上 下
49 / 71
最終章

【レジナルド】消えた彼女とネックレス

しおりを挟む


「お前は何をしていた!!」

自分のものとは思えない声がひびき、レジナルドは己がいつもにないほど激情していることに気がついていた。これじゃダメだ。これでは、大切な情報を見落としかねない。今にも斬りかかりそうなほどの衝動を苦心して収めながら、レジナルドは椅子に座り込んだ。その前に立っているのは、自身の側近である騎士エレンと、影のカイである。エレンはこれ以上ないほどに表情を強ばらせている。軟派男のこんな顔を見たのは初めてだなとどこ
冷静に思いながらもレジナルドは口の端を釣り上げた。

「いや………怒鳴ってすまなかった。もとより、予想できなかった僕の落ち度だ」

「お前のせいじゃない。すまなかった…………俺が、俺が手抜かりだった」

「言っても仕方ない。リリネリアが誘拐されたのは事実だ。今、必要なのはその責任の在処を問いただすことではない。リリネリアの所在を探すことが第一だ」

エレンの言葉にあっさりレジナルドはそう言うと、僅かにそのこめかみに手をやった。もとよりこの一ヶ月まともに寝ていないのだ。さすがに堪えている。だけど今、何よりも今。この意識を飛ばすことは何よりも許せなかった。レジナルドは僅かに目を閉じると、エレンからの報告を待った。

「そうか。薬師が………」

「恐らく、奴らの仕業だろうという予測が立てられている」

「そうだろうな。媚薬の注文を断られた腹いせか………」

そう言いながらレジナルドは執務椅子の背もたれにもたれた。元々、レジナルドがユレイスピアに来たのは理由があった。もちろんそれはただの視察というわけではなくーーー。ユレイスピアは、表沙汰にはされていないが、裏娼館というものが存在していた。そして、その手引きをするものがいるらしい。だがなかなか尻尾を出さないのだと領主のハーバレー伯爵が報告をしていた。

レジナルドが訪れた理由は、その裏娼館の摘発をするためた。そして、やがて起きた薬師への恫喝ーーー。恐らくそれらは関わりがあるだろうと男どもを捕まえたはいいが、奴らは、あっさりと口に仕込んだ毒で死んでしまった。手がかりひとつ残せず、レジナルドたちは歯がゆい思いをしたものだ。だけどその靴に残った土の質から、彼らのねぐらがある程度絞り込めていた。
奴らの捕縛劇の途中だったのだ。

そんな中、レジナルドはエリザベートが標的にされる危険性を考えてエレンにエリザベートの護衛を任せた。まさか寝ている途中に奪われたのは予想外だったが、しかし考えてみればエリザベートが住んでいるのは街の端だ。しかも護衛はガーネリアひとりとなれば、それは街の中心で住む人々よりも難易度は下がるだろう。何より目撃者が出にくい。

とはいえ、まだ奴らと裏娼館の繋がりが確認取れていない以上、エリザベートに場所を移動するよう申請するのは無理な話であったし、夜の間も護衛をつけるのはあの状態ではやりすぎに映りかねなかった。

だけどこうなった以上、無理を押してでもエリザベートに夜の護衛をつけるか、場所を移動してもらえば良かったとレジナルドはこれ以上ないほどに後悔していた。自分が王都に戻ってリリーナローゼや国王と契約を交わしている間にも、リリネリアは奪われたのだ。

またしても、知らぬ男の手によって。とてもではないが許せたものではなかった。見つけ次第、リリネリアは保護するつもりではあったが、正直レジナルドは己がどう出るか分かりかねていた。常に冷静であれと己を律するが、それが叶うかは自分自身すらわからない。とにかく、呼吸を乱さないようにするのが精一杯だった。

「………エレン。僕が………僕が彼女に渡すよう頼んだネックレスは?」

「え?あ、あぁ。ルドのネックレスなら彼女に………エリザベートさんに渡したよ。何があっても渡せ、だったろ?随分渋られたけど、返品はお前にしろと言ったら頷いてたよ」

「エリザベートは…………彼女は、ネックレスをしていたか?」

聞くと、エレンは変な顔をした。まるで、キウイを食べたらレモンだった、というような顔だ。エレンはその顔であっさり否定した。

「いや、してなかった」
 
「嘘だろう…………!?僕はお前に彼女がそれをするところまで見届けるよう言ったはずだ…………!!」

「えっ。いや、何だよ。んなこと出来ねぇって。渡せただけで頑張った方だよ。あれでつけろっつったら俺、多分追い出されてた」

「……………ッ、くそ、……………!」

荒々しく舌打ちをして、レジナルドが珍しく悪態をつく。エレンとレジナルドは長い付き合いだが、ここまで感情を乱しているのは、一度も見たことがなかった。
エレンは僅かに探るような視線をレジナルドに向けて、恐る恐る尋ねた。

「もしかして…………かなりまずい………?」

「ああ…………!そうだよ、あのネックレスには…………!!」

レジナルドが何か言いかけた時、それまでずっと黙っていたカイが、 ふと冷静な声で。静かな口調でレジナルドの後をついだ。

「ネックレスなら、恐らく彼女はしていますよ」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】恋愛小説家アリアの大好きな彼

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:57

腹黒上司が実は激甘だった件について。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:138

前世が見える令嬢、恋をする

恋愛 / 完結 24h.ポイント:241pt お気に入り:156

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:901pt お気に入り:4,184

運命の相手は私ではありません~だから断る~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:13,887pt お気に入り:982

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:584

処理中です...