでも楽しませられたなら良かったですわ。と言いますか、ダイヤル公爵様はまだ、私の隣にいるのがクレイシス公爵令息だと分かっておられないようですね。

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