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第五章・帝国の王女
502.Side Story:Roy/Saintcarat
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ミシェルはどうやらあの皇太子を気に入ったらしい。
これまでも、かっこいい男に会うとそれなりに気分が良くなっていたけれど、今回のそれは何かが違った。
ぷっくりとした頬を赤らめて、まるで恋焦がれていた人に逢えたかのように……ミシェルは静かにあの男を見つめていた。
これまでずっとミシェルを見てきたおれには分かる。ミシェルは──あの男に一目惚れしたのだろう。
さて、どうしたものか。
おれからミシェルを奪う奴は全員殺したいんだけど……相手は皇太子で、しかも化け物みたいに強いと噂のフォーロイトの人間。多分、おれの実力では傷一つ付けられないだろう。
頑張り屋で誰よりも優しいミシェルには世界で一番幸せになって欲しいし、ミシェルの望みは全部叶えてあげたい。
その為にはおれが我慢すればいいだけ。おれが……ミシェルの一番であることを諦めればいい。
そしたらミシェルはきっと、あの男と恋人になって結婚して末永く幸せになる────
「……なんて、受け入れられるわけないじゃん」
真夜中。バルコニーを伝ってミシェルの部屋に忍び込み、日課を済ませていたのだが……ミシェルの幸せそうな寝顔を見下ろしながら、おれはいつの間にか独り言を呟いていた。
ミシェルは相変わらず世界で一番可愛いなあ……でも、この笑顔はおれじゃない誰かの事を想っての笑顔なんだよな。
……──気に食わない。
ぽっと出の分際でミシェルの心を奪い、おれからミシェルを奪おうとする人間の存在が。
やっぱりおれが一番じゃなきゃ嫌だ。おれが一番ならどれだけミシェルのお気に入りが増えようが構わないと思ってたけど、やめた。
ミシェルの全てにおいておれが一番じゃないと嫌だ。他の何かにミシェルの意識がほんの少し割かれることすらも耐え難い。
今まで男がどれだけ増えてもいいと思っていたことが信じられないぐらい、おれは心が狭かった。もし本当にミシェルのお気に入りが増えたら……きっと、おれはそいつを殺さずにはいられない。
それで適当に死体を処理して、ミシェルには何事も無かったように伝えるんだ。──ミシェルから離れるなんて馬鹿なやつだね、って。
気に入った人間を傍に置いたらどんどん死んじゃうんだ。それが何度も繰り返されたら、きっとミシェルもお気に入りを作る事をやめるはず。
そうなればきっと……おれだけがミシェルの傍にいられるようになる。ミシェルの一番になって、ミシェルにも依存してもらえるはずだ。
でも、この作戦には一つ問題がある。
それはあの男──皇太子をおれの実力では殺せないことだ。ともすれば、この作戦は失敗するやもしれない。
ミシェルの柔らかな髪を触りながら頭を働かせる。
世の中の男がミシェルを好きにならない訳がないから、ミシェルに好意を寄せられたらきっとあの男もあっという間にミシェルを好きになる。
そこまで事が進んでしまえば、おれとしてはもう手の打ちようがなくなる。……ならば、そうならないように工夫を凝らすしかない。
「ミシェルには悪いけど、あの男への好意をどうにかして消すしかないなあ」
無理やり人間から感情を切除すると壊れちゃうって授業で聞いたけど…………まあ、いいか。そのぶんおれがミシェルの事をたくさん愛してあげたらきっと大丈夫だよね。
そうだ、そうに違いない。
よしこれで行こう! 早速、ミシェルの恋心を消す方法を考えないと!
「──おやすみ、ミシェル。いい夢を見てね」
鼻歌混じりに窓から自室に戻る直前、ミシェルの方を振り向いておやすみの挨拶をする。
ミシェルの幸せがおれの幸せ。だから、おれがミシェルを幸せにしてあげるんだ。
それがきっと……おれ達にとって一番の幸せだから。
♢♢
──ずっとこの日を待っていた。
アイツを捜し出す為に。
そして、フォーロイト帝国への復讐の為に。
親善使節の役目をこなしながらになるから、そう簡単にはいかないだろうが……あの日アイツを連れ去った人攫いの情報を集め、そしてアイツの──ユーキの情報を集める。
そして、憎き人攫いとそれをのさばらせたフォーロイト帝国に復讐する。
ユーキが見つかったならば、アイツと共に神殿都市に向かう。神殿都市ほど安全な場所はない。もう二度と、アイツが誰かに攫われる事はないだろう。
半妖半天の一族を復興する事が出来る、ただ一人の正統なる王の血筋の持ち主。
そして、オレの────たった一人の親友。
アイツを取り戻す事こそがオレの人生の全て。
あの日抱いた悔恨と復讐がオレの原動力だ。
必ずや、この機会にオレはこの切願を成就する。どんな手段を用いてでも、オレは──……ユーキ・デュロアス様を見つけ出す!!
……さしあたって、ミシェルとロイが気がかりだ。
どれ程王が民思いであろうが、この国の人間がユーキを攫った事実は変わりない。極悪非道な人間が平然と街を歩くような国に、あの世間知らずのお人好しと頭のおかしい馬鹿を放り出すのは些か不安が残る。
本当に世間知らずだからなあの二人は……放っておいて変な大人に騙されてしまうだろう。そして二人の性格上確実に騒ぎになるだろう。
特にロイの所為で。近頃のミシェルならば問題ないだろうが、ロイがな……とにかく不安要素すぎる。
「──はぁ。やはりあの二人から目を離す訳にはいかないな」
オレにはオレの目的がある。
だが……一度でも友と思ったのだ。オレのような身勝手な後悔を味わって欲しくないと願ったのだ。
ならば、最後まで面倒を見るのが筋というものだろう。
……きっと、ユーキもそう言う筈だ。
アイツはあれで結構面倒見がいいし、仲間意識が強い。怪物の巣窟に乗り込む友を見捨てたとあれば、アイツに見損なったと言われるだろう。
それはそれで普通に嫌だが、何より──……オレ自身が、世間知らずの幼き友を守りたいと。
そう思ったのだ。
これまでも、かっこいい男に会うとそれなりに気分が良くなっていたけれど、今回のそれは何かが違った。
ぷっくりとした頬を赤らめて、まるで恋焦がれていた人に逢えたかのように……ミシェルは静かにあの男を見つめていた。
これまでずっとミシェルを見てきたおれには分かる。ミシェルは──あの男に一目惚れしたのだろう。
さて、どうしたものか。
おれからミシェルを奪う奴は全員殺したいんだけど……相手は皇太子で、しかも化け物みたいに強いと噂のフォーロイトの人間。多分、おれの実力では傷一つ付けられないだろう。
頑張り屋で誰よりも優しいミシェルには世界で一番幸せになって欲しいし、ミシェルの望みは全部叶えてあげたい。
その為にはおれが我慢すればいいだけ。おれが……ミシェルの一番であることを諦めればいい。
そしたらミシェルはきっと、あの男と恋人になって結婚して末永く幸せになる────
「……なんて、受け入れられるわけないじゃん」
真夜中。バルコニーを伝ってミシェルの部屋に忍び込み、日課を済ませていたのだが……ミシェルの幸せそうな寝顔を見下ろしながら、おれはいつの間にか独り言を呟いていた。
ミシェルは相変わらず世界で一番可愛いなあ……でも、この笑顔はおれじゃない誰かの事を想っての笑顔なんだよな。
……──気に食わない。
ぽっと出の分際でミシェルの心を奪い、おれからミシェルを奪おうとする人間の存在が。
やっぱりおれが一番じゃなきゃ嫌だ。おれが一番ならどれだけミシェルのお気に入りが増えようが構わないと思ってたけど、やめた。
ミシェルの全てにおいておれが一番じゃないと嫌だ。他の何かにミシェルの意識がほんの少し割かれることすらも耐え難い。
今まで男がどれだけ増えてもいいと思っていたことが信じられないぐらい、おれは心が狭かった。もし本当にミシェルのお気に入りが増えたら……きっと、おれはそいつを殺さずにはいられない。
それで適当に死体を処理して、ミシェルには何事も無かったように伝えるんだ。──ミシェルから離れるなんて馬鹿なやつだね、って。
気に入った人間を傍に置いたらどんどん死んじゃうんだ。それが何度も繰り返されたら、きっとミシェルもお気に入りを作る事をやめるはず。
そうなればきっと……おれだけがミシェルの傍にいられるようになる。ミシェルの一番になって、ミシェルにも依存してもらえるはずだ。
でも、この作戦には一つ問題がある。
それはあの男──皇太子をおれの実力では殺せないことだ。ともすれば、この作戦は失敗するやもしれない。
ミシェルの柔らかな髪を触りながら頭を働かせる。
世の中の男がミシェルを好きにならない訳がないから、ミシェルに好意を寄せられたらきっとあの男もあっという間にミシェルを好きになる。
そこまで事が進んでしまえば、おれとしてはもう手の打ちようがなくなる。……ならば、そうならないように工夫を凝らすしかない。
「ミシェルには悪いけど、あの男への好意をどうにかして消すしかないなあ」
無理やり人間から感情を切除すると壊れちゃうって授業で聞いたけど…………まあ、いいか。そのぶんおれがミシェルの事をたくさん愛してあげたらきっと大丈夫だよね。
そうだ、そうに違いない。
よしこれで行こう! 早速、ミシェルの恋心を消す方法を考えないと!
「──おやすみ、ミシェル。いい夢を見てね」
鼻歌混じりに窓から自室に戻る直前、ミシェルの方を振り向いておやすみの挨拶をする。
ミシェルの幸せがおれの幸せ。だから、おれがミシェルを幸せにしてあげるんだ。
それがきっと……おれ達にとって一番の幸せだから。
♢♢
──ずっとこの日を待っていた。
アイツを捜し出す為に。
そして、フォーロイト帝国への復讐の為に。
親善使節の役目をこなしながらになるから、そう簡単にはいかないだろうが……あの日アイツを連れ去った人攫いの情報を集め、そしてアイツの──ユーキの情報を集める。
そして、憎き人攫いとそれをのさばらせたフォーロイト帝国に復讐する。
ユーキが見つかったならば、アイツと共に神殿都市に向かう。神殿都市ほど安全な場所はない。もう二度と、アイツが誰かに攫われる事はないだろう。
半妖半天の一族を復興する事が出来る、ただ一人の正統なる王の血筋の持ち主。
そして、オレの────たった一人の親友。
アイツを取り戻す事こそがオレの人生の全て。
あの日抱いた悔恨と復讐がオレの原動力だ。
必ずや、この機会にオレはこの切願を成就する。どんな手段を用いてでも、オレは──……ユーキ・デュロアス様を見つけ出す!!
……さしあたって、ミシェルとロイが気がかりだ。
どれ程王が民思いであろうが、この国の人間がユーキを攫った事実は変わりない。極悪非道な人間が平然と街を歩くような国に、あの世間知らずのお人好しと頭のおかしい馬鹿を放り出すのは些か不安が残る。
本当に世間知らずだからなあの二人は……放っておいて変な大人に騙されてしまうだろう。そして二人の性格上確実に騒ぎになるだろう。
特にロイの所為で。近頃のミシェルならば問題ないだろうが、ロイがな……とにかく不安要素すぎる。
「──はぁ。やはりあの二人から目を離す訳にはいかないな」
オレにはオレの目的がある。
だが……一度でも友と思ったのだ。オレのような身勝手な後悔を味わって欲しくないと願ったのだ。
ならば、最後まで面倒を見るのが筋というものだろう。
……きっと、ユーキもそう言う筈だ。
アイツはあれで結構面倒見がいいし、仲間意識が強い。怪物の巣窟に乗り込む友を見捨てたとあれば、アイツに見損なったと言われるだろう。
それはそれで普通に嫌だが、何より──……オレ自身が、世間知らずの幼き友を守りたいと。
そう思ったのだ。
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