王妃の鑑

ごろごろみかん。

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ラベンダー(2)

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私に呼び止められたデルセンは一瞬立ちどまり、あたりを見回した。そして声をかけたのが私だと気づくと、すぐに怪訝そうな顔をした。
表情にあまり出ない彼だが、失礼な顔をする時は分かりやすい。分かりやすく頭上に疑問符が飛んでいる。
そしてややあったものの、すぐにまた歩きだそうとした。いやいやいや、少し待って欲しい。

「あ、あの………っ!あなた、ローブの……!」

名前を言おうとして、躊躇う。彼の名前はしっているが、役柄まではわからない。私が王妃だった時は魔術師閣下という役職だった。だけど時が戻り、今の彼は少年。いいとこ魔術師見習いだろう。
そう呼び止めると彼はやっと振り向いた。そして、私を視認する。目が、あった。

「あれ………?あなた、」

デルセンがつぶやく。
まさか、彼も記憶があるのかと思わず身構えてしまう。だけど彼が呟いたのは全く別のことだった。

「変わってますね。他の方と」

…???
そ、それは………私が変わっているということ?思わず固まった私に、デルセンが「あ」
とつぶやく。そして今更ながら深々と礼をとった。

「スミマセン、ご令嬢。………私に何かご用ですか?」

未来よりも、少しだけ慇懃無礼な態度。間違いなくデルセンだ。
彼は、私を殺した張本人と言ってもいい。何より、彼が私を崖から突き落としたのだから。そう言えば………そう。確か、彼は、私を突き落とす前に何か言っていた。そうだ、姦通罪の容疑だとか言っていた。全く持って意味がわからない。
そして………今一度考える。きっと、これが私の記憶通りなら、陛下は………殿下は、婚姻を結ぶまで私を殺さないはず。それは、デルセンも同じだ。今まで恐怖で固まっていた心がほぐれていく。まだ、私は七歳なのだ。未来は切り開ける。生きたいと思うことの、何が悪なのか。みんな自分勝手だ。みんな、自分本意で生きている。他人のために、世間体のためを考えて生きている人などいるわけがない。必死に、もがいて、足掻いて、生きたっていいじゃないの。これが私の人生だ。私の人性をどう生きようかなんて、他人に決められることではない。
他者に迷惑をかけない範囲なら、誰にも咎められることは無い。
色々、視界が狭かった。凝り固まりすぎていた。私はもっと自由に生きていいんだわ。

視界が開けた気がした。
私はデルセンを見ると、今一度微笑んだ。きっと、上手く笑えているはず。

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