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中編
22.歩み寄り-2
しおりを挟む翌週の休日の、アルヴィドとの面談の日。二人は変わらず隣町の公園のベンチに、並んで座っていた。
もうあと数日で一年が終わる。生徒たちはとっくに冬休みへ入っていて、教職員を含め大勢が里帰りのため学校を離れている。
イリスはあまり故郷へ帰っていない。非常に遠方であることも理由の一つだが、あの出来事が起きたルーヘシオンの六年生からは、両親に何かあったと悟られたくないあまり、何かと理由をつけて帰省を避けていた。あれから帰ったのは数えるほどだ。話は魔法道具の水晶球でもできる。
一方アルヴィドには、そもそも帰る家がない。生家のエーベルゴートとは縁が切れており、養子になったノイマン家の家人は失踪していて家屋としての家もない。学校に雇われる前の借家は必要ないのでもう引き払っている。
そのため、二人とも冬期休暇を引き続き学校で過ごすことから、治療も間を空けず継続している。
「カミラ先生とお茶を飲めたのか。いい傾向だ。無理はしていないか」
現実との対峙訓練の記録をつけている、臙脂色の手帳を確認しながら、アルヴィドは感心したような声を上げた。
カミラは校医で、イリスより少し年上の女性である。
彼女も冬期休暇に帰省しない組で、暇だからお茶でも飲まないかと誘われた。いきなりセムラクなしではまだ難しかったので、一度目は術を解除せず接した。それで急に動揺させられる話題は出されないと確認できたので、二回目はセムラクを解除して向かった。やはり手ずから用意されたお茶に少し不安になったが、カミラは頻繁にイリスを誘ってくれたため、回を重ねるうちに平気になってきた。
セムラクなしでの外出は、人の少ない今の時期、私室からカミラの部屋までの短い距離だからできている。新学期が始まって人通りが多くなると、まだ難しい領域だ。ただ、進歩がないわけではなく、冬休みに食い込んだ低学年の補習授業を、セムラクなしで取り組むことができた。いずれは通常時の授業、高学年の授業、勤務中常に、といった具合に負荷を重くする予定だ。
「ええ。落ち着いて話せています。カミラ先生は聞くより話す方がお好きなようだから、そのおかげかもしれません」
友人はなく、同僚ともほとんど業務上の付き合いしかしてこなかったイリスは、自分で話題を提供しての雑談や、感情を混ぜての会話が非常に苦手になってしまっている。そのせいでかなりたどたどしい受け答えをするイリスにも、度量の広いカミラは怪訝な目で見ることなく話を聞かせてくれていた。
「名前で呼んでもいいかと、聞かれました。少し、恥ずかしかったです」
イリスは職場で家名の方で呼ばれていた。他の教師たち同士は、気安く名前で呼び合っている者もいる。
「そうか」
返事は素っ気ないが、アルヴィドにはイリスの気恥ずかしさと、それと共に感じた嬉しさがわかったようで、目を細めて微かに笑った。
イリスには、カミラに名前で呼ばれてから、アルヴィドへ尋ねようと思っていたことがある。
「治療中、何と呼べばいいですか」
「え……?」
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