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8.魅了の影響

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次に目を覚ました時は、幼い頃から使っていたわたくしのベッドでした。身体も、少し幼くなっているような気が致します。

「おはようございます。カトリーヌ様。明日のパーティーの準備は順調ですよ。続々とお祝いも届いております。誕生日に向けて、国王陛下がカトリーヌ様の縁談を進めておられますよ。いよいよですね」

「ねぇ! リュカは何処?!」

幼い頃からわたくしに付いてくれていた侍女のリリアも、優しくわたくしに話しかけてくれます。以前は、もっと冷たかったから嬉しいです。でも、今はそれよりリュカの無事を確認したい。わたくしは、大声で叫びました。

「ここにはいらっしゃいませんが……もしかしてカトリーヌ様はリュカ様がお好きなんですか? なら陛下に仰ると宜しいですよ。リュカ様ならカトリーヌ様の幼馴染ですし、最近は数々の勲章を得ておられますからご結婚が可能かもしれませんよ」

「お願い! リュカに会いたいの! 今すぐ呼んで!!!」

「か、かしこまりました!」

泣き叫ぶわたくしの様子におかしいと思ったリリアはすぐに報告をしたようで、お父様とお母様がわたくしの部屋に駆け込んで来ました。

「カトリーヌ、どうした?!」

「何があったの? リュカなら昨日貴女が腕を治したから大丈夫よ! すぐここに来るように伝えたわ」

お母様の言葉で、わたくしは思い出しました。リュカが腕を失って、わたくしが癒したのは16の誕生日の少し前でした。婚約はまだしておりません。良かった、戻れたのですね。

「お父様、お母様、取り乱して申し訳ありません。大事なお話があります。人払いを」

すぐにわたくしの願いは叶えられ、部屋にはお父様とお母様だけになりました。リュカが来たら、部屋に入れるように頼んで、お父様とお母様に向き直ります。

「お父様、申し訳ございません。わたくしはもう、時戻りの魔法は使えません。国の危機ではありませんでした。ですが、使ってしまいました。後悔はしておりません」

「……そうか。何故カトリーヌは時戻りの魔法の存在を知ったのだ?」

「長くなりますが、わたくしの話を聞いて下さいませ」

わたくしは、お母様から時戻りの魔法の存在を聞いた事以外の全ての出来事を話しました。リュカの性転換の魔法の存在を話した時、お父様はわたくしの話を信じたようです。

ルイーズの話もしました。魅了の事はお父様も知らなかったそうです。でも、リュカが魅了はお父様に報告される筈だと言っておりました。そう伝えると、お父様は更に考え込んでしまわれましたわ。

「今後は鑑定人の記憶を消す前に必ず私に報告する事にしよう。どんな魔法を持って生まれて来るのか分からない以上は、ちゃんと把握する方が良い。その分、漏洩の危険が増すが……。仕方ないだろう。魅了は、様々な問題があるから必ず私に報告させる事にしていた筈なのだが……」

「わたくしからお兄様にお伝えします! わたくしはお兄様にとても大事にされているの! 特別な存在なのよ! とでも言いくるめたんじゃありませんの?」

「あり得るな。ルイーズの鑑定を行った者を呼んで確認する」

「魅了持ちだけは把握しておかないと国家の危機よ。貴方とわたくしが魅了される事はないけれど、他の人には魅了が効くのだから」

「そうだな。今後は他の魔法も私への報告を義務とする」

記憶を消す魔法を使える方が居るので、鑑定人が親に情報を伝えたらすぐに鑑定結果を忘れさせていたそうです。情報が漏れないようにするには最適ですが、リュカやお母様の言う通り国王であるお父様くらいは知っておくべきなのでしょう。親としては知られたくない場合もあるでしょうから、反発は免れないかもしれませんけれど、記憶を消したフリをして誤魔化すそうですわ。それが良いかもしれませんわね。

お父様は状態変化が無効になる魔法が常に掛かっているそうですわ。お父様の特殊魔法らしいです。お父様本人と、最も愛する者が1人だけ効くらしく、お父様とお母様は毒や眠り薬などの状態異常をもたらすありとあらゆるものが効きません。当然、魅了も効きませんわ。

「全く、末っ子可愛さに甘やかしすぎなのですわ! 娘も甘やかしているのか、ルイーズはやりたい放題らしいですわよ。この間の茶会では、自分の方が王女より華やかだなんて言っていたそうではありませんか。立場を弁えていませんわ。だから調子に乗って、カトリーヌの婚約者を魅了したりしたのでしょう!」

お母様はお冠です。お父様は、心なしか少し小さくなっておられるように見えますわ。

「おば様はおそらく、転移の魔法が使えます。今までもいきなり城に現れた事があるのではありませんか?」

「つい先日、わたくしの部屋でアクセサリーを物色していた事があるわよ。すぐ追い出したけど。本来ならいくら貴方の妹でも出入り禁止よ。なのに、貴方ときたら……」

「そんな事をしたのですか?! 泥棒ではありませんの!」

「すぐ追い出したから被害はなかったわ。無理矢理わたくしの部屋に入って来た次の日の出来事だったから、嫌な予感がして警備を強化しておいたの。だから発見が早くて、何も盗まれなかったわ。でも、いっそ何か盗ませれば良かったわね。貴方に報告しても被害がなかったなら許してやれなんて言うし……。王妃の部屋に無断侵入するなんて極刑ものよ。大事な妹を守りたければ彼女の魔法を今すぐ封じてちょうだい。城への出入りも禁止して。でないと、そのうち取り返しのつかない事をしでかすわよ。ああ、過去ではもうやらかしてるわね。他国の城に娘を送るなんて、我が国を潰すつもりなのかしら」

「おば様が王女の時に、カドゥール国に行った事があると伺いましたから、転移の魔法を使ったのでしょうね。おば様が転移を使えなければ、ルイーズがクリストフ様を魅了するのは仕方ないとして、勝手にカドゥール国に現れる事は防げましたわね。ちなみに、ルイーズに冷たくなったという理由で我が国を滅ぼすとクリストフ様は仰っておられましたわ」

「やりたい放題ね。それに、うちの城でクリストフ様とルイーズがいちゃついている時点でおかしいわ。王女であるカトリーヌが知っていたという事は、使用人はほとんど知っていた筈よ。それなのに国王である貴方がカトリーヌから言われるまで知らないなんて異常よ。クリストフ様はお優しい方で以前にうちに来られた時も丁寧な態度だったと使用人が褒めちぎっていたから、ルイーズの魅了がうちの城の者達にも効いていた可能性があるわ。でないと情報伝達が遅過ぎるもの」

「ルイーズの魅了は、魅了した人物を好意的に思う者にも好意の度合いに応じて効くらしいですからね。わたくしを地下牢に入れて仕事だけさせるつもりだったようで、リュカが死んで味方も居なくなったからと得意そうにペラペラ話して下さいましたわ。そういえば、ルイーズがクリストフ様を魅了してから、わたくしの悪口が漏れ聞こえる事が増えました。わたくしの髪は、烏のようでみっともないそうですわよ」

「あら、それは王妃であるわたくしへの侮辱という事かしら」

「そう思って、全てお父様に報告しておりましたわ。お父様はお怒りでしたし、お母様は今と同じくわたくしを大事にして下さっていました。でも、普通なのはお父様とお母様だけでしたわ。お兄様も、お姉様方も、弟達もわたくしに冷たくなったような気が致します。忙しいのかと思っていましたけど、わたくしの見送りはお父様とお母様、お兄様だけでしたからもしかしたら魅了が効いていたのかもしれませんわね」

「ふむ……ならクレマンは魅了が効いてなかったのか?」

「お兄様はたった一言、務めを果たせとお言葉を下さっただけでしたわ」

「あのクレマンが、カトリーヌが国を出る時にそんな事しか言わないなんてあり得ないわ」

「そうだな。きっと魔法が効いていたのだろう。ルイーズの魅了だと思われる事象は、他にはどんな事があったんだ?」
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