19 / 29
19.晩餐会前夜
しおりを挟む
「……入れ」
その男は、控えめなノック音に視線を送ることなく、ランプの火に揺らめく文字を目で追っていた。
「陛下、お呼びでしょうか……いかがなさいましたか」
「……どうにも眠れんのだよ。ダミアン、悪いが酒を一杯、持ってきてくれぬか」
「承知しました……また、お読みになられたんですか」
ダミアンは主君の手にある便箋のシワを一瞥し、静かに息を吐いた。
「ダミアンよ……どう思う?」
「どう……とは、ご子息お二人のことですか。それとも」
「どっちもだ。一体、何がどうして……」
「そうですね。率直に言わせていただけるのなら……まずは陛下は、女性を見る目から養われるべきかと」
「……どういう意味だ?」
「必ずしも、家柄と人柄は比例しないということです。そして、家柄だけでは人は育たない」
「お前は、相変わらず厳しいな」
「ですが……そのどちらもが、揃った完璧な方もいらっしゃる」
「それが、リリアージュ・ハインツベルか?」
分かりやすく顔を歪めた陛下を前に、ダミアンが答えることはなかった。
「とりあえず……公爵家のご機嫌を損ねてしまったことだけは、事実ですね」
「言うてくれるな。それが何よりも恐ろしいんだ」
たまらず大きな溜息を漏らし、ソファーに深く体を預けた。
「宰相殿だけでも厄介なのに、今回は、あのルーベンス様も相当ご立腹と……」
「やめろ……考えたくもない」
「まぁ、ルーベンス様に関しては、アラン様がしっかり手綱を握っていらっしゃいますし……」
「それもそうか。なら……」
「ですが、今回はリリアージュ様が関わっていらっしゃいますからね。どなたも冷静ではないでしょうね」
「おい、待て。それは……」
「娘思いのお父上、妹を溺愛する兄上。その他にも……」
持っていた便箋をテーブルに投げ出し、ついに王は天を仰いだ。
「それに、よもやリリアージュ様ご本人までが、加勢されるとは……やはりハインツベル公爵家は、敵にまわすものではございませんね」
小さく笑い声を漏らしたダミアンを睨みつけ、王はただまっすぐ宙を見つめた。
「なぁ……どちらが相応しいと思う」
「さぁ、私にはなんとも……ですが」
ダミアンは細長い指で眼鏡をそっと押し上げる。
「一つだけ、確実なことがございます」
「……何だ?」
「お二人のうち、どちらが陛下の後を継がれるにしても……その妻はリリアージュ様以外にいらっしゃらない、ということです」
「……そうだな」
観念したように息を殺し、王は深く溜息を吐いた。
「ダミアン……早く持ってこい、一番強いやつを頼む」
「御意……」
頭を抱える主君の姿をドアの隙間に捉えながらその場を後にしたダミアンは、薄暗い廊下を足音も立てずゆっくりと進む。
「陛下、ハインツベルを味方につけた時点で、どちらが有利かなんて……考えるまでもありませんよ」
その男は、控えめなノック音に視線を送ることなく、ランプの火に揺らめく文字を目で追っていた。
「陛下、お呼びでしょうか……いかがなさいましたか」
「……どうにも眠れんのだよ。ダミアン、悪いが酒を一杯、持ってきてくれぬか」
「承知しました……また、お読みになられたんですか」
ダミアンは主君の手にある便箋のシワを一瞥し、静かに息を吐いた。
「ダミアンよ……どう思う?」
「どう……とは、ご子息お二人のことですか。それとも」
「どっちもだ。一体、何がどうして……」
「そうですね。率直に言わせていただけるのなら……まずは陛下は、女性を見る目から養われるべきかと」
「……どういう意味だ?」
「必ずしも、家柄と人柄は比例しないということです。そして、家柄だけでは人は育たない」
「お前は、相変わらず厳しいな」
「ですが……そのどちらもが、揃った完璧な方もいらっしゃる」
「それが、リリアージュ・ハインツベルか?」
分かりやすく顔を歪めた陛下を前に、ダミアンが答えることはなかった。
「とりあえず……公爵家のご機嫌を損ねてしまったことだけは、事実ですね」
「言うてくれるな。それが何よりも恐ろしいんだ」
たまらず大きな溜息を漏らし、ソファーに深く体を預けた。
「宰相殿だけでも厄介なのに、今回は、あのルーベンス様も相当ご立腹と……」
「やめろ……考えたくもない」
「まぁ、ルーベンス様に関しては、アラン様がしっかり手綱を握っていらっしゃいますし……」
「それもそうか。なら……」
「ですが、今回はリリアージュ様が関わっていらっしゃいますからね。どなたも冷静ではないでしょうね」
「おい、待て。それは……」
「娘思いのお父上、妹を溺愛する兄上。その他にも……」
持っていた便箋をテーブルに投げ出し、ついに王は天を仰いだ。
「それに、よもやリリアージュ様ご本人までが、加勢されるとは……やはりハインツベル公爵家は、敵にまわすものではございませんね」
小さく笑い声を漏らしたダミアンを睨みつけ、王はただまっすぐ宙を見つめた。
「なぁ……どちらが相応しいと思う」
「さぁ、私にはなんとも……ですが」
ダミアンは細長い指で眼鏡をそっと押し上げる。
「一つだけ、確実なことがございます」
「……何だ?」
「お二人のうち、どちらが陛下の後を継がれるにしても……その妻はリリアージュ様以外にいらっしゃらない、ということです」
「……そうだな」
観念したように息を殺し、王は深く溜息を吐いた。
「ダミアン……早く持ってこい、一番強いやつを頼む」
「御意……」
頭を抱える主君の姿をドアの隙間に捉えながらその場を後にしたダミアンは、薄暗い廊下を足音も立てずゆっくりと進む。
「陛下、ハインツベルを味方につけた時点で、どちらが有利かなんて……考えるまでもありませんよ」
15
あなたにおすすめの小説
双子の片割れと母に酷いことを言われて傷つきましたが、理解してくれる人と婚約できたはずが、利用価値があったから優しくしてくれたようです
珠宮さくら
恋愛
ベルティーユ・バランドは、よく転ぶことで双子の片割れや母にドジな子供だと思われていた。
でも、それが病気のせいだとわかってから、両親が離婚して片割れとの縁も切れたことで、理解してくれる人と婚約して幸せになるはずだったのだが、そうはならなかった。
理解していると思っていたのにそうではなかったのだ。双子の片割れや母より、わかってくれていると思っていたのも、勘違いしていただけのようだ。
婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?
鶯埜 餡
恋愛
バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。
今ですか?
めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?
【完結】「お前に聖女の資格はない!」→じゃあ隣国で王妃になりますね
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【全7話完結保証!】
聖王国の誇り高き聖女リリエルは、突如として婚約者であるルヴェール王国のルシアン王子から「偽聖女」の烙印を押され追放されてしまう。傷つきながらも母国へ帰ろうとするが、運命のいたずらで隣国エストレア新王国の策士と名高いエリオット王子と出会う。
「僕が君を守る代わりに、その力で僕を助けてほしい」
甘く微笑む彼に導かれ、戸惑いながらも新しい人生を歩み始めたリリエル。けれど、彼女を追い詰めた隣国の陰謀が再び迫り――!?
追放された聖女と策略家の王子が織りなす、甘く切ない逆転ロマンス・ファンタジー。
【完結】いつも私をバカにしてくる彼女が恋をしたようです。〜お相手は私の旦那様のようですが間違いはございませんでしょうか?〜
珊瑚
恋愛
「ねぇセシル。私、好きな人が出来たの。」
「……え?」
幼い頃から何かにつけてセシリアを馬鹿にしていたモニカ。そんな彼女が一目惚れをしたようだ。
うっとりと相手について語るモニカ。
でもちょっと待って、それって私の旦那様じゃない……?
ざまぁというか、微ざまぁくらいかもしれないです
義母と義妹に虐げられていましたが、陰からじっくり復讐させていただきます〜おしとやか令嬢の裏の顔〜
阿里
ファンタジー
貴族の令嬢リディアは、父の再婚によりやってきた継母と義妹から、日々いじめと侮蔑を受けていた。
「あら、またそのみすぼらしいドレス? まるで使用人ね」
本当の母は早くに亡くなり、父も病死。残されたのは、冷たい屋敷と陰湿な支配。
けれど、リディアは泣き寝入りする女じゃなかった――。
おしとやかで無力な令嬢を演じながら、彼女はじわじわと仕返しを始める。
貴族社会の裏の裏。人の噂。人間関係。
「ふふ、気づいた時には遅いのよ」
優しげな仮面の下に、冷たい微笑みを宿すリディアの復讐劇が今、始まる。
ざまぁ×恋愛×ファンタジーの三拍子で贈る、スカッと復讐劇!
勧善懲悪が好きな方、読後感すっきりしたい方にオススメです!
格上の言うことには、従わなければならないのですか? でしたら、わたしの言うことに従っていただきましょう
柚木ゆず
恋愛
「アルマ・レンザ―、光栄に思え。次期侯爵様は、お前をいたく気に入っているんだ。大人しく僕のものになれ。いいな?」
最初は柔らかな物腰で交際を提案されていた、リエズン侯爵家の嫡男・バチスタ様。ですがご自身の思い通りにならないと分かるや、その態度は一変しました。
……そうなのですね。格下は格上の命令に従わないといけない、そんなルールがあると仰るのですね。
分かりました。
ではそのルールに則り、わたしの命令に従っていただきましょう。
【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
蔑まされた没落貴族家の悪役令嬢ですが、この舞台の主役は私がやらせていただきます!
あぷりこっと
恋愛
「君の嫉妬深さにはもう辟易しているんだ」
婚約者のハイベルクにそう告げられた瞬間、レーウは確信した。
――計画通り。
何も知らない侯爵令嬢ランダ。王国最強と謳われた騎士団長ハイベルク。彼がその双剣を振るう相手を間違えた時、破滅のカウントダウンは始まった。
世間がレーウを嫉妬に狂った没落家の伯爵令嬢と蔑んでいる間、彼女は自警団と共に貴族院の秘密を暴き敵の逃げ場を奪い続けていた。
格安警備会社へのすり替え、配電盤の掌握、そして夜視の魔導具。
感情を切り捨て毒となった令嬢が公爵邸舞踏会を、社会的抹殺の舞台へと変える。
「不運と踊る?……いいえ。私に踊らされていたのだと、地獄で気づきなさい!!」
※ヒロインの活躍が凛々しいので応援してください♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる