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31.判明【リュカ視点】
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「リュカ、だいぶまずいかも」
部屋を出てすぐに、空き部屋に俺を連れて行ったローラン様は、真っ青な顔をしておられる。魔力切れの典型的な症状だ。
クリストフ様の前では普通になさっていたが、相当無理をしておられたようだ。
「ここじゃ誰が聞いてるか分からない。僕、魔力を使い過ぎて倒れそうなんだ。悪いけど、僕を父上の所まで運んで……」
そう仰ると、ローラン様は意識を失った。
ルカの姿で王子を運ぶのはまずい。俺は、男に戻りローラン王子を抱え、国王陛下の元へ向かった。
「魔力切れね。わたくしが魔力を譲渡するわ」
王妃様が、ローラン様に魔力を与えて下さったおかげで、すぐにローラン様は元気になった。
「リュカ……僕を運んでくれたんだね。ありがとう。母上も、ありがとうございました」
ローラン様と王妃様は水魔法が得意なので魔力を譲渡出来る。カティも出来るが、以前に魔力切れを起こした俺に魔力を与え過ぎて倒れた事があるからさせたくなかったし、心配をかけるからまだ呼んでいない。
王妃様は見事な魔力制御でご自分の負担にならない程度の癒しをお与えになられる。
カティは、癒しの力は王妃様以上なのだが自分の魔力が切れる事を厭わずに傷ついた相手を水魔法で癒やそうとする。そんな所も愛おしいが、もっと自分を大事にして欲しいと願ってしまう。
「父上、母上、リュカ。僕は、クリストフ様を鑑定致しました。信じられなくて、何度も鑑定しました。だから魔力が切れてしまったのです」
ローラン様が、真剣な顔で俺を見る。
「いい、特にリュカ、落ち着いて聞いて。怒るのもなし。部屋の物も壊さないでよね。これは、王子としての命令だから。いくら姉さんの婚約者でも、結婚するまでは僕の方が立場は上なんだから、従ってよ」
「承知しました」
そこまで忠告されるという事は、俺が怒り出しかねない事実が鑑定で分かったのだろう。
「さっきだって、ルカの時ちょっとクリストフ様を睨んだでしょ! あれもダメだからね!」
「かしこまりました」
俺は、睨んでいたのか?! 殺気は抑えたつもりだったのに。はぁ……まだまだ修行が足りないな。
「結論から言うと、クリストフ様はルイーズの魅了にかかっておりません。ルイーズは居ませんでしたから鑑定出来ていませんけど、あの状況でルイーズがクリストフ様に魅了を使わないなんてあり得なさそうだから、当初の予想通りルイーズにはもう魅了魔法は使えないと思われます」
「そう、良かったわ……」
「うむ。あとは調査をして、余計な事をしないように魔法を封じれば良いな」
「そっちはそれで問題ありません。問題は、クリストフ様も魅了魔法を使える事です」
「「「え……?!」」」
「どういう事だ?!」
「クリストフ様は、魅了魔法を使えます。ルイーズのように周りを巻き込む厄介な能力ではありませんが、生涯で2回だけ魅了魔法の使用が可能です」
何度言われても脳が理解しない。何故、他国の王太子が魅了魔法を使えるんだ……。俺は国王陛下とローラン様の会話をぼんやり眺めるしか出来ない。
「クリストフ様に魔法の事をお伝えしなければ問題ない!」
「そ、そうよ!」
国王陛下が、叫ぶように仰る。そうだ。確かに教えなければ問題ない。だが、本当にそうだろうか。先ほどの会話で、クリストフ様がカティを好いているのはよく分かった。そして、以前とは違いカティに誠実であろうとしておられる事も分かる。
「彼は間違いなく姉さんに惚れています。気に入っているレベルではない。隙あれば姉さんの婚約者になろうと企んでいます。間違い、ありません」
やっぱりそうだよな。ルイーズ様が余計な事をしなければ、カティは俺と結婚するよりクリストフ様と結婚する方が幸せになれるのではないか……?
だけど、俺だってカティが好きだ。大国の王太子だろうと、カティが俺を選んでくれるなら離したくない。
怒りや動揺を表に出さないのは、こんなに辛いのか。王族は、これを簡単にやってのけるのか。ローラン王子だって、魔力切れでお辛いのにクリストフ様の前では堂々とした振る舞いをなさっておられた。……俺に、同じ事が出来るのか?
「僕も最初は隠す方が良いと思いました。でも、クリストフ様は魅了魔法が存在する事を知っておられます。カマをかけたらルイーズに魅了されたフリまでしてくれましたよ」
「なんだと?!」
「魔法が効いたと思ったルイーズがペラペラ喋ったんでしょう。過去でも似たような事をしたようですし」
「……なんという……事だ……」
「ルイーズが知らない事は漏れていませんよ。でも、魅了魔法が存在して、国ぐるみで魔法の存在を把握している事は察しているご様子です。探りを入れられました。さすが、大国の王太子だ」
「ルイーズの監視が甘かったな。まさか、クリストフ様の部屋の前で大声で魅了魔法を話をするとは思わなかったからな……」
「隠し続けるか、少し情報を開示するか……どちらが良いでしょうか? 僕は、ルイーズが魅了魔法を使える事は伝えてしまえば良いと思いますよ。どうせ、バレています。それなら下手に探られるよりこちらから情報を開示する方が信用も得られて良いと思います」
「ルイーズがどこまで話したかは分からぬか」
「申し訳ありません。探ったのですがはっきりとは分かりませんでした」
「すぐにシャヴァネル公爵一家を全員呼び出す。クレマンはもうすぐ戻るだろう。それまで魔法が使用出来ない貴族用の牢に入れる」
「良いの? 罪状が確定した訳ではないのに」
王妃様が心配そうに仰った。確かにそうだ。やった事はだいぶまずいが、証拠はまだない。
部屋を出てすぐに、空き部屋に俺を連れて行ったローラン様は、真っ青な顔をしておられる。魔力切れの典型的な症状だ。
クリストフ様の前では普通になさっていたが、相当無理をしておられたようだ。
「ここじゃ誰が聞いてるか分からない。僕、魔力を使い過ぎて倒れそうなんだ。悪いけど、僕を父上の所まで運んで……」
そう仰ると、ローラン様は意識を失った。
ルカの姿で王子を運ぶのはまずい。俺は、男に戻りローラン王子を抱え、国王陛下の元へ向かった。
「魔力切れね。わたくしが魔力を譲渡するわ」
王妃様が、ローラン様に魔力を与えて下さったおかげで、すぐにローラン様は元気になった。
「リュカ……僕を運んでくれたんだね。ありがとう。母上も、ありがとうございました」
ローラン様と王妃様は水魔法が得意なので魔力を譲渡出来る。カティも出来るが、以前に魔力切れを起こした俺に魔力を与え過ぎて倒れた事があるからさせたくなかったし、心配をかけるからまだ呼んでいない。
王妃様は見事な魔力制御でご自分の負担にならない程度の癒しをお与えになられる。
カティは、癒しの力は王妃様以上なのだが自分の魔力が切れる事を厭わずに傷ついた相手を水魔法で癒やそうとする。そんな所も愛おしいが、もっと自分を大事にして欲しいと願ってしまう。
「父上、母上、リュカ。僕は、クリストフ様を鑑定致しました。信じられなくて、何度も鑑定しました。だから魔力が切れてしまったのです」
ローラン様が、真剣な顔で俺を見る。
「いい、特にリュカ、落ち着いて聞いて。怒るのもなし。部屋の物も壊さないでよね。これは、王子としての命令だから。いくら姉さんの婚約者でも、結婚するまでは僕の方が立場は上なんだから、従ってよ」
「承知しました」
そこまで忠告されるという事は、俺が怒り出しかねない事実が鑑定で分かったのだろう。
「さっきだって、ルカの時ちょっとクリストフ様を睨んだでしょ! あれもダメだからね!」
「かしこまりました」
俺は、睨んでいたのか?! 殺気は抑えたつもりだったのに。はぁ……まだまだ修行が足りないな。
「結論から言うと、クリストフ様はルイーズの魅了にかかっておりません。ルイーズは居ませんでしたから鑑定出来ていませんけど、あの状況でルイーズがクリストフ様に魅了を使わないなんてあり得なさそうだから、当初の予想通りルイーズにはもう魅了魔法は使えないと思われます」
「そう、良かったわ……」
「うむ。あとは調査をして、余計な事をしないように魔法を封じれば良いな」
「そっちはそれで問題ありません。問題は、クリストフ様も魅了魔法を使える事です」
「「「え……?!」」」
「どういう事だ?!」
「クリストフ様は、魅了魔法を使えます。ルイーズのように周りを巻き込む厄介な能力ではありませんが、生涯で2回だけ魅了魔法の使用が可能です」
何度言われても脳が理解しない。何故、他国の王太子が魅了魔法を使えるんだ……。俺は国王陛下とローラン様の会話をぼんやり眺めるしか出来ない。
「クリストフ様に魔法の事をお伝えしなければ問題ない!」
「そ、そうよ!」
国王陛下が、叫ぶように仰る。そうだ。確かに教えなければ問題ない。だが、本当にそうだろうか。先ほどの会話で、クリストフ様がカティを好いているのはよく分かった。そして、以前とは違いカティに誠実であろうとしておられる事も分かる。
「彼は間違いなく姉さんに惚れています。気に入っているレベルではない。隙あれば姉さんの婚約者になろうと企んでいます。間違い、ありません」
やっぱりそうだよな。ルイーズ様が余計な事をしなければ、カティは俺と結婚するよりクリストフ様と結婚する方が幸せになれるのではないか……?
だけど、俺だってカティが好きだ。大国の王太子だろうと、カティが俺を選んでくれるなら離したくない。
怒りや動揺を表に出さないのは、こんなに辛いのか。王族は、これを簡単にやってのけるのか。ローラン王子だって、魔力切れでお辛いのにクリストフ様の前では堂々とした振る舞いをなさっておられた。……俺に、同じ事が出来るのか?
「僕も最初は隠す方が良いと思いました。でも、クリストフ様は魅了魔法が存在する事を知っておられます。カマをかけたらルイーズに魅了されたフリまでしてくれましたよ」
「なんだと?!」
「魔法が効いたと思ったルイーズがペラペラ喋ったんでしょう。過去でも似たような事をしたようですし」
「……なんという……事だ……」
「ルイーズが知らない事は漏れていませんよ。でも、魅了魔法が存在して、国ぐるみで魔法の存在を把握している事は察しているご様子です。探りを入れられました。さすが、大国の王太子だ」
「ルイーズの監視が甘かったな。まさか、クリストフ様の部屋の前で大声で魅了魔法を話をするとは思わなかったからな……」
「隠し続けるか、少し情報を開示するか……どちらが良いでしょうか? 僕は、ルイーズが魅了魔法を使える事は伝えてしまえば良いと思いますよ。どうせ、バレています。それなら下手に探られるよりこちらから情報を開示する方が信用も得られて良いと思います」
「ルイーズがどこまで話したかは分からぬか」
「申し訳ありません。探ったのですがはっきりとは分かりませんでした」
「すぐにシャヴァネル公爵一家を全員呼び出す。クレマンはもうすぐ戻るだろう。それまで魔法が使用出来ない貴族用の牢に入れる」
「良いの? 罪状が確定した訳ではないのに」
王妃様が心配そうに仰った。確かにそうだ。やった事はだいぶまずいが、証拠はまだない。
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