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8.花の名は…2日目①
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「リリア嬢……なんか、本増えてない?」
「あっ! アラン様、申し訳ございません。おはようございます」
テーブルの上に積み上げられた本の間から勢いよく顔を出したリリアージュは、慌てて頭を下げた。
「おはよう。とりあえず……説明してもらってもいいかな」
珍しく言葉を選びながら、アランは本の山から一冊手に取ると、おもむろに表紙をめくった。
「これ……どうしたの?」
「実は、あの後『ハリボテ』の意味を、改めて調べてみたんです」
「意味?」
「はい。ハリボテとは、外側だけで中身が伴わないこと。ならば、できることを少しでも……」
「なるほどね……」
何気なく本を読み進めていたアランの手がふいに止まった。
「これって……」
アランは持っていた本をテーブルに投げ、積まれていた本の背表紙に視線を移した。
「これは、妃教育で使っていたものです。まずは、これまでの見直しからと思いまして……」
誇らしげに唇を引き締め、リリアージュは近くにあった本に手を伸ばした。
「ちょっと待って、リリア嬢」
「あっ……はい」
「これを使っていたって……本当?」
「はい、さすがに全部ではありませんが……」
「まぁ、そうだよね。ごめん、私の早とちり……」
「ええ、さすがに全部はテーブルに乗りませんわ」
リリアージュの軽やかな笑い声に、アランの指先から力が抜けていく。
「まさか……まだ、あるの?」
「はい。これの倍、くらいでしょうか。本当は全部持ってくるべきなのかもしれませんが、図書室との往復も大変で……」
「ねぇ。少し、聞いてもいいかな」
「もちろんです」
「そんな無謀なこと……誰に、指示されたの?」
突然沈んだアランの声色に、リリアージュは少し目を見開き彼を見つめた。
「あの……指示ではございませんが、講師の方々からのご期待は……」
「期待?」
「はい、あらゆる面でガブリエル様をお支えしてほしいと……」
「……っ」
アランは何度も指で本の山を叩くと、リリアージュに聞こえないよう俯き舌打ちをした。
「……ったく、あんなことを言って、このザマか」
「アラン……様?」
「あぁ、ごめん。少し王室側と行き違いがあったみたいだね」
「行き違い、ですか」
涼やかな笑みを浮かべ静かに息を吐いたアランは、透き通るような銀髪を揺らしリリアージュを見上げた。
「いい? こんな専門書、読む必要なんてないよ」
「でも……」
「リリア嬢、聞いて」
アランの視線に促され、リリアージュは素直にソファーに腰を下ろした。
「正直に言うよ、君はもう十分すぎるほどの教養を身につけている。それは、君自身もわかっているだろう?」
「それは……」
「なら、疑うのは自分の中身じゃない。相手の言葉の方だ」
目を丸くするリリアージュに構わず、アランは問いかける。
「今の君に必要なものは、なんだと思う」
「……自分を知ること、ですか?」
「半分正解、かな」
「半分……」
「自分を知ること、それも大事。でも、もっと大切なことがある」
「それは……」
「それはね、自分を認めてあげることだよ」
「認めて、あげる……」
リリアージュはまるで呪文のように静かに呟いた。
「だって、こんな難しい本、私だって読めないからね」
一番上にあった黒く分厚い表紙をめくり、アランは小さく咳払いを一つ。
「なになに……『我が国黎明期における飛躍的経済発展と国民意識の乖離がもたらした社会構造の変化』……もう、さっぱりだ」
大げさに手を広げ、アランは高らかに笑った。
「リリア嬢、どうだろう。今日は妃教育を忘れて、貴女が本当に知りたいことを学んでみては?」
「私が、知りたいこと……ですか」
「あっ! アラン様、申し訳ございません。おはようございます」
テーブルの上に積み上げられた本の間から勢いよく顔を出したリリアージュは、慌てて頭を下げた。
「おはよう。とりあえず……説明してもらってもいいかな」
珍しく言葉を選びながら、アランは本の山から一冊手に取ると、おもむろに表紙をめくった。
「これ……どうしたの?」
「実は、あの後『ハリボテ』の意味を、改めて調べてみたんです」
「意味?」
「はい。ハリボテとは、外側だけで中身が伴わないこと。ならば、できることを少しでも……」
「なるほどね……」
何気なく本を読み進めていたアランの手がふいに止まった。
「これって……」
アランは持っていた本をテーブルに投げ、積まれていた本の背表紙に視線を移した。
「これは、妃教育で使っていたものです。まずは、これまでの見直しからと思いまして……」
誇らしげに唇を引き締め、リリアージュは近くにあった本に手を伸ばした。
「ちょっと待って、リリア嬢」
「あっ……はい」
「これを使っていたって……本当?」
「はい、さすがに全部ではありませんが……」
「まぁ、そうだよね。ごめん、私の早とちり……」
「ええ、さすがに全部はテーブルに乗りませんわ」
リリアージュの軽やかな笑い声に、アランの指先から力が抜けていく。
「まさか……まだ、あるの?」
「はい。これの倍、くらいでしょうか。本当は全部持ってくるべきなのかもしれませんが、図書室との往復も大変で……」
「ねぇ。少し、聞いてもいいかな」
「もちろんです」
「そんな無謀なこと……誰に、指示されたの?」
突然沈んだアランの声色に、リリアージュは少し目を見開き彼を見つめた。
「あの……指示ではございませんが、講師の方々からのご期待は……」
「期待?」
「はい、あらゆる面でガブリエル様をお支えしてほしいと……」
「……っ」
アランは何度も指で本の山を叩くと、リリアージュに聞こえないよう俯き舌打ちをした。
「……ったく、あんなことを言って、このザマか」
「アラン……様?」
「あぁ、ごめん。少し王室側と行き違いがあったみたいだね」
「行き違い、ですか」
涼やかな笑みを浮かべ静かに息を吐いたアランは、透き通るような銀髪を揺らしリリアージュを見上げた。
「いい? こんな専門書、読む必要なんてないよ」
「でも……」
「リリア嬢、聞いて」
アランの視線に促され、リリアージュは素直にソファーに腰を下ろした。
「正直に言うよ、君はもう十分すぎるほどの教養を身につけている。それは、君自身もわかっているだろう?」
「それは……」
「なら、疑うのは自分の中身じゃない。相手の言葉の方だ」
目を丸くするリリアージュに構わず、アランは問いかける。
「今の君に必要なものは、なんだと思う」
「……自分を知ること、ですか?」
「半分正解、かな」
「半分……」
「自分を知ること、それも大事。でも、もっと大切なことがある」
「それは……」
「それはね、自分を認めてあげることだよ」
「認めて、あげる……」
リリアージュはまるで呪文のように静かに呟いた。
「だって、こんな難しい本、私だって読めないからね」
一番上にあった黒く分厚い表紙をめくり、アランは小さく咳払いを一つ。
「なになに……『我が国黎明期における飛躍的経済発展と国民意識の乖離がもたらした社会構造の変化』……もう、さっぱりだ」
大げさに手を広げ、アランは高らかに笑った。
「リリア嬢、どうだろう。今日は妃教育を忘れて、貴女が本当に知りたいことを学んでみては?」
「私が、知りたいこと……ですか」
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