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最終章
本当のこと /リリネリア
しおりを挟む「は…………?痛っーーー………!!」
気を抜いていたのがいけなかった。すぐさま染みたそれに、私は眉をしかめた。レジナルドは、そんな私の反応など気にせず、そのままガーゼでぽんぽんと拭く。私はそれを耐えながらも、レジナルドにもう一度聞き直した。今、なんて?いや、嘘でしょう。今更。今更すぎる。待って。え。
ぐるぐる。ぐるぐると感情が巡りだす。血が沸騰しそうだ。混乱している。染みた消毒液の存在など消えうせた。
「いま、なん、て」
「………どこから話そうかな。まず、リリィ。前提として、僕はあなたが望んで婚約破棄を切り出したと思っていたんだ」
「……………え、」
間抜けな声が漏れた。私が、婚約破棄を望んだ?そんなのうそ。だって、私が言われたのはーーー。固まっていると、レジナルドが私を見上げた。その手はいつの間にか、ガーゼを手に巻いていた。私の両手に、ガーゼが巻き付かれていく。真っ白なそれが手を覆うのを見て、私は混乱していた。
「う、うそ。だって、そんな」
「……………うん。あなたは、公爵………いや、公爵夫人かな。違うことを言われたんじゃないかな。恐らく、僕は違う女性を想っている、とか。そういうことじゃないかな」
「ーーー」
思わぬ言葉を受けて、息を飲む。何も、言えなかった。何も。
「僕はね。リリィ。あなただけを。…………リリィだけを。想っていたんだよ。…………きみだけを。きみだけが、愛しかった。………愛していたんだ。………今も、ずっと」
「え……………ぁ……………………………え、」
何も、言えない。頭が、回らない。
レジナルドが、実は私を、好きだった?今も?ずっと、好きだった?だって。いや。そんなの嘘よ。だって。だってレジナルドはーーー。
「信じて欲しい、というには無理があるな。………だけど、僕はあなただけを想っていて、忘れられなかった。例え、あなたが死んだとされていても。僕は、忘れられなかったんだよ」
「死ん、だ……………?わたし、が」
「僕は。あなたがずっと死んだと思っていたんだ。リリネリア、あなたと再会するまではね」
「……………っで、でも、どうして!?だってあなたが…………レジーが私の死を望んだんじゃない!!好きだから!!隣国の王女が、好きだから!!だから、私を死んだことにしたんでしょ!!」
「違う!!僕は………僕はずっと、あなただけを想ってた!!」
「嘘よ!!嘘!!そんなの…………!!」
どういうこと…………!?頭が追いつかない。混乱する。頭が鳴り響く。ぐ、と手を握れば傷口に染みた消毒液がじわじわと思い出したように痛みを知らせてくる。レジナルドが優しく手を握る。思わず、それを振り払った。
「じゃあ………………じゃあ……………………!!私は、私は、なんのために………………!!私は、なんで、一体、どうして………………!!」
「………落ち着いて聞いて。あなたは…………あなたは、死んだとされたんだ。それで、僕との婚約も破棄させられた。僕が十の時。あなたが八歳の時の話だ」
「……………」
レジナルドが、本題に踏み込んだ。私ははくはくと口を開けて、閉じて、やがて口を閉じた。喉が渇く。どくどくと心臓が鳴り響いて、目を開けてられなかった。怖い。何か、何か、根本的なものが、崩れる。壊れる。消える、と思った。私は、私は。
ぐらぐら。ぐらぐら。消える。消える。壊れる。なくなっちゃう。なんで。なんで、私はーーー。
音が消え、視界が乱れ、ぐらりと世界が揺れた。
「リリィ!!」
レジナルドの声を聞き、ようやく私は上体が崩れたのだと気がついた。天井が目に入る。音など、聞こえなかった。そのまま、ぶつりと。まるで、物語を読んでいたらいきなりそのページを破り捨てられたような。切り捨てられれたような。何も、分からなくなった。
私が意識を失ってしまったのだと気がついたのは、私が目を覚ましてからだった。
私は、混乱していたのだろう。
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