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7話
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リリーが去った後も、彼女が連れて行かれた方向を見つめたまま、私はしばらく固まっていた。
「レミリア嬢。」
「は、はい。」
いつの間にか陛下が傍に戻って来ていて、慌てて姿勢を正す。
すると何故か私の横に、エリアスも立ち並んだ。
しかも、腕が腰に回されている。
今までこういう接触はパーティーでしか無かったはずなんだけど…
こんな場だと言うのに、エリアスの体温を感じてしまって心臓が騒がしい。
「エリアス…そんな風にせずとも、話が終わったらちゃんと2人にしてやる。」
「…したいからしているだけです。」
「はぁ…仕方の無いやつだ。」
本気で呆れたような溜め息を吐いた後、陛下は私に向き直った。
「レミリア嬢、君には怖い思いをさせてしまって申し訳なかった。そして演技とは言え、自分の婚約者が他の女性に心変わりをしたと思うのは辛かっただろう…本当にすまなかった。」
演技という言葉が気にはなったものの、陛下に頭を下げられている状況がいたたまれず慌てて声を上げた。
「陛下、頭をお上げください!」
私の言葉に頭を上げてくれた陛下は、この1ヶ月の事を話してくれた。
簡単に言うと、リリーが私に危害を加えないように、エリアスは態とリリーに心変わりした様に見せていたらしい。
「イアン・ハスラーに近付いていると聞いて、早急に調べさせたのだ。報告を聞いてわしも驚いたよ。まさかワグナードの血縁者だとは思ってもいなかったからな。」
リリーの母親が、お酒に酔った時に"自分は本当は公爵家の娘だった。私の家族はユーグナー家に嵌められて王家に無実の罪で処刑された"と言っていた事があるらしく、その話を聞いた陛下達は、リリーの目的が復讐だと察しがついたらしい。
「レミリア嬢からエリアスを奪い王家に嫁ぐ事が出来れば、王家に対しても復讐がしやすくなる。内部の人間の方が隙を突きやすいからな。それにエリアスを奪う事が出来れば、レミリア嬢--何よりも君を苦しませる事が出来ると思ったんだろう。」
「どうして…」
私をそこまで目の敵に…?
ユーグナー家の娘だから?
「恐らく嫉妬だ。レミリア嬢はリリーと同年齢の公爵令嬢。そして第1王子エリアスの婚約者--ワグナード家があんな事になっていなければ、あれも同じ立場に立てた可能性がある。自分にも手に出来たかもしれない物を全て持っている相手が、 母親に聞かされた憎むべき一族の娘だった。だから、復讐の為に黒い噂のあるハスラー家と手を組もうとしたんだろう。」
そっか、だからあの時"元々私だってその権利はあったんだから…"って…
「逆にその嫉妬心があったからこそ、レミリア嬢を助ける事が出来た。」
「え?」
「自分がエリアスと幸せそうにする姿を見て、レミリア嬢が悲しみ苦しむ姿を、もっとどん底に落ちる所を見たいと、そう思うはずだ…と、君の友人の令嬢達が言っていたそうだ。女とは怖いものよな。」
ん?
それって、リズとレイラが言ったってこと?
という事は、あの2人はこの事を知ってたんだ。
…まあでも、2人の言ったこと分かる気がする。
ざまぁみろって思われてたんだろうな、きっと。
実際勝ち誇ったように見られてたしね。
「だから、エリアスはリリーに近付き心変わりしたように演技をしていたんだ。レミリア嬢を守る為にな。」
「そう、だったのですね…でも、それなら私にも教えてくだされば…」
「俺が言うなと言ったんだ。」
エリアスが?
どうして…?
「レミリアは、昔から嘘が下手だろう。」
「それは…」
何故か昔から私の嘘はすぐにバレちゃうんだよね…
「あの女に勘づかれたら、レミリアが危険に晒されるからな。」
確かに事前に知っていたら、あんな風に皆から離れたり、悲しんだりはしなかったかもしれないし、バレていた可能性は高いのかも。
直前まで仲良さそうにしていただけに、悲しまないなんて変に思われそう…
「…私を守って下さり、ありがとうございます。」
守る為だと言われてしまえば、あの日々は忘れるべきなんだろうな。…本当に辛かったけど。
「じゃあ、リリーが今日私を呼び出したのは…」
「昨日俺があの女に、今後2度と俺とレミリアに近づくなと言ったからだ。」
「漸くハスラー家を断罪出来るだけの証拠が集まったから、頃合だと思ってな。それにそろそろエリアスも限界なようだったからなぁ。」
「父上、余計な事は言わなくていいです。」
揶揄うような視線の陛下をエリアスが睨み返している。
限界って…リリーといるのそんなに嫌だったのかな?
確かに最初から邪険にしてたけど、一応この世界のヒロインだったはずなんだけど…
「あの2人には見張りを付けていたから、手紙の内容もワシらには筒抜けだったんだ。あまりにも思った通りに動いてくれるものだから、こちらの策がバレているのかと不安になったぐらいだ。」
そして今朝、裏庭の周りを見張らせていたら、ハスラー家が雇っている賊が現れ無事に捕獲。
陛下やエリアス達は、近くに隠れてタイミングを見計らっていたそうだ。
「今頃は全員仲良く地下牢の中だ。君が狙われることももう無い。」
陛下の言葉に、私の体から力が抜けた。
「ところでレミリア嬢よ。先程の言葉に嘘は無いだろうか?」
「…どの言葉のことでしょうか…?」
「エリアスの事をずっと昔から好きだったと言っていただろう?」
「あ、あれは…!」
そうだ。
陛下達は近くに居たんだから全部聞かれてるんだった…!
当然エリアスにも聞かれているわけで…
ああ…これからどんな顔をすれば…
「おや、間違いだったか?」
「いえ…!その…間違ってはないです…」
「それを聞いて安心した。間違いだと言われたら、エリアスがショック死する所だったからな。」
…ショック死?
「レミリア嬢の叫ぶような愛の告白を聞いた時のエリアスの顔といったら…レミリア嬢にも見せてやりたかった。」
「あ、愛の告白…」
ああもう…穴があったら入りたいぐらい恥ずかしい。
まさか聞かれているなんて思わないじゃない?
だから思わず本音がポロッと…
「父上、レミリアを揶揄うのはその辺にして下さい。俺との時間が無くなる。」
「そんな事で嫉妬していたら、これから先大変だぞ?何せレミリア嬢は綺麗だからな。今日も一段と美しいもんだ。まるで若い頃の王妃を…」
「父上。そんな事言っていないで、さっさと母上の所に行かれたらどうですか?母上が、今日の事を自分に何も教えてくれなかったと今朝ご立腹でしたよ。」
「何?!それは大変だ。さっさと戻らなくては。--レミリア嬢、エリアスの事を末永く頼んだぞ。後は2人でゆっくりしてくれ。エリアス、約束は覚えているな?」
「もちろんです。」
「それなら良い。いいか?くれぐれもユーグナー公爵を裏切るような事はするなよ。」
陛下はそれだけ言い置くと、残っていた近衛騎士達と共に去っていった。
「レミリア嬢。」
「は、はい。」
いつの間にか陛下が傍に戻って来ていて、慌てて姿勢を正す。
すると何故か私の横に、エリアスも立ち並んだ。
しかも、腕が腰に回されている。
今までこういう接触はパーティーでしか無かったはずなんだけど…
こんな場だと言うのに、エリアスの体温を感じてしまって心臓が騒がしい。
「エリアス…そんな風にせずとも、話が終わったらちゃんと2人にしてやる。」
「…したいからしているだけです。」
「はぁ…仕方の無いやつだ。」
本気で呆れたような溜め息を吐いた後、陛下は私に向き直った。
「レミリア嬢、君には怖い思いをさせてしまって申し訳なかった。そして演技とは言え、自分の婚約者が他の女性に心変わりをしたと思うのは辛かっただろう…本当にすまなかった。」
演技という言葉が気にはなったものの、陛下に頭を下げられている状況がいたたまれず慌てて声を上げた。
「陛下、頭をお上げください!」
私の言葉に頭を上げてくれた陛下は、この1ヶ月の事を話してくれた。
簡単に言うと、リリーが私に危害を加えないように、エリアスは態とリリーに心変わりした様に見せていたらしい。
「イアン・ハスラーに近付いていると聞いて、早急に調べさせたのだ。報告を聞いてわしも驚いたよ。まさかワグナードの血縁者だとは思ってもいなかったからな。」
リリーの母親が、お酒に酔った時に"自分は本当は公爵家の娘だった。私の家族はユーグナー家に嵌められて王家に無実の罪で処刑された"と言っていた事があるらしく、その話を聞いた陛下達は、リリーの目的が復讐だと察しがついたらしい。
「レミリア嬢からエリアスを奪い王家に嫁ぐ事が出来れば、王家に対しても復讐がしやすくなる。内部の人間の方が隙を突きやすいからな。それにエリアスを奪う事が出来れば、レミリア嬢--何よりも君を苦しませる事が出来ると思ったんだろう。」
「どうして…」
私をそこまで目の敵に…?
ユーグナー家の娘だから?
「恐らく嫉妬だ。レミリア嬢はリリーと同年齢の公爵令嬢。そして第1王子エリアスの婚約者--ワグナード家があんな事になっていなければ、あれも同じ立場に立てた可能性がある。自分にも手に出来たかもしれない物を全て持っている相手が、 母親に聞かされた憎むべき一族の娘だった。だから、復讐の為に黒い噂のあるハスラー家と手を組もうとしたんだろう。」
そっか、だからあの時"元々私だってその権利はあったんだから…"って…
「逆にその嫉妬心があったからこそ、レミリア嬢を助ける事が出来た。」
「え?」
「自分がエリアスと幸せそうにする姿を見て、レミリア嬢が悲しみ苦しむ姿を、もっとどん底に落ちる所を見たいと、そう思うはずだ…と、君の友人の令嬢達が言っていたそうだ。女とは怖いものよな。」
ん?
それって、リズとレイラが言ったってこと?
という事は、あの2人はこの事を知ってたんだ。
…まあでも、2人の言ったこと分かる気がする。
ざまぁみろって思われてたんだろうな、きっと。
実際勝ち誇ったように見られてたしね。
「だから、エリアスはリリーに近付き心変わりしたように演技をしていたんだ。レミリア嬢を守る為にな。」
「そう、だったのですね…でも、それなら私にも教えてくだされば…」
「俺が言うなと言ったんだ。」
エリアスが?
どうして…?
「レミリアは、昔から嘘が下手だろう。」
「それは…」
何故か昔から私の嘘はすぐにバレちゃうんだよね…
「あの女に勘づかれたら、レミリアが危険に晒されるからな。」
確かに事前に知っていたら、あんな風に皆から離れたり、悲しんだりはしなかったかもしれないし、バレていた可能性は高いのかも。
直前まで仲良さそうにしていただけに、悲しまないなんて変に思われそう…
「…私を守って下さり、ありがとうございます。」
守る為だと言われてしまえば、あの日々は忘れるべきなんだろうな。…本当に辛かったけど。
「じゃあ、リリーが今日私を呼び出したのは…」
「昨日俺があの女に、今後2度と俺とレミリアに近づくなと言ったからだ。」
「漸くハスラー家を断罪出来るだけの証拠が集まったから、頃合だと思ってな。それにそろそろエリアスも限界なようだったからなぁ。」
「父上、余計な事は言わなくていいです。」
揶揄うような視線の陛下をエリアスが睨み返している。
限界って…リリーといるのそんなに嫌だったのかな?
確かに最初から邪険にしてたけど、一応この世界のヒロインだったはずなんだけど…
「あの2人には見張りを付けていたから、手紙の内容もワシらには筒抜けだったんだ。あまりにも思った通りに動いてくれるものだから、こちらの策がバレているのかと不安になったぐらいだ。」
そして今朝、裏庭の周りを見張らせていたら、ハスラー家が雇っている賊が現れ無事に捕獲。
陛下やエリアス達は、近くに隠れてタイミングを見計らっていたそうだ。
「今頃は全員仲良く地下牢の中だ。君が狙われることももう無い。」
陛下の言葉に、私の体から力が抜けた。
「ところでレミリア嬢よ。先程の言葉に嘘は無いだろうか?」
「…どの言葉のことでしょうか…?」
「エリアスの事をずっと昔から好きだったと言っていただろう?」
「あ、あれは…!」
そうだ。
陛下達は近くに居たんだから全部聞かれてるんだった…!
当然エリアスにも聞かれているわけで…
ああ…これからどんな顔をすれば…
「おや、間違いだったか?」
「いえ…!その…間違ってはないです…」
「それを聞いて安心した。間違いだと言われたら、エリアスがショック死する所だったからな。」
…ショック死?
「レミリア嬢の叫ぶような愛の告白を聞いた時のエリアスの顔といったら…レミリア嬢にも見せてやりたかった。」
「あ、愛の告白…」
ああもう…穴があったら入りたいぐらい恥ずかしい。
まさか聞かれているなんて思わないじゃない?
だから思わず本音がポロッと…
「父上、レミリアを揶揄うのはその辺にして下さい。俺との時間が無くなる。」
「そんな事で嫉妬していたら、これから先大変だぞ?何せレミリア嬢は綺麗だからな。今日も一段と美しいもんだ。まるで若い頃の王妃を…」
「父上。そんな事言っていないで、さっさと母上の所に行かれたらどうですか?母上が、今日の事を自分に何も教えてくれなかったと今朝ご立腹でしたよ。」
「何?!それは大変だ。さっさと戻らなくては。--レミリア嬢、エリアスの事を末永く頼んだぞ。後は2人でゆっくりしてくれ。エリアス、約束は覚えているな?」
「もちろんです。」
「それなら良い。いいか?くれぐれもユーグナー公爵を裏切るような事はするなよ。」
陛下はそれだけ言い置くと、残っていた近衛騎士達と共に去っていった。
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