23 / 24
23 松平の島
しおりを挟む
夜明けに燃料が切れ,何時間も漂流した。頭上に真夏みたいな太陽がぎらついている。意識が朦朧としていた。
ぐらりと船尾がもちあがり,割れた海面に水飛沫があがった。巨大な影が船体の上を縦に横ぎる。しろがねを帯びた,あのサメだった。
島からずっと獲物を追跡してきたのだ。なんという執念深さ――
船体に激突する――船底を突きあげる――船首に食らいつき,牙を突きたて船を横倒しにした。
水中に滑りおちたが,ボートのへりに這いあがり悲鳴を発した。
紡錘形の胴体が一挙に乗りあがってくる。一たまりもなかった。大破するボートとともに海に沈む。サメの生臭いにおいを嗅いだ。尖った目が翻る。
祀鶴歌,ごめん……
サメの牙を掠めながら,それはあたしの体を奪った。
別のサメか!――
人を銜えて瞬間移動するみたいに海中を稲妻形に切りさくと,鈍色の密集体に紛れこみ,超高音の声を発する。群れの仲間も声をあわせた。
獲物を横どりされたサメは牙をおさめるなり,尾鰭をかえし,濁った水底へ瞬く間に消えた。
銜えられたまま海面に浮上する。それは丸みを帯びた嘴でちょんちょんと突っつきながら,滑らかな頭から背中へと人体を上手に移動させた。視線があった――愛くるしい瞳をしている。あたしが背びれをつかむと,彼は遊泳をはじめた。仲間も動きだし,群れが推進していく。海上を埋めつくすイルカの大群に水先案内を受けていた。
視界の遥か彼方に陽炎が漂った。音もなく円盤状の人工物が海のなかから現出したのだ。それは戦闘機やヘリコプター,数種の船を搭載していた。
白昼の海に立つ陽炎は次第に諸々の輪郭を鮮明づけて規則的な機械音と塗料のにおいや化学性の燃焼臭を届けながら,現実の航空母艦へと化した。
空母からのびる飛行甲板の果てにイルカたちが集束した。鉄製梯子に手をかけて上へ上へとよじのぼる。ようやく甲板へと這いあがり,空母に上陸した。
イルカたちが鳴きながら遠ざかっていく。さようなら――手を振った。あたしを助けたイルカが最後まで留まって,幾度も振りかえりつつ波間に姿を隠した。
「ポセイドンを味方につけるとは大したもんだ」髪をなびかせて女が立っていた。眼鏡をかけてはいないが,引率の女役人だ。
「あんた……」
「ようこその松平の島へ」女役人は黒目勝ちの瞳を爛々と輝かせた。
ぐらりと船尾がもちあがり,割れた海面に水飛沫があがった。巨大な影が船体の上を縦に横ぎる。しろがねを帯びた,あのサメだった。
島からずっと獲物を追跡してきたのだ。なんという執念深さ――
船体に激突する――船底を突きあげる――船首に食らいつき,牙を突きたて船を横倒しにした。
水中に滑りおちたが,ボートのへりに這いあがり悲鳴を発した。
紡錘形の胴体が一挙に乗りあがってくる。一たまりもなかった。大破するボートとともに海に沈む。サメの生臭いにおいを嗅いだ。尖った目が翻る。
祀鶴歌,ごめん……
サメの牙を掠めながら,それはあたしの体を奪った。
別のサメか!――
人を銜えて瞬間移動するみたいに海中を稲妻形に切りさくと,鈍色の密集体に紛れこみ,超高音の声を発する。群れの仲間も声をあわせた。
獲物を横どりされたサメは牙をおさめるなり,尾鰭をかえし,濁った水底へ瞬く間に消えた。
銜えられたまま海面に浮上する。それは丸みを帯びた嘴でちょんちょんと突っつきながら,滑らかな頭から背中へと人体を上手に移動させた。視線があった――愛くるしい瞳をしている。あたしが背びれをつかむと,彼は遊泳をはじめた。仲間も動きだし,群れが推進していく。海上を埋めつくすイルカの大群に水先案内を受けていた。
視界の遥か彼方に陽炎が漂った。音もなく円盤状の人工物が海のなかから現出したのだ。それは戦闘機やヘリコプター,数種の船を搭載していた。
白昼の海に立つ陽炎は次第に諸々の輪郭を鮮明づけて規則的な機械音と塗料のにおいや化学性の燃焼臭を届けながら,現実の航空母艦へと化した。
空母からのびる飛行甲板の果てにイルカたちが集束した。鉄製梯子に手をかけて上へ上へとよじのぼる。ようやく甲板へと這いあがり,空母に上陸した。
イルカたちが鳴きながら遠ざかっていく。さようなら――手を振った。あたしを助けたイルカが最後まで留まって,幾度も振りかえりつつ波間に姿を隠した。
「ポセイドンを味方につけるとは大したもんだ」髪をなびかせて女が立っていた。眼鏡をかけてはいないが,引率の女役人だ。
「あんた……」
「ようこその松平の島へ」女役人は黒目勝ちの瞳を爛々と輝かせた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる