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9 祀鶴歌は男なのに
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劉からランチの誘いがあった。
何を着ていこうかと相談を受ける。どうせなら最高にかわいくしてやると決めた。それで祀鶴歌の女装に精魂をこめる。必要なものは劉の使用人に伝えれば何でも揃った。注文しないうちに劉の見たてだという衣装や靴やアクセサリーが幾つも届けられた。
祀鶴歌はレースふりふりのメイド服を想わせるワンピースをとりあげてしげしげと眺めている。
病状が出たときの修羅場を思いだす。別人格を眠らせているといっても,本人自身にそうした気があるに違いない。こうした衣装を贈ってくる劉もどうかしている。
「どうかな,これ」鏡の前でワンピースを体にあわせ,しゃなりしゃなりと歩いてみせる。「よく似あってる――ふふふふふふふ」
キモすぎる。
メイド服は却下してピンクのドレスを推した。同系色のチークとルージュをさして髪も内巻きにカールする。清楚なデザインのイヤリングとネックレスのセットを選択し,水晶でつくられたパンプスを履かせた。
「くわぁいいぃー」鏡のなかの自分にむかってウインクすると,握った両手を口もとに寄せ,お尻を振っている。
そうした態度はやはり気持ち悪いが,自分のコーディネートした成果だと分かっているせいなのか,妙に愛らしく感じられた。
「未琴ちゃんはどうするの? まさかパジャマはないでしょう」
「あたしは無理。気どった状況,苦手だから」
「ただの食事会だよ。堅苦しいものじゃない」
「パス」
「出席しないつもり?」
「悪い?」
「悪い。世話係が主人についていないなんて絶対におかしい」
「ジーンズの上下,乾いてないし。朝に洗ったばっかだもんね」
「ここにあるドレスのどれかを着ていけばいいじゃない。これなんかどう?」メイド服をひらひらさせる。
「いやよ! 絶対無理!」
「じゃあ,これは? これ,いいよ……」感嘆しながら生地を撫でまわす。見れば,スカート丈の甚だ短いシースルードレスだ。ランジェリーまがいのそれをつけて劉を喜ばせてやればいい――あんたがね。拳を突きあげる。
「あ,やめて……」女子っぽい口調で言って頰を染めた。
問答を繰りかえすうちに正午まで20分を切った。仕方なく足をすっぽりおおいかくす黒のチャイナドレスを選び,おさげ髪を解き,アップスタイルに祀鶴歌が結いあげてくれた。
使用人がやってきてランチの場所の変更を告げた。急遽,大中華エアラインの関係者も出席することになったという。
会場へとむかった。スカートなんて4年ぶりぐらいだ。普段はジーンズばかり穿いているせいで居心地が悪い。それに踵がないという理由だけで選んだサンダルの底が厚すぎて歩けたものではない。
エレベーターに乗ろうとしてドレスの裾を踏んでしまった。転倒しかけたが,祀鶴歌に抱きとめられる。
平気かと尋ねるありさまときたら,姿勢を斜めに傾け,足をひらき,ドレスの裾が捲れあがってしまっている。
「駄目じゃん,そんな格好しちゃ」耳打ちすると,慌てて祀鶴歌は足を閉じた。
「エスコートさせてください」眼前に掌がさしだされる。きめ細やかな皮膚につつまれているが,節くれだった指をもつ大きな手だった。
後方に体が逃げた。視線をあげる。
手をさしのべる明るい髪色の男が驚いた表情をした。
「大丈夫です。ありがとう」祀鶴歌は男の申し出を断って,あたしを助けおこした。
言葉に出して示しあわせたわけではなかったが,あたしが祀鶴歌を先導している風を装って,実はあたしが祀鶴歌に支えられながら,2人は時間をかけて移動した。
祀鶴歌と腕を組んでいた。何の抵抗もなく……。祀鶴歌は男なのに拒否反応は出ない。いつからだろう,祀鶴歌に触れられても平気になったのは。
思えば昨日から色々なことがあった。彼に接触したからといって,いちいち過敏になっている暇がなかったのかもしれない。ときには荒療治も必要だということか……
何を着ていこうかと相談を受ける。どうせなら最高にかわいくしてやると決めた。それで祀鶴歌の女装に精魂をこめる。必要なものは劉の使用人に伝えれば何でも揃った。注文しないうちに劉の見たてだという衣装や靴やアクセサリーが幾つも届けられた。
祀鶴歌はレースふりふりのメイド服を想わせるワンピースをとりあげてしげしげと眺めている。
病状が出たときの修羅場を思いだす。別人格を眠らせているといっても,本人自身にそうした気があるに違いない。こうした衣装を贈ってくる劉もどうかしている。
「どうかな,これ」鏡の前でワンピースを体にあわせ,しゃなりしゃなりと歩いてみせる。「よく似あってる――ふふふふふふふ」
キモすぎる。
メイド服は却下してピンクのドレスを推した。同系色のチークとルージュをさして髪も内巻きにカールする。清楚なデザインのイヤリングとネックレスのセットを選択し,水晶でつくられたパンプスを履かせた。
「くわぁいいぃー」鏡のなかの自分にむかってウインクすると,握った両手を口もとに寄せ,お尻を振っている。
そうした態度はやはり気持ち悪いが,自分のコーディネートした成果だと分かっているせいなのか,妙に愛らしく感じられた。
「未琴ちゃんはどうするの? まさかパジャマはないでしょう」
「あたしは無理。気どった状況,苦手だから」
「ただの食事会だよ。堅苦しいものじゃない」
「パス」
「出席しないつもり?」
「悪い?」
「悪い。世話係が主人についていないなんて絶対におかしい」
「ジーンズの上下,乾いてないし。朝に洗ったばっかだもんね」
「ここにあるドレスのどれかを着ていけばいいじゃない。これなんかどう?」メイド服をひらひらさせる。
「いやよ! 絶対無理!」
「じゃあ,これは? これ,いいよ……」感嘆しながら生地を撫でまわす。見れば,スカート丈の甚だ短いシースルードレスだ。ランジェリーまがいのそれをつけて劉を喜ばせてやればいい――あんたがね。拳を突きあげる。
「あ,やめて……」女子っぽい口調で言って頰を染めた。
問答を繰りかえすうちに正午まで20分を切った。仕方なく足をすっぽりおおいかくす黒のチャイナドレスを選び,おさげ髪を解き,アップスタイルに祀鶴歌が結いあげてくれた。
使用人がやってきてランチの場所の変更を告げた。急遽,大中華エアラインの関係者も出席することになったという。
会場へとむかった。スカートなんて4年ぶりぐらいだ。普段はジーンズばかり穿いているせいで居心地が悪い。それに踵がないという理由だけで選んだサンダルの底が厚すぎて歩けたものではない。
エレベーターに乗ろうとしてドレスの裾を踏んでしまった。転倒しかけたが,祀鶴歌に抱きとめられる。
平気かと尋ねるありさまときたら,姿勢を斜めに傾け,足をひらき,ドレスの裾が捲れあがってしまっている。
「駄目じゃん,そんな格好しちゃ」耳打ちすると,慌てて祀鶴歌は足を閉じた。
「エスコートさせてください」眼前に掌がさしだされる。きめ細やかな皮膚につつまれているが,節くれだった指をもつ大きな手だった。
後方に体が逃げた。視線をあげる。
手をさしのべる明るい髪色の男が驚いた表情をした。
「大丈夫です。ありがとう」祀鶴歌は男の申し出を断って,あたしを助けおこした。
言葉に出して示しあわせたわけではなかったが,あたしが祀鶴歌を先導している風を装って,実はあたしが祀鶴歌に支えられながら,2人は時間をかけて移動した。
祀鶴歌と腕を組んでいた。何の抵抗もなく……。祀鶴歌は男なのに拒否反応は出ない。いつからだろう,祀鶴歌に触れられても平気になったのは。
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