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3 生還
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海に落ちた……
静寂につつまれている。心地よい感覚だ。祀鶴歌と劉は意識を失っているようだ。このまま終わってしまってもいいか……
祀鶴歌がふわりと目をあけ,近づいてくる。あたしの体を強く揺さぶる。命あることの証明としての苦しみが襲来する。息を吸いたい!
あたしは生の領域へ戻りながら海底を見た。祀鶴歌が劉を気づかせた。
劉が祀鶴歌の手首をつかみ,自分の胸にひきよせた。祀鶴歌は苦しげにもがき,のがれようとするが,劉の腕から脱出できない。
祀鶴歌と目があった。助けてくれと言っている。
あたしは祀鶴歌を見据えたまま海上へとのぼっていった。分かってたはずでしょ,あたしがこういう人間だってことは。
劉が祀鶴歌を覗きこんだ。……戻っていいのかと問うたように思う。祀鶴歌は戻りたいと答えた。劉は祀鶴歌に命の源を分けてから一気に喧騒の外界へと後戻りをはじめた。
海面に浮上すると,大中華エアラインが大規模な捜索隊を編成して生存者の救出にあたっていた。あたしたちを発見し,そのうちの1人がかの御曹司であることが知れるなり,歓喜の声がわいた。
救命ボートに這いあがる。祀鶴歌と視線がかちあった。「よかったね――本当によかったよ,未琴ちゃん」唇だけで笑う。
「大丈夫か?」祀鶴歌の腕を,劉がつかんだ。その肩越しに,33フィートを優に越すクルーザーの近づいてくるのが見える。クルーザーが停止すると,タラップがゆっくりおりてきて静止した。
光の微粒子を巻きこみながら水飛沫が視界に散った。海面に白い弧状のうねりをつくって水上バイクが横づけにとまる。バイクに跨ったまま,ヘルメットを脱いで,波うつ軽めの髪を振りはらってから女は声を弾ませた。
劉の全身にはりめぐる神経の糸のようなものが一瞬だけ緩んだ。
祀鶴歌が劉の腕を振りほどき,女に体あたりする。
女は海に落ちた。
祀鶴歌があたしに来いと叫びながらバイクに飛びのったが,同時に劉が襲いかかり諸共海に落ちた。二つの体が海の底へと沈もうとする――
「溺れてしまう!」祀鶴歌が悲鳴をあげた。
「一緒に海の藻屑となろう。本来そうなる運命だったのだから」劉が祀鶴歌を抱きすくめる。
「助けて!――もう一度だけ!――逃げないから絶対に!」
祀鶴歌は劉にかかえられてクルーザーに乗せられた。
静寂につつまれている。心地よい感覚だ。祀鶴歌と劉は意識を失っているようだ。このまま終わってしまってもいいか……
祀鶴歌がふわりと目をあけ,近づいてくる。あたしの体を強く揺さぶる。命あることの証明としての苦しみが襲来する。息を吸いたい!
あたしは生の領域へ戻りながら海底を見た。祀鶴歌が劉を気づかせた。
劉が祀鶴歌の手首をつかみ,自分の胸にひきよせた。祀鶴歌は苦しげにもがき,のがれようとするが,劉の腕から脱出できない。
祀鶴歌と目があった。助けてくれと言っている。
あたしは祀鶴歌を見据えたまま海上へとのぼっていった。分かってたはずでしょ,あたしがこういう人間だってことは。
劉が祀鶴歌を覗きこんだ。……戻っていいのかと問うたように思う。祀鶴歌は戻りたいと答えた。劉は祀鶴歌に命の源を分けてから一気に喧騒の外界へと後戻りをはじめた。
海面に浮上すると,大中華エアラインが大規模な捜索隊を編成して生存者の救出にあたっていた。あたしたちを発見し,そのうちの1人がかの御曹司であることが知れるなり,歓喜の声がわいた。
救命ボートに這いあがる。祀鶴歌と視線がかちあった。「よかったね――本当によかったよ,未琴ちゃん」唇だけで笑う。
「大丈夫か?」祀鶴歌の腕を,劉がつかんだ。その肩越しに,33フィートを優に越すクルーザーの近づいてくるのが見える。クルーザーが停止すると,タラップがゆっくりおりてきて静止した。
光の微粒子を巻きこみながら水飛沫が視界に散った。海面に白い弧状のうねりをつくって水上バイクが横づけにとまる。バイクに跨ったまま,ヘルメットを脱いで,波うつ軽めの髪を振りはらってから女は声を弾ませた。
劉の全身にはりめぐる神経の糸のようなものが一瞬だけ緩んだ。
祀鶴歌が劉の腕を振りほどき,女に体あたりする。
女は海に落ちた。
祀鶴歌があたしに来いと叫びながらバイクに飛びのったが,同時に劉が襲いかかり諸共海に落ちた。二つの体が海の底へと沈もうとする――
「溺れてしまう!」祀鶴歌が悲鳴をあげた。
「一緒に海の藻屑となろう。本来そうなる運命だったのだから」劉が祀鶴歌を抱きすくめる。
「助けて!――もう一度だけ!――逃げないから絶対に!」
祀鶴歌は劉にかかえられてクルーザーに乗せられた。
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