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11.今度こそ

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「カティ……顔を見せて。本当だ。よく見ると幼い。俺も、若返っているの?」

「ええ、わたくしがリュカの腕を治した時まで戻ったみたいよ。良かった……リュカが生きてるわ……」

安心するとまた涙が溢れてきます。リュカは、わたくしの涙を拭いながら優しく話しかけてくれます。

「心配かけてごめん。あんなに泣いてるカティを見たのは初めてだった。なぁ、俺が死んだから、時を戻したのか? カティの魔法は一回しか使えないんだろ?」

「そうよ。わたくしはもう4属性の魔法しか使えないわ。リュカはわたくしの目の前で騎士達に殺されたわ。本当に怖かった。何度治しても、意地悪そうな笑みを浮かべた男達がリュカを切り刻むの。リュカ……ごめんなさい。わたくしのせいで死んでしまうなんて……」

「俺はカティを守る為ならいつ死んでも構わない。けど、これからはそうは言ってられないな。今後は自分の身も大切にするよ。それより、カティは俺と婚約して良いのか? さっきの話を断片的に聞いてる限りだけど、ルイーズ様は魅了の魔法が使えるんだよな?」

「ええ、そうみたい。リュカが死んで、わたくしの味方は居ないからって得意げにルイーズが話してくれたわ。ルイーズはクリストフ様を魅了したの。魅了した相手に好意を持つ者にも魅了が伝染するんですって。クリストフ様の目の前でそんな話をしてもルイーズにベッタリだったから、魅了の力はかなり強力なんじゃないかしら?」

「だからあの城、おかしかったのか……。みんなあんだけおかしくなるんなら、クリストフ様は元々は余程慕われてたんだろうな。最初にルイーズ様が来た時は常識的な対応をしてた人達も、あっという間にカティを悪者にするから、てっきり操られてんのかと思ったぜ」

「確かに、操られてるみたいに異常だったわね。ごめんなさい。わたくしがもっと早く城を出ていれば、リュカが死ななくて良かったのに……」

「カティが謝る事じゃねぇよ。俺がさっさと連れ出せばよかったんだ。けど、死んだってのが実感湧かねぇんだよな。ずーっとカティが泣いてたから、なんとかしないとって思ってたのは覚えてるんだけど……」

「もうあんなの嫌よ……! 本当に怖かったんだから!!!」

「ああ、もうカティから離れない。婚約者にもなれたし、死んで良かったよ」

「そんな事言わないでよ! リュカが死んで本当に悲しかったの。もうあんなの嫌!」

「ごめん。けど時を戻すってすげぇ魔法だぜ? 一生に1回しか使えないんなら、国王陛下が温存したくて存在を教えないのも納得する。あの手紙、俺が預かってたよな? どうやって読んだんだ?」

「……内緒よ、実はわたくし、お父様から手紙を預かった時には、自分が時を戻す魔法が使えると知っていたの。だから、手紙は読んでないわ」

リュカの耳元でこっそり囁くと、リュカのお顔が真っ赤に染まりました。

「なぁ、カティ。俺はそんな貴重な魔法を使うくらい好かれてると自惚れて良いのか?」

「そうよ! わたくし、リュカが好きなの! リュカが死ぬなんて嫌。だから、もう無茶しないで。あの時だって、わたくしを見捨てればリュカは死ななかった」

「そんな事出来ねぇよ。カティを守れないなら生きてる意味がない」

「あるわ! それに、リュカが死んでももうやり直せないの! だから、お願い! もう無茶をしないで! さっき婚約を嫌がったのも、リュカが魅了されたら耐えられないと思ったからよ! クリストフ様ならなんとか我慢できたけど、リュカがわたくしに冷たくなるなんて絶対嫌なの! ルイーズとイチャつく姿を想像しただけで気持ち悪くなるわ。ねぇ、本当にリュカは魅了されない?」

「俺は、魔法を無効化するらしいからな。4属性の魔法は普通に効くんだけど、鑑定もなかなか効かなかったらしい。結局、数で押したら効いたから魅了持ちがいっせいに俺に魅了をかけたら効くかもしれねぇけど、魅了持ちは国王陛下が大体把握してるらしいし、ルイーズ様にだけ気を付ければ大丈夫じゃねぇかな? 少なくとも、クリストフ様より俺の方が魅了は効きにくいと思うぜ」

「良かった……でも、出来たらルイーズとは会わないで欲しいの。我儘なのは分かってるんだけど……」

「元々そんなに会わねえし、夜会でも出来るだけ関わらないようにするよ。それに、国王陛下のあのご様子から察するにルイーズ様の魅了の力は封じられるだろうから安心しな。なぁ、俺が魅了されるのはそんなに嫌か?」

「嫌!」

思わず言うと、リュカはとても嬉しそうに笑いました。あら、リュカはこんなにかっこよかったでしょうか。

いや、元々かっこよかったんですけど! よかったんですけど!!!

「顔、真っ赤だな。少なくともクリストフ様より俺の方が好かれてるって思って良いのか?」

「そこでなんでクリストフ様が出てくるのよ」

「婚約者だっただろ?! それに、最初は仲も良かったじゃねぇか! だから俺は諦めたのに!」

「……ああ、そういえばそうだったわね。確かに最初は良かったけど……今は顔も見たくないわ」

今のクリストフ様は魅了されていないと分かっていても、虐げられた記憶が消える訳ではありません。わたくしを虐げただけなら魅了されていたと割り切れますが、リュカを殺した時の笑みがどうしても受け入れられません。

「クリストフ様を庇う訳じゃねぇんだけど、魅了されなきゃクリストフ様はカティをちゃんと愛してたんじゃねぇのか?」

「どうかしら。分からないわ。もうどうでもいいじゃない。あんな人の事なんて」

「なんかだいぶ冷たくねぇか?」

「だって、リュカを殺す時、あの人は笑ったのよ! 魅了にかかっていたとはいえ、どうしても受け入れられないの」

「あー……うん、俺の為に怒ってくれてるんだな。すげぇ嬉しい。カティは可愛いな。そんな顔、クリストフ様の前ではしてなかったもんな。俺は今でも覚えてるぜ。カティから寂しそうに婚約が決まったからもう個人的に会う事は出来ないって言われた時、絶望しかなかった。もう、クリストフ様と婚約するなんて事にはならねぇよな?」

「わたくしの記憶では、誕生日パーティーの1ヶ月後くらいに婚約の打診が来たわ。クリストフ様とパーティーでよく話した覚えがあるから、その時気に入られたのかしらね」

「なら、誕生日パーティーで俺達の婚約を発表すれば大丈夫って事か? 俺、絶対カティから離れないからな」

「嬉しいわ。婚約発表したら、基本的に婚約者と離れないし、発表したばかりの時は特にそうよ。だからきっと大丈夫よ」

「分かった。今度こそカティを離さない。もう人任せになんかしてられるか。カティは俺が幸せにする」

「リュカがわたくしを選んで良かったと思って貰えるように、わたくしも騎士の事を勉強するわね」

「ああもう……本当にカティは……」

リュカは、跪きわたくしの手の甲にキスをしました。

「カトリーヌ・ド・ゼム王女、どうか私と結婚して下さい」

それは、正式な騎士の誓い。過去でも受けた事のない、わたくしが初めて受ける正式なプロポーズです。

「リュカ・デ・ロドラ様のお申し出をお受け致します。リュカ、愛してるわ」

それからノックの音がするまで、リュカと見つめあっていました。とてもとても暖かくて、幸せで、リュカに抱きつきたかったのですが、リュカはお父様と約束しているからと手を握るだけでした。なんだかとても物足りなく感じましたわ。わたくしはいつからこんなに欲張りになってしまったのでしょうか。

リュカが生きているだけで充分だと思っていたのに、もう離れたくないと思ってしまいます。
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